どうしてこうなった?
頭の中で何度も考えるが答えは出ない。
状況の理解が追いつかない、本当にどうしてこうなった。
春の穏やかな空気が流れる昼下がり。
そいつは突然やってきた。
「ごめんね啓太くん……でも、啓太くんが悪いんだよ……」
耳鳴りがする。
キンキンと甲高い音が鳴る中、聞こえてきたのは少女の声。
声は震えて、動揺が隠しきれていない。
「どうして私の気持ちに気づいてくれないの? どうして答えてくれないの?」
視界に絶世の美少女が映る。
見てくれは良いと思う。しかしその中身は絶望的だ。
なぜそう思うのかって?
答えは簡単、少女は俺の腹に包丁を突き刺してきたのだ。普通に終わってるだろ。
「っ……!」
意識した途端に刺された腹が激痛を訴えてくる。「このままじゃお前死ぬよ」と大量の血を流して訴えてくる。
「私はこんなに啓太くんの事を愛してるのに……あの女なんかよりも! 何倍も、何十倍も何百倍も!!」
少女が俺の上に跨る。
そうして綺麗な瞳にたくさんの涙を溜めこんでそう叫んだ。
なんでお前が泣くんだよ。泣きたいのはこっちのほうだ。これじゃあこっちが悪者みたいじゃないか。
不満は口に出せない。
苦しくて仕方がなくて、上手く呼吸が出来ない。
無理やり呼吸をしたら「こひゅ」という変な音と共に口から大量の血が吹き出た。
「でも、もうどうでもいいよね。だってこれから私と啓太くんは一つになるんだもん」
恍惚とした少女の表情。
何を言っているのかよく分からない。
「安心してね、啓太くん。啓太くんだけに寂しい思いはさせないよ。私も直ぐに
少女の綺麗な瞳とこちらの目がかち合う。
夜空を思わせるどこまでも深い黒紫の瞳。そこには狂気が満ちていた。
「かさね……あい……」
忌々しい名前を呼ぶ。
ようやく声が出たというのに口に出した言葉がこれとは、後になって後悔した。
「っ!! 啓太くん……!!」
ほら、普段は絶対に呼ばない名前をこんなタイミングで呼べばこの女が喜ぶことなんて分かりきったことだろう。
……本当にどうしてこうなった。
視界が眩む。
依然として腹からはドクドクと血が流れる。流れた血がベタベタと体にまとわりついて気持ちが悪い。
だと言うのに俺に跨った少女は俺の血を見て嬉しそうだ。
「これが啓太くんの血…………とっても綺麗。今からこの血と私の血が混じり合うんだ……」
何を言っているのかよく分からない。よく分からないけれど碌でもないことを言っているのはわかった。
意識が遠のいていく。
自覚する。
これから自分は死ぬのだと。
納得できなかった。
どうしてここで死ななきゃいけないのかと。どうして最後に看取られる相手がこの女なのかと。どうして今日なのかと。
後悔が残る。
まだやり残したことがある。やりたいことが沢山あった。親孝行もできていない。こんなたかが17年かそこいら生きたくらいで満足できるはずがない。
ああ……最後くらい、あの人に気持ちを伝えてから死にたかったな……明日なんかじゃなくて、今なら言える気がするんだ。
脳裏に浮かぶのは俺が恋に落ちた人。
1年間という短い時間だったけれども本気で好きだった。こんなに人を好きになったのは初めてだった。
「ふざけんな───」
決死の思いで言葉を紡ぐ。
もう時間はない。けれどもこれだけは言ってやる。
俺に跨った少女は嬉しそうに俺を見つめた。
「───絶対にお前を許さない……」
「うん! 愛してるよ、啓太くんっ!」
俺の最後の怨嗟の声に少女は笑顔で答えた。
狂ってる。
どうしてこの状況でこの女はこんな事が言える? 理解できない。
そこで意識が完全に遠のく。
最後に抱いた感情は「恐怖」だった。
それも死に対するモノではなく、一人の少女に対するモノ。
まったくロクな人生ではなかった。
どうして俺がこんな目に合わなければいけないんだ。
……願わくば次の人生ではこんなハードモードな人生は勘弁して欲しい。
もう、ヤンデレに追い回されるのなんて御免だ。
こうして、潔啓太は享年17歳という短すぎる歳でこの世を去った。
死因は同じ高校に通う女子生徒からの刺殺。
所謂、ヤンデレと言うやつに殺されてしまった。
だが、この物語はここから始まる。
これは俺が──潔啓太が目の前のヤンデレ女、