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第4話 生えちゃいました



「──ええ、はい、ほんとに大丈夫です。今日はお勉強ほどほどにして、早めに休むことにします」



引き戸の向こう側のお母様に本日二度目の言い訳をかさね、痛む小さなこころを抑えつつ。

私は姿見かがみの前におしりを向けていました。



「おやすみなさい、お母様」



お母様の気配が遠のくのを確認して、水色の下着を半ばまで降ろします。

清楚系にあるまじき行いのような気もするけど、誰も見ていないのでギリセーフとします。



「あうう、やっぱり……」



完全に、生えていました。

鏡の中で下着から覗いた白い双丘おしりの上、尾てい骨の根っこあたりから伸びるそれは、USBケーブルほどの太さで黒みがかった紫色、長さは1メートルぐらい。

先端さきっぽは手のひらにすっぽり収まるサイズで、ハート型の矢じりになっています。



──そしてすぐに私は、サキュバス わたし の記憶から、前世 かつて は当たり前に生えていたこの尻尾しっぽの動かしかた、使いかたを思い出していました。



記憶のとおり、尻尾は手足のように思うがまま動く。

それが伸縮自在であることを確認すべく、しゅるしゅると目の前に、ぷっくり厚みのある先端ハートを持ってきます。



指先でつんつん突ついたり、そっと摘まんでみると、それは耳たぶみたいに柔らかくて触りごこちがよい。



じつはこの先端ハートがたいへんに優れモノで、吸着したり、振動したり、膨張!?したり……などなどできてしまうため、サキュバス わたし 多種多様あんなこと手当次第こんなことに駆使していました。



でも、どこまで本物オリジナルと同じことができるか、ためすのは今はやめておこう。

なにかの一線を踏みこえてしまいそうな、恐れと戸惑いがブレーキをかけます。



しゅるしゅると最短まで縮めると、先端ハートはお尻の上にぴったり張り付いた状態になります。

下着を上げればしっかり隠せたので、日常生活の邪魔になることはなさそう。

だって清楚系なわたしが他人になまお尻を見せることなんて、ありえませんから。



と、そのタイミングで勉強机のスマホがヴヴッと振動し、着信を知らせてきました。

ためしに、尻尾を再び伸ばしてスマホに吸着させてみます。

すこし平たく吸盤状に変形した先端ハートは液晶画面にぺたりと張りついてホールドし、そのまま悠々と手元まで運ぶことができました。



……こ、これはべんりすぎる……人をだめにするものでは……。



『心配させてごめんなさい』



LINEで送られてきたのは、わたしの同級生にして数少ないお友達であるあやさんからのメッセージ。

前にも触れたように、彼女は最近なにかに悩んでいるようで心配なのですが、なかなか深いことは話してくれずやきもきしていました。

以前はあんなに、いろんなお話をしてくれたのに。実は時代劇が大好きだとか、秘めた恋心のことだとか。



『あした学校いくから』

『おはなしきいてね』



メッセージはそう続きます。ようやく、話してくれる気になったのかも。

私に何ができるかわからないけど、とにかく真剣に向き合いたいと思います。

友情を大切にすることも、清く正しい清楚系の生き方の一端だとお母様から聞かされています。



『またあした、学校でね』『おやすみなさい』



その返信にいつまでも既読がつかないことは気になったけれど、これ以上お母様への言葉おやすみを偽りたくもないので、今夜はこれで休みます……。



いろいろあって疲れていたのか、ベッドに潜り込んだのと同時に、私の意識は心地よい暗闇のなかに呑まれていきました。

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