カラオケに行って発散しようと思っていたが、仕事が忙しくて忙殺された。
終電で帰ることになって、食事も適当にすませるほかないと思っていたら、「今日は当番だから」といって部屋に来た興水が、二人分の食事を作ってくれたので、なんとか食事にはありつくことが出来たのは、ありがたい。
部屋は酷い状態の興水だが、料理は好きらしい。
「好きな人にしか作らないよ」と言われて出されたのは、パスタだった。ほうれん草とベーコンのクリームパスタは美味しかった。凝った料理をつくるものだ……と思っていたら、
「コンビニの材料で出来るのは、圧倒的にクリーム系なんだよ」
ということだった。
なるほど、バター、生クリーム、牛乳、チーズの類いはコンビニで購入出来る。ほうれん草は冷凍。ベーコンも売っている。
市販のパスタソースを使わないのは、味わいが苦手だと言うことらしい。
0時過ぎに、パスタを食べることには、少々抵抗があったが、何も食べないで寝るよりは良かった。それに、誰かが一緒にいる事に慣れてしまって、昨夜のようにごちゃごちゃと考えずに済んだ。
ともあれ、食事をとって、シャワーを浴びたら寝るだけだった。
そして、二人、当然のように同じベッドに寝ている。これだけは、本当に良いのかと思うが、口には出せないでいる。
「……なあ」
部屋の電気を落としてしばらくした頃、興水が、不意に、聞いてきた。
「なに?」
「お前、今日……なんかイライラしてたみたいだけど、何かあった?」
「あー……カラオケ行こうと思ってて」
「カラオケ? 何で、一人で?」
「そーだよ」
意外そうな興水の声に、少々、苛立ちながら、達也は答える。
「……なんで」
「ストレス、溜まってて」
「……ああ、まあ、神崎さんのこととか、……いろいろあるだろうし、いまも、ずっと、俺と凪が一緒にいるから、気詰まりだろうけど」
興水が申し訳なそうに言うのが、かえって達也を、申し訳ない気分にさせた。
「そうじゃなくて。二人には感謝してるんだけどさ……最近、ゴミを荒らされてるんだよ」
「えっ?」
興水が息を飲んだのが解った。「ゴミって……生活ゴミ?」
「そう。それで、管理人さんから色々言われてて……最初、身近なストーカーの仕業かと思ってたんだけど」
「俺じゃないよっ!!」
興水が声を荒らげる。耳元がうるさい。
「うん、お前じゃなさそうなのは、理解してる。だから……なんなんだろうって」
「いつから?」
「……しばらく前」
「神崎さんってことは……?」
「少なくとも、神崎さんに再会する前からだよ」
「……じゃあ、神崎さんが、誰かに、やらせてたとか」
それも、少しは考えたが、やはり、現実的ではない気がする。
「神崎さんが調べさせるなら、プロに頼むでしょ。探偵とか、いろいろ。なら……ゴミ漁りをするとも思えないし、したとしても、証拠は残さないと思う。だから、素人の仕業」
「確かに……」
「それで、朝から、イライラして、ストレス解消方法を調べたら、カラオケって出てきたからさ」
「なるほど……」
「まあ、仕事優先だから……。それに、俺のストレスの八割は、神崎さんだし。……きっと、イベントが終わったら、解消するだろうと思って」
そうか……と、興水は呟く。「それで解消出来れば良いんだけどな」
「わからないけど、今は、仕事優先だから。……それでいい」
「……あんまり、無理はしないで欲しいよ」
「それは、しないから大丈夫……って、おいっ」
興水が、背中から抱きついてきた。温かくて、居心地が良い。それが、困った。
「……興水」
「他人の体温も……ストレス解消には良いらしいよ」
興水の声が、耳元に聞こえた。
「そういう、もんなの?」
「そうそう。……暖かいのは、ストレスには良いらしい……まあ、まずは、眠りな。ゴミ漁りは、監視カメラとか付いてるなら、見せて貰うとか、ないなら付けるとか。そうやって調べるしかないね」
「なるほど、そういう手があったか……」
「そうそう。管理人さんに、俺も一緒に言ってあげるから」
「なんでお前が……」
「だって、一応、直属じゃないけど上司だし。会社の上司にも相談して、監視カメラで確認して貰いたいという話しをしたなら、それは向こうも、簡単には断れないでしょ」
たしかに、それはそうだ。
「けどさ、費用とか……」
「まあ、なんなら、俺から出すよ」
「そんなのは困るって」
「気にするなよ。……好きな人の為に使う金なら、惜しくはないよ」
好きな人、という言葉が、やけに甘く響いて、達也は困った。
興水のことは、嫌いではないが―――それは恋愛感情ではない。けれど、こうやって、弱ったところに、するっと忍び混んでくる。
そこに付け込む人間でないことは理解しているが……。
甘えたくなる弱さを知って、達也は、唇を噛んだ。