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第77話 ビジネス・トップサイト


 興水と思いがけずに楽しくラーメンを食べて、帰宅した達也は、なんとなくテレビを付けた。


 普段、あまり見ないが、たまに人の声やざわざわした雰囲気が欲しくなるときがある。そう言うときは、動画よりもテレビの方が適しているように感じていた。


 ブロック局の放送が流れている。深夜に差し掛かってニュースも終わり、ビジネス系の番組が始まっていた。


『次の次代を担う新しいリーダー、プロジェクトをご紹介する、ビジネス・トップサイト。生放送でスタジオからお送りしております。

さて本日のナビゲーターは……』



 アナウンサーと司会者らしい二人組が番組を始める所だった。


 若くて美しい女性アナウンサー、それと、初老の男性司会者。この構図に、ある程度の安心感を覚える人がいることに、少々の疑問を感じつつ、達也はスーツを脱いでハンガーに掛ける。それほど高価なスーツではないので、手入れをキチンとしている訳ではなかった。たまに、ブラシを掛けると良いと量販店に言われて、そうしているくらいだ。


 部屋着に着替えて、テレビを見た達也は、驚いて、思わず持っていたスマートフォンを落としてしまった。


 テレビには、神崎が映っていた。



『ご紹介頂きました、ORTUSのヨーロッパ支社長、神崎玲一です』


 テレビの中で、神崎は、やんわりと笑んでいる。テロップで、簡単な略歴が映し出されていた。入社年、経歴。現在は、ヨーロッパ支社長兼、本社役員。


『神崎さんは、ヨーロッパのイメージがありましたが……』


『今は、グローバルの時代ですからね。日本がヨーロッパに進出するに当たって、ここの連携を強化することが今まで以上に重要になってきます。特に、欧州規格やEUの諸法律など、肌感覚で馴染んでいる人間が日本のフロントとやりとりすることで、ここを強化出来ます。今後の新製品についても……』


『新製品といえば、今度、ORTUSさんのほうで、イベントがあるとか』


『ええ、大規模な製品展示を兼ねたカンファレンスのようなものを企画しています。こちらで、我々のビジョンなどを共有出来ればと考えて居ます』


 イベントの日時が、テレビに表示される。達也も関わっているイベントだ。

 達也は、床に転がったスマートフォンを手に取って、興水に連絡することにした。


「よお、今日は、ラーメン屋、楽しかった」

『あっ? ああ、楽しかったなら良いが、ちょっと食い過ぎたな。それでどうした、忘れ物でもしたか?』


「いや、そうじゃないんだ。いま、テレビに神崎さんが出てる」

『えっ』


 慌てて興水がテレビを付けているのが解った。……が、あの部屋で、どうやって、テレビを付けるのか、そこは気にしないことにした。


「俺らの参画するイベントの告知も打たれたけど……これ、うち的には話聞いてた?」


『いや、全然聞いてない』

「だよなあ。これ、一般もあるって聞いたけど、あんまり来場ないと思って、一般の分は気にしてなかったんだよね……。これは……、ちょっと、数とか、導線とか万が一の時のこと考えておかないとマズイかもなあと思ってさ」


『本当だな……これはちょっと……』

「まあ、とりあえず、それだけなんだ」


『うん、連絡ありがとう。でも……なんで俺? まあ、俺的には嬉しいんだけど』


 興水に言われて、達也は困惑する。別に、理由はなかった。話が早いし、今しがた別れたばかりだから寝ていないのも確定していたし―――。


「藤高さん、寝てるかも知れないし」

『そっか……じゃあ、おやすみ』


「うん、おやすみ」

 挨拶をして電話を切ってから、五分も経たないうちに、今の情報が共有に上げられている通知が来た。興水の仕事の速さに驚きつつ、達也は、テレビのチャンネルを回す。芸人達がなにか話をしているようだった。最近の人気芸人くらいは名前くらいは把握して、ちょこちょこネタを動画で確認はしているが、顔と名前が一致しなくて、良くわからない。


 上司である藤高か、興水に連絡するのは、当たり前のことだった―――が、凪には相談すると言うことを全く考えなかった。


(まだ、友達と飲んでるのかも知れないし……)

 そう思うと、なんとなく、連絡もしづらいような感じだ。


 達也が知らない、友達。

 どういう関係の人なのだろうと、考えて、なんとなく、もやもやする。もやもや、などする資格はないのだ。


(だって、あいつとは……別に恋人でも何でもないし……)

 年下の、部下で、それ以上の関係は、達也のほうが望まなかったのだ。だから、凪の事を、達也が、詮索することは出来ないはずだった。


(なんで、凪の事がこんなに気になるんだろう……)

 シャワーを浴びて、ベッドに寝転がってから、達也は久しぶりに一人で眠ると言うことに気が付いた。


 最近は、ずっと、凪か興水が一緒だった。久しぶりの一人の部屋は、なんとなく、落ち着かない気持ちになった。本当だったら、凪がいたはずなのに……と思った達也は、大分、凪に依存していると言うことを、今更ながらに自覚したのだった。



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