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第15話 一回だけ

 凪が何を言ったのか、最初、達也は理解出来なかった。

 ぼんやりしている達也に、凪が冷たく告げる。


「あの人……興水課長、最初っから、同室にするつもりだったんですよ、達也さんと」

「えっ? でもそれ、興水になんのメリットが?」


 男同士だし、すこし話すことがあるくらいの、ただの同期という関係だし。首を捻る達也を、凪がフッと嗤った。


「なんだよ」

「達也さん、鈍いですよね。俺も、ずっと、誘いたくて溜まらないのに、気付いてないみたいだし」


「お前が、俺とヤりたいのは解ったよ……でも、他に相手がいるだろ? 俺だって、気軽に遊びたい。重たいのは、嫌なんだよ。それより、寝るぞ。俺はシャワーを浴びてくる……っ」

 凪に、手を取られた。


「おい」

「遊びで良いって言ってるじゃないですか」

「そういうタイプじゃないだろ、お前」

 凪が睨みつけてくる。


「なんで、俺なんだよ。他にもいるだろ」

「俺は、達也さんが良いって言ってる。ずっと平行線だ。いつも、達也さんは逃げるんだ」

「なんだよそれ」


「……遊びが、嫌なら、本気でお願いします」

「めちゃめちゃだよ、お前っ!」

 思わず怒鳴ったとき、ぐい、と腕を引かれた。そのまま、キスされる。抵抗しようとしたが、腰をガッチリと引き寄せられて、身体が密着している。

 その狭間に、熱くて硬度を伴った感触があった。


「っ!! 放せよっ!!」

 唇が離れた瞬間、突き飛ばそうと思ったが、凪に、とんっと胸を押された。


「えっ!?」

 思わぬことだったので、容易くバランスを崩す。背中から落ちたのは、ベッドの上だった。ワンバウンドして、凪が覆いかぶさって来たので起き上がることはできなかった。


「っ!!!」

「泊りがけで出張なら、こういうこともあるんじゃないですか? 良いじゃないですか。手っ取り早い相手だって思ったら……」

 勝手なことを言いながら、凪の手が、達也の服の中へ入ってくる。


「っ!!」

 肌を探られて、身体が、ビクッと跳ねた。


(久しぶりだから……)

 思わず反応してしまう。


「俺、達也さんが、すごく可愛い反応するの、見るの、ハマってるんです。いつでも見返して見てたいくらい」

 耳元に、凪がささやく。名前は、凪だが、嵐のようだ。ささやきに乱されて翻弄されそうだった。


「なにを、言ってやがる……」

「今日の思い出に、写真とか動画撮りたい。なんで、前の時、やらなかったんだろ」


「はっ? ちょっ……っそれ、ぜったにやめろよっ!! どこから流出するか解らないんだから……」

「もちろん、しないけど……残念。毎日思いかえしてるけど、だんだん、記憶が薄れてくるんだもん」


 凪が、コメカミにキスをしてくる。

「っ……っ!!」


「あっ、達也さん、コメカミ、好き?」

「はっ? そんなことはないっ!」

 怒鳴りつけてみると、今度は、しつこいくらいにコメカミにキスが落とされる。そのたびに、過剰に反応してしまうのが悔しくて、達也は唇を噛む。押しのける事は出来ない。そして、達也のほうも、凪の欲望に反応している。それも悔しい。


 凪が、小さく笑った気がした、全部、見透かされているようで、悔しい。

 なにより、もう抵抗するつもりがなくなっていることが悔しい。


「……一回だけ」

 一回だけなら、ただの処理みたいなものだから……と、訳の分からない言い訳を自分自身にしながら、達也は、小さく、呟く。

 凪が、達也の中心に手を伸ばす。


「無理」

「っ……っ!」

「俺じゃなくて、達也さんのほうが無理でしょ。一回じゃ物足りないでしょ。だって、達也さん、好きだもんね、俺のこと」


 この後の展開を見透かされているようで、それも、恥ずかしい。確かに、久しぶりに他人に触れられている。このまま、一度で、済むはずがないのはわかりきっていた。


「……っお前じゃない。お前の、身体だけだよっ……っ!」

「身体でも、良いですよ。俺たち、セフレですもんね」


 凪がキスをしてくる。深く深く口づけられて、呼気も奪われる。息が出来なくて、苦しいほどで、凪に縋り付く。粘膜が触れあう、そのぬめる感触が淫靡で、腰がざわざわしてくる。


「……っ」

「達也さん、キス好きだよね。次はどこにしようか? どこでも、口で言って。俺がしてあげるから」


 凪は、達也に自分からねだらせたいようだった。いずれ屈してしまうだろうが、余裕綽々の態度に、腹立たしい気分になる。けれど、それに服従する時、なぜか、淫靡な快感を覚えているのは確かだった。


(ああ、こんなはずじゃなかったのに……)

 こいつには、落ちてはいけない。頭では理解しているのに、気持ちが付いていかない。


「達也さん……言って。次は、どこがいい?」

 体中を、触れるか触れないかの微妙なやり方で撫でられていくウチに、あっという間に、昂って、過敏になっていく。コメカミや耳に、尖らせた呼気を拭きかけられるだけで、酷い快感に襲われる。


「……首……」


 首筋。キスされるのが好き。鎖骨も好き。胸も好き。乳首を、舐めて貰うのも好き。


 どこまで口走ったのか、達也もよく解らない。

 一度、堪えていたモノがあふれ出すと、もう、止まらなかった。

 自分から凪に抱きついて、キスをねだる。


 熱くなっていく肌を、止める事は出来なかった。




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