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第3話 思わぬ再会

 ナギとは、きっかり三時間で別れた。


 延長もなし。特に連絡先の交換もなし。


 それで終わると思っていたのが、十月だった。ところが、問題は十二月に発生した。


 そもそも、達也の会社では、内定者が内定辞退することが、社内で問題になっていた。大企業ならばともかく、中小企業は、大抵『保険』で就活をしている事もある。それで、もっと条件の良い会社から内定が出ると、切り捨てられるというのが多発していた。


 それで、内定者を対象とした、インターンが行われた。インターンは、十二月の二週間。そこにやってきたのが、あのナギだった。


 きちんと就活用のスーツに身を包んでやってきたナギを見て、最初、解らなかった達也だが、


「黄色いシャツじゃないから、解りませんでした?」


 と聞かれて、血の気が引いた。


(人のいるところで……っ)


 焦った達也に、周りの人たちが声を掛ける。


「あれ、瀬守さん、水野さんと知り合いなんですか?」


「えっ……あ……」


 なんと返答して良いか解らず、焦る。なにか、言わなければと思えば思うほど焦って、言葉が出てこない。


「あっ、瀬守さんっていうんですね。俺、居酒屋でバイトしてるんですけど、瀬守さん、たまに来てくれるんですよ。それで、覚えちゃって」


 ははっと凪は笑う。まったく、身に覚えのない話だったが、今は、それに乗るしかない。


「バラさないで貰えるかな」


「あ、そーですよね、個人情報でした」


 軽口で応酬しているうちに、気が楽になってきた。とりあえず、凪は、あのマッチングでの関係を、口外するつもりではないのだろう。


 インターン期間は二週間。毎日ではないが、それなりに期間は長い。あまり近付かないように気を付けておいた方が良いが、とりあえず、何か、困ったことにはならないだろうと、達也は胸をなで下ろした。


 インターン期間中、凪は、あちこちで引っ張りだこだった。

 見た目が爽やかで人当たりが良く、笑顔が良い。それだけでなく、気が利くし、雑務もすぐに覚えて、率先して出来ることを見つけてやっていく。


「あ、いらっしゃいませ。お約束をされている方ですか?」


 オフィスの前で右往左往している客を見かければ、率先して声を掛けて案内するし、掛かってきた電話も、一番乗りで応対する。


「はいっ! 株式会社佐倉企画です!」


 対応があまりにも良かったので、二週間後、凪が去ったあとは「最近、ちょっと佐倉企画さん元気がないね」と言われるようになってしまったので、結果、皆、凪のスタイルを真似するようになってしまった。


 明るく元気で優秀。そんな彼がインターンを終えるという日には


「絶対に、我が社に来てくれ」と、役員まで総出で見送る事になったのだった。


 達也も、マッチングの件で、少々不安はあったが、同じ気持ちだった。働いていて、気分良く過ごすことが出来る。そういう相手は、中々居ない。


 インターンの最終日、凪を誘って有志で一時お別れ会をすることにした。凪のバイト先でも良いかと思ったが、別の店。昔ながらの居酒屋で、小上がりの座敷席に、八名ほどが集まった。


「あっ、俺、瀬守さんの隣がいいです!」


 と言いながら、隣に座ってきたのは、悪い心地ではなかった。皆、凪の隣に座りたがっていたからだ。二週間の間に、達也は、凪の事を全く警戒しなくなっていた。


「凪くんは、うちの会社、絶対に来てくれよ!」


 豪快に笑いながら言う、体育会系の先輩に、少々、暑苦しさを感じていると、凪が、「もちろん、絶対に来ますよ」と力強く頷く。


 来年度、入社してくるのか、と感慨深い気持ちになったのもつかの間、凪が、とんでもないことを言い出した。


「俺、瀬守さんと一緒の会社に入りたくて、採用面接終わってたのに、無理矢理、試験受けさせて貰ったんですよ」


「えっ?」


 そんな話は初耳だった。


「えっ、そうだったの? えっ? バイト先で知り合っただけなのに?」


「バ先で、話してたら、すごい気が合うなとおもって。こういう人と一緒に仕事できたら、社会人生活も楽しくなるかと思ったんです!」


「え、……だって、俺、お前に、職場言った……?」


 思わず、本音が出ていた。


「瀬守さんの、これ。バッチ。会社のロゴだろーなと思って調べたんです。そうしたら、佐倉企画さんにたどり着いて……あとは、一か八かでした!」


「はは、凄い情熱だな」


「そこまでされて、すごいね」


「瀬守くんも、嬉しいでしょ」


 みんなは笑っている。だが、達也だけは、笑えなかった。


 あのマッチングで過ごした一夜のあと……きっと、凪は、達也の事を調べていたのだろうから……。


 作り笑いで取り繕いながら、背筋に、冷たい汗が伝っていくのを、達也は感じていた。

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