達也が、遊び相手として求めているのは、後腐れがない人だ。
そもそも、どこまで行っても男同士なら、結婚というワードは出てこない。パートナー制度というのもあるかも知れないが、そういうもので縛り付けるような重たい感じが苦手だ。社会的に堂々と生きていきたいという人たちの気持ちは、理解は出来るが、共感は出来ない。適当に遊んでいればそれでいい。
だから、相手にも似たようなものを望むようになった。年上で、物慣れていて、適当に遊んでくれそうな相手。
なぜか、その時、魔が差して大学生とマッチングしてしまったのが、まず、間違いだったと達也は思っている。
「大学生……って、まあ、いいか……」
仕事のトラブルが続いて、ストレスが溜まっていた。だから、激しく抱いて欲しかった。だから、そういうプレイを楽しめそうな、体力がありそうな人を選んだだけだ。
待ち合わせは、駅前だった。
週中の二十時過ぎ。人でごった返す駅前で、ちゃんと出会うことが出来るだろうかと、少々心配になりつつ、あたりをそれとなく探る。
(目印は、黄色いシャツ)
メッセージにはそう書いてある。とりあえず、目立つのは確かだ。対する達也ときたら、地味なダークグレーのスーツ。白シャツに、青いネクタイ。なんとも特徴がない。
あたりを見回していると、背後から、「あの」と声を掛けられた。
振り返ると、黄色Tシャツの男が立っている。
背が高く、痩せてはいたが、締まった体つきをして居るようだった。何か、スポーツでもやっているような感じだ。顔立ちは整っていた。黄色いTシャツは、どうやら、どこかの店の制服らしい。ロゴマークが入っている。居酒屋かどこかのようだった。
「どうも、俺、ナギです。達也さんですよね?」
黄色いシャツの男は、へらっと笑う。
「あ、うん……本当に、黄色いね」
「バ先の制服です。そのまま来たんですよ。俺、居酒屋で週四日」
「殆ど、社員みたいな勤務だな……」
「はは、結構、楽しいですよ。たまに、絡まれますけど……じゃ、場所移動しますか」
ナギは、手慣れている感じがした。
少々面食らった達也だが、達也としても、面倒な駆け引きだとか、デートとかはどうでも良い。身体の欲求だけ満たせればそれで良かった。
駅から繁華街を抜けていくと、ホテル街がある。
そこへ入って、手頃な部屋へ移動する。シンプルに浴室とベッドがあるだけの部屋だった。
部屋に入るなり、「で、どうする?」と達也は聞く。
「俺、バ先から直行してきたんで、結構汗臭いから、シャワー浴びますよ。達也さんは?」
「あー、じゃ、お前のあとでいいや」
「りょーかいです。じゃ、ささっと入ってきますよ」
ナギは、明るい。そして、面倒はなかった。達也は、会社から支給されているスマートフォンを確認する。メールや着信は来ていない。安心して、スマートフォンの電源を切った。最中に、着信などで気分を乱されたくない。
五分もしたらナギはバスローブ姿で現れた。
「じゃ、俺も入ってくるから」
「はーい、とりあえず待ってます」
拍子抜けするくらい、あっけらかんとしているもんだと思う。年上の相手とマッチングしたときは、もっと、粘っこい雰囲気があったものだが……。
(ま、ヤることはやるんだし、さらっとしてるほうが面倒じゃなくていいや)
達也のほうも、あまり気にしないことにした。
こういう遊びは、安全第一。清潔感も大切だ。達也は、ネコなので、受け入れることしかしない。だから、後ろの準備もしておいた方が良いので、ナギよりは少し時間が掛かる。準備を終えてベッドへ向かうと、ナギはベッドの上に寝転がっていた。
「出たけど」
声を掛けると、ガバッと上半身を起こす。
「あー、もう、達也さん遅いから、俺、待ちきれなかったよ」
そう言いつつ、ナギが手を伸ばしてくる。力強い腕に抱き寄せられ、そのまま、ベッドに押し倒される。
「時間もったいないから」
ナギは小さく呟いてから、キスをしてきた。啄むようなキスを繰り返してから、次第に、深くなっていく。角度を変えながら、何度もキスをする。熱い舌が絡み合うのが、溜まらなく気持ちが良くて、腰が甘く震えた。
「……あ、達也さん、早いんじゃない?」
中心が、反応していることに気が付いたナギが笑う。
「時間がもったいないから、丁度良いだろ?」
確かにと言いながら、そのまま、ナギの手が、達也のバスローブを剥ぎ取っていった。
若い身体に抱かれるのは、初めてのことで、その熱くて引き締まった体躯の感触に、達也はくらくらしながら、ナギとの行為に没頭した。