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40話:モウリ―とメエド-Ⅲ


「…アイツが、上級悪魔……」


リシュルが消えた場所を睨んだまま、小さく呟く。



「征十郎!!」


俺の名前を呼ぶ声と共に、ミシェルとアリアが目の前に現れた。


「…ミシェル…アリア」


心配そうな表情をしたミシェルが駆け寄ってくる。


「征十郎、怪我はないか?」


「…あぁ、問題はない」


「そうか…怪我をしていないのならよかった」


ホッと安堵した表情を浮かべるミシェルに、メエドのことや女悪魔のリシュルのことなど、言わなければいけない事はたくさんあったが、まずはメエドのことを訪ねてみることにした。


「メエドはアリアの魔法で拘束されていたはずだが…なにがあったんだ?」


「神殿に到着するまでは、私の拘束魔法の中にいたのですが…神殿へ入る直前になって、いきなり魔法の中から出すように言ってきたんです」


困惑したようにアリアが事の経緯を話し出した。


「ですが、メエドは黒を持つ者のルールを破っていますから出す事は出来ないと言ったんです。そうしたら――いきなり魔力を上げ始めて、私の魔法を破りどこかに行ってしまって…」


「!!」


「私達の拘束魔法は、悪魔の力に目覚めたメエドとはいえ、簡単に破ることは無理です。拘束専用の魔法なので、かなり強固なものですから…」


「私達の拘束魔法を自ら破るという事は、目覚めた悪魔の力以上の魔力が必要になってくる。――更に強い魔力を得る方法は1つ。自分の“黒”を通して上級悪魔以上の悪魔に魔力を分け与えてもらう事…」


「!」


アリアに続いて話し出したミシェルの言葉に、俺はリシュルが言っていた言葉を思い出した。

リシュルは“力を与えてあげた失敗作”と言っていたが、あれは恐らくメエドの事だ。

そうだとすれば“殺し損ねた大事なお友達”は、モウリ―の事になるし、リシュルがモウリ―を殺そうとしていたの事も繋がる。


「だが…上級悪魔以上の魔力を分け与えてもらうという事は、自分が持つ以上の魔力を身体に取り込むとなる。悪魔の力に目覚めて間もないメエドは、まだ完全な悪魔にはなりきれていない…そんな状態で悪魔から魔力を与えられれば身体に大きな負担をかけることになり、自滅する可能性が上がるんだ」


「っ……」

(メエドは、そこまでしてモウリ―を…)


モウリ―が言っていた通り、メエドは本当に優しい心を持つ精霊なんじゃ…そんな考えが頭をよぎった。


「征十郎。メエドを追ってこっちに向かっている最中、強力な悪魔の気配を感じた。メエドの魔力とはまた違うものだったが、一体ここでなにがあった?」


ミシェルが俺に聞いてくると同時に、60メートルほど離れていた場所にメエドが倒れているのを発見したアリアが慌てた様に叫んだ。


「ミシェル!メエドを見つけたわ!」


「なんだと!?…征十郎、一緒に向こうまで行けるか?そこでなにがあったのかを教えてくれ」


「…分かった」


ようやく動けるようになった身体を起こし、ミシェル・アリアと共にモウリ―とメエドがいる場所へと向かった。




***



「っ…これは…どういうことだ…!?」


「メエドのこの身体中の貫通痕は…まさか…っ」


身体中穴だらけになったメエドの姿に、ミシェルとアリアは驚きを隠せないでいた。


モウリ―に支えられながらぐったりしているメエドは、悪魔の力に目覚めているだけあってまだ呼吸はしているが、かなりの重傷だった。

リシュルの攻撃を受け止めている時も遠くで見えてはいたが、目の前で見るとより、その攻撃力が高いことがうかがえるほどにボロボロだった。



「ハァッ…ハァッ…モウリ―…今まで…いろいろと悪かったな…」


「メエド…ッ!」


失笑しながら謝罪の言葉を口にするメエドに、俺達は黙ったままその光景を見つめる。

モウリ―はというと、必死に涙を堪えたような様子だった。


「俺がお前と縁を切ったのは……俺の事で巻き込みたく…なかったからだ…自分が…黒を持つ者になってしまった以上…このまま友達でいたら…絶対にお前を巻きこんじまうからな…」


「っ…!!」


「だが…ストレートに“友達を辞めたい”なんて言ったら…お前は絶対に理由を聞いてくるだろ?昔から仲が良くて…兄弟のように育って一緒にいた親友だったんだ。お前が…不信感を抱かない訳がない…。…そうなれば、お前に俺が黒を持つ者だとバレる可能性があった…だから、お前に嫌われるように振舞い…あたかも自然に縁が切れるように仕向けた…俺と縁を切れば…もしも俺が悪魔の力に目覚めても、お前を巻き込むことはなくなると思ったんだ…」


暗くなった夜空をぼんやりと見上げながら、ぽつぽつと話を続けるメエドに、モウリ―がメエドの胸倉を掴み上げる。


「ふざけるなッ!!わしがどんな気持ちでいたのかも知らないで、勝手に自分だけで完結させるな!!」


堪えていたはずのモウリ―の目からは涙が伝い落ち、激高しながらメエドに叫んだ。



「っ…モウリー…」


初めてみるモウリ―の怒っている姿に、メエドが驚いたように目を見開いた。


「わしを巻き込みたくないだと!?そんな理由でわしにあんな冷たい態度を取り続けて、交流を避けてきたというのか!?黒を持つ者だからという理由だけで…ッ!!隠し事はしないでなんでも話そうと言っていたのはお前なのに、お前は今までわしに隠し事をし続けてきた!!ふざけるんじゃねぇッ!!!」


「ッ…!!」


言葉遣いが荒くなるほど怒り狂ったモウリ―に、メエドの瞳が揺らぎ、切なそうな表情に変わった。


「お前が本当にわしを友達だと思っていたのなら…縁を切る方法を考えるんじゃなく、まずは相談して欲しかった!!相談されたらそりゃあ最初は驚くかもしれんが、わしがお前を見捨てる事は絶対にない!!どうすればいいか一緒に考える事だってできたし、お前が悪魔の力に目覚める前にちゃんと別れだって出来たはずだ!!シャルメーンロードをこんなにボロボロに破壊して、住人を殺すこともなかったはずだし、お前が暴れたせいで一族に罰が下されることもなかったはずだ!!」


「―――っ…」


モウリ―の言葉に、今度はメエドの方が泣きそうな表情になって黙ってしまう。


「お前が…わしを信じて相談さえしてくれれば…っ!こんなに最悪な別れ方をしないで済んだんだぞ…!?あんな手紙でわざわざ遠回しに忠告までしてきて…筆跡を見ればお前のものだとすぐに分かる…どれだけ一緒にいたと思っているんだ…ッ!」


「モウリー…」



メエドの目に涙が溜まっていく。

溜まった涙は、すぐに頬を伝って零れ落ちていった。


「ところかまわず破壊していた店の中で、唯一わしの店を壊さないで残してくれていたのは、お前がまだわしを友だと思ってくれていたからじゃないのか!?少しでも大事だと思ってくれていたからじゃないのか!?…せっかくお前の本当の気持ちを知ることができたのに…これでサヨウナラだなんて…ッ!わしは絶対に許さん…ッ!!」


「モウリ―…悪かった…今更謝ってもすべてが手遅れで…許されないことは分かってる…でも…本当に…悪かった……ッでも……悪魔になってもお前だけは傷つけたくなかったという気持ちだけは本当なんだ…っ」


「ッ…この…大馬鹿野郎が…ッ!」


大粒の涙を流しながら抱き合う2人の姿に、俺やミシェル、アリアの誰一人として声をかける事は出来なかった。


そんな男達の友情に水を差すように、メエドの頬にヒビが入り始める。



「メエド…?なんだそれは…」


異変に気付いたモウリ―が、ゆっくりとメエドから身体を放す。

顔の至る所に入っていく無数の小さなヒビは、深くなるにつれ他のヒビと融合し、大きなヒビとなって、ポロポロと剥がれ落ちていった。




「……どうやら…時間切れみたいだ」


苦笑しながら、諦めた様子でメエドが呟いた。



「――始まったか」


黙って2人の様子を見ていたミシェルは、まるでこうなることが分かっていたかのように冷静だった。


「モウリ―、残念ですが…メエドとはここでお別れのようですわ」


アリアが悲しそうな表情でモウリ―に話しかける。モウリ―はなにがなんだか分からず、声を荒げた。


「どういうことですか!?メエドはどうなってしまうんですか!?」


「メエドはすでに分かっていることだと思いますが、黒を持つ者が悪魔化した際、完全な悪魔になりきる前に自身が持つ力以上の魔力を悪魔から与えられれば、力に耐え切れずに自滅します」


「――!!悪魔から力をって……なんですか…それ!どういうことですか!」


モウリ―の瞳がこれ以上ない位に大きく見開かれる。


「一連の話を聞く限り、恐らくメエドはお前を助けるためにアリアの拘束魔法から抜け出したんだろう。…だが、メエドはその際悪魔から力を与えてもらっている。肌に亀裂が入り、剥がれ落ちる現象は自滅が始まった証拠だ」


「そ…んな…ッ!」


メエドへ視線を落としたモウリ―を見上げたメエドの表情は、後悔をしているようには思えなかった。



「悪魔に力を借りなきゃ、俺はアリア様の魔法を解く事はできなかったし、お前を助ける事もできなかった……後悔はしていないさ」


「モウリ―!お前ッ…!」


メエドの顔のヒビは、ほとんどがめくれ落ち、身体全体へと広がっていた。

腕や胸、腹、足…少しずつ広がっていくヒビは、容赦なく剥がれ落ちていき、少しずつメエドの姿を消し去っていった。


「メエド!嫌だ!!これでお前と一生会えなくなるなんて…冗談じゃあない!!」


「モウリ―…もう…本当にサヨウナラだ…」


「ふざけるな!!お前を死なせたりしない!!サヨウナラなんかじゃない!!これからもずっとわしとお前は友達だ!!」


「――ッ!―――…あり…がと…う……おま……えは…一生俺の…大事な…と、も…だ…」





唯一最後まで残ったメエドの手を強く握りしめていたモウリ―だったが、モウリ―の願いも虚しく、メエドの姿は消えてなくなってしまった。





「メエドオオオオ!!!!」





荒れ果てたシャルメーンロードには、モウリ―の悲痛な叫びが響き渡っていた。





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