「あーあ…もう見つかっちまうとはなぁ。…まぁここまで派手に暴れりゃあ当然か」
アリアの水魔法に閉じ込められた状態で、諦めたような表情でメエドが呟く。
悪魔の力に覚醒してまだ間もないからか、ただ逃げる気がないだけなのか、俺に襲って来た時のような魔力を出すこともせず、失笑しながら大きくため息をついていた。
「メエド。黒を持つ者という事を隠しながらこれまで自由に生活をしてきた事…これは許される事ではない。そして、シャルメーンロードをここまで派手に破壊し、無関係な精霊や妖精に怪我を負わせ、命を奪った……この罪は重いぞ?」
「えぇ、分かっていますとも」
表情を変えることなく、メエドがミシェルに応える。
「ルールを破った以上、自分がどうなるか…お前は本当に分かっているのか!?」
反省しているように見えないメエドの態度に、ミシェルの口調が強まる。
「えぇ、もちろん。ルールを破ったものは、その場で即刻四大精霊様によって殺され、二度とこの世界に生まれ変わることができないように消滅させられる…でしたよね?この世界でこのルールを知らないものはいないと思いますが。あなた方に見つかった以上、どっちにしろ俺は助からない。好きにすりゃあいいじゃないですか」
「ここまで派手に暴れておいてその態度……どうやら、微塵も反省をしていないようだな?」
「――反省をする必要がどこに?俺は自分がしたいことをしただけですよ。…強いて言えば、そこの人間とモウリ―を殺せなかったことだけが心残りですかねぇ…どうせ見つかるならもっと沢山殺しとけばよかった…あんた達の大切な人、とかねぇ?」
ククク…と不敵な笑みを浮かべながら、ミシェルを挑発するような言葉を並べるメエドに、ミシェルの表情が一層強張った。
「貴様ァ…ッ」
「ミシェル。落ち着いて…メエドの挑発に乗ってはダメよ」
今にも飛び掛かりそうなミシェルを、アリアが宥める。
「……分かっている…っ」
アリアが優しくミシェルに微笑みかけると、メエドと対面になるように球体の前へと移動する。
「メエド。本当はここで今すぐにあなたを殺さなければいけませんが、あなたはこれまでルールを破ってきた者の誰よりも多くの精霊達を殺害し、シャルメーンロードの店や土地を破壊しました。この罪は重いです…あなたを消滅させることに変わりはありませんが、簡単に死ぬことは許しません。ここでは殺さず、あなたをオリビア様のところへ連れて行きます。あなたの処遇については、オリビア様が相応の処分を下してくださるでしょう」
「……どうぞお好きに」
「ゴート一族には、私達の方から改めて報告をします。あなたが黒を持つ者だと隠していたとはいえ、一族の中に黒を持つ者がいたことに気付けなかったのは、
アリアの言葉に、メエドの表情が変わった。
「…ちょっと待て。一族は関係ねぇだろ…!これは全部俺がしたことだ!それなのにどうして一族にも罰が下るんだよ!一族のみんなはなにも悪くないだろーが!!」
少し前まで何を言われても強く反応をすることがなかったメエドだったが、“一族”の言葉にいきなり声を荒げ始めた。
「確かにゴート一族自体はなにも悪いことはしていませんわ。ですが、あなたが黒を持つ者として目覚めた事を隠していたことで、このような事態を引き起こしてしまった…罰が下るのはあなたのせいなのです」
地面に倒れている精霊達を見渡しながら、アリアが悲しそうな表情で呟く。
「っ…」
「ゴート一族の
にっこりと微笑むアリアに、メエドが言葉を詰まらせ唇を噛みしめる。
アリアの隣に移動してきたミシェルが、補足するように続けた。
「悪魔の力が目覚めてしまったことで、誰かを殺して力を奪いたいという衝動に駆られたというのも理由の一つにあると思うが、お前はまだ力に呑み込まれてなく、自我があった。はっきりと自我があったということは、お前は一族がどうなるかまで考えて今回の騒動を起こしたんだろう?ならば、お前がとやかく言える事はなにもない」
「そんな…っ!ふざけるな!!罰を下すなら俺だけにしろ!!親も一族も悪くないって言っているだろーが!あんたらは俺達の一族を潰すつもりか!?」
「潰すようなことをしたのは、お前の方だろう?」
ミシェルが、ぎろりとメエドを睨んだ。
「っ…!!」
「話しにならん。――アリア、早くオリビア様の元へ連れて行こう」
呆れたようにため息をついたミシェルが、アリアに問いかける。
「えぇ。その方がいいかもしれないわ」
「征十郎」
宙に浮いていたミシェルが、アリアとともに俺の前へと降りてきた。
「怪我はないか?」
「あぁ…大丈夫だ」
「まったくお前は…なにかあれば、すぐに私に連絡をしろと言っているのに、どうしてシャルメーンロードの異変に気付いた時点で連絡をしてこなかった?」
「……悪い。まさかこんなことになっているとは思わなかった」
「はぁ…まったく…」
なぜ俺も怒られなければいけないんだと思いつつ、前々からなにかあれば連絡するように言われていたのは事実だし、実際連絡をしないでメエドと殺し合い一歩手前になっていたのも事実だ。
返す言葉がないというやつである。
「まぁまぁ、ミシェル。夫婦喧嘩はそこまでにして、早くオリビア様の所へ向かいましょう?征十郎さんも、悪魔化した黒を持つ者と遭遇したのは初めてでしょうし、仕方がないわ」
さすがアリアだ。俺の事をよく分かっている。
「なっ…!だ、誰が夫婦だ!私と征十郎はそんな関係ではない!」
「ふふふっ」
顔を赤くして声を上げるミシェルに、アリアがどこか楽しそうに微笑む。
「それでは征十郎さん。一先ず私達は神殿へと向かいますわね」
「征十郎は暫くの間神殿へは近づくな。フラッフィーのこともあるし、早く家に帰れ」
再び宙に浮かんだミシェルとアリアを見上げ、頷く。
「分かった」
俺の言葉を聞いた2人の姿が消え、メエドの前へと瞬間移動をした時だった。
「あの…待ってください!メエドと少し、話をさせてくれませんか!?」
今まで静かだったモウリ―が、ミシェル達に向かって叫んだ。