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26話:唯一無二の力


「征十郎!征十郎、大丈夫か!?」


「ん…」


「よかった。目が覚めたんだな…」


「あれ…俺は…」


どうやら俺は、モネとトーファが魔法を浸かったタイミングでそのまま気を失ってしまっていたらしい。

目覚めると、視界いっぱいにミシェルの安堵した顔があった。


「いきなり倒れたから驚いたぞ…」


後頭部に柔らかさを感じ見てみると、柔らかく感じた頭の下にはミシェルの太ももがあり、驚いた俺は慌てて身体を起こした。


「!?」


ミシェルに膝枕をしてもらっていたのだと気づき、なんだか無性に気まずくなってしまい、距離を置く。


「征十郎、まだ安静にしておいた方がいい。無理に身体を動かすな」


「……いや…もう大丈夫だ」


「だが…」


心配そうな表情で顔を覗き込んでくるミシェルをスルーし、立ち上がると、周囲にはコールヒュ―マと戦った時の傷跡が深く刻まれていることに気づいた。

雪が積もった地面は大きな穴がいくつも空いていて、周囲の木々は折れ、岩はぐちゃぐちゃに破壊されていたのだ。

逃げるのに必死であまり気にも留めていなかったが、改めて見てみると魔物と戦うということの恐ろしさに言葉が出なかった。


数メートル離れた先には、柵に入ったままのコールヒュ―マが倒れている。意識がないのかピクリとも動いてはいない。

すぐ傍では、難しい顔を浮かべたモネとトーファが何やら話をしているようだった。

ふと、コールヒュ―マの毛並みが、元の銀色に戻っていることに気づく。


「コールヒュ―マの毛が…元に戻っている…」


「モネとトーファのあのダブル魔法は、オリビア様が直々にあの2人に教えた特別な魔法だ」


遠くにいるモネとトーファを見つめながら、ミシェルが話す。


「オリビアが?」


「本来であれば、オリビア様だけが使える特別な魔法なんだが、オリビア様の力が入った天使の羽を持っていることと、使用者であるオリビア様から教えてもらうことで魔法の使用条件が揃い、使用者の魔法を取り入れて使用が可能となる。オリジナルのオリビア様の魔法は、あの2人のダブル魔法の比にならないほど美しく、強大なものだがな」


「あの魔法は…悪魔を倒す事が出来る魔法なのか?」


悪魔堕ちした証である『黒』から元の銀色の毛に戻っている事が気になり、訊ねてみる。

もしそうだとすれば、無敵すぎる魔法だ。もしかするとゲオルグも倒す事が出来るかもしれない。

だが、ミシェルの表情は暗いままだった。


「――下級悪魔であれば消滅させることはできるが、中級悪魔や上級悪魔は無理だ。それは私達単体での攻撃も同じ。下級悪魔は倒せても、上級悪魔になってくると魔力が桁違いになってくる。中級悪魔は上級悪魔ほどではないが、油断をすればこちらがやられるほどには強い。上級悪魔においては私達の魔法を吸い取り、制御をかけてくる悪魔もいる…先程の私がやられたようにな…。だから、上級悪魔と戦わなければならない時は、奴らに悪魔堕ちさせられないように常に全力で戦う必要がある」


「…悪魔に階級があるのか?」


「ある。上から、魔王・最高位上級悪魔・中級悪魔・下級悪魔が悪魔の階級になるんだ。魔王は1人。最高位上級悪魔は4人。中級悪魔から下級悪魔に関しては数が多すぎて未知数だ」


「未知数な数がいる悪魔の中で、最高位上級悪魔が4人と魔王が1人か…」


上級悪魔とやらもそうだが、自らを魔王だと言ったゲオルグは相当の力があるのだと改めて気付かされた。

俺が黙ったまま考えていると、ミシェルがじっと俺を見ていることに気づく。

その表情からはなにか言いたそうにも見えた。


「なんだ」


「…征十郎、先ほどのあの力…。コールヒュ―マの氷魔法の効果を、強制的に“無”にさせているように見えた。私でさえ魔力で増幅したコールヒュ―マの氷魔法を解く事が出来ないでいたのに…お前のあの力はなんだ?」


「…俺にも分からない」

むしろ俺が聞きたいくらいだった。


「心の中で強くなにかを思うと、身体の中から熱くなって…気付いた時には相手の攻撃が上手く出なくなるんだ。ゲオルグに襲われた時も、トーファがからかって俺に攻撃をしてきた時もそうだった」


「…なるほど。だからトーファはあの時、魔法が出ないと言っていたのか…」


考えるような素振りをしたミシェルは、トーファの言葉を思い出しているのだろう。腑に落ちた様子で呟く。


「征十郎がゲオルグに襲われた時、その力が発揮され、ゲオルグに攻撃が出来たのだとすれば…その力はこの世界にとってかなり重要な力となるかもしれない…」


「…それは…どういう意味だ?」


「トーファの冬魔法だけじゃなく、悪魔の王であるゲオルグの魔力ですらも“無”にする無効化の能力は、この世界の住人や悪魔達の誰一人として持っている者はいない唯一無二の力なんだ」


「ッ…!」


「どんなに強力な力でも、無効化の能力には太刀打ちは出来ない。その能力が強ければ強いほど、無効化にする能力は強い。力を無効化にする力があれば、悪魔という悪の存在を消滅させ、ヨルノクニに永遠の平和をもたらす事が出来るのだ」


「……」


「いつしか、オリビア様に神よりいただいた古い書記を見せてもらったことがある。その書記にはこう記されていた――“無の力は鍵となり 悪をめっす そして光ある未来が待つ”と…」


「俺の力が…ヨルノクニに平和をもたらす鍵だというのか…?」



自分の中にそんな能力があった事に驚いて、思わず自分の手の平に視線を落とす。

ミシェルに言われて、初めて気づいた。

ゲオルグに襲われた時、何故人間である俺の拳が当たったのか。

何故、氷漬けにされたトーファの氷を解く事が出来て、それからトーファの魔法が発動しなくなったのか。

そして、どうして悪魔堕ちしたコールヒュ―マの氷ですらも解く事が出来たのかを。

総じて、全員の力が一時的に発動しなくなっていたのだ。


「…信じられん。俺にそんな力があるなんて…」


到底信じられなかった。

これまで25年間、人間として生活してきたはずの俺にそんな力があるなんて。


「私も驚いている…まさか書記に記されていた神の言葉が、お前のことだとは…。征十郎がヨルノクニに来た意味…もしかしてお前はここに来るべくしてきた人間なのかもしれない」


「……」


だから俺は現実世界で必要とされていなかったのか。

どこの世界よりも、ヨルノクニに必要とされていたから――…。



「兎にも角にもソラリア庭園都市に帰ったら、すぐにオリビア様に相談をしてみよう。なにをするにも、話はそれからだ」


「…分かった」




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