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19話:魔物討伐任務-氷山エリア-Ⅰ


「二百五十六…二百五十七…二百五十八…二百五十九…二百六十」


ヨルノクニに来てから毎日欠かさずにトレーニングをしていた俺は、その日も早朝4時に起床し、自宅前の庭で筋肉づくりのためのトレーニングをしていた。


現実世界で生きていた時も時間を見つけてはトレーニングを行っていたが、仕事に行く必要がないヨルノクニという異世界では、時間がたっぷりある。

自分の好きな時に好きなだけトレーニングが出来るおかげで、最初に比べて筋肉も付いてきたし、いい感じに身体も締まってきたと感じつつ、身体中から噴き出してくる汗を拭いた。


「ふう…」


一息ついて、冷やしていた水を流し込む。

熱くなった身体を中から冷やし、身体中に染み渡っていくのが分かる。


「やはりトルドの水は美味い」


手の甲で口元を拭い、シャワーを浴びようと家の中に入ろうとした所で、背後に誰かの気配を感じて振り返る。



「ミシェル」


そこには、腕組みをしたまま木にもたれかかっているミシェルの姿があった。


「相変わらず、随分と早起きな奴だな」


「まぁな。魔物と戦う時、少なからず体力は必要だろう?お前らのような特殊な力がない俺でも、体力なら身につける事が出来る。…お前こそこんな朝早くに珍しいな?何か用か?」


「任務の依頼が来た」


「!」


近づいてきたミシェルは、手に持っている丸められた紙を広げ俺に見せてきた。

和紙の様な素材で作られた紙には、任務の依頼内容が記載されているようだ。

任務期間や場所、そして依頼者の情報や写真が載っている。


「本来であれば、オリビア様の神殿に行って詳しい依頼内容を聞くのが通常の流れなのだが、オリビア様は所用が入ったため、急遽外出しなければならなくなった。そこで、詳細を聞いていた私が任務を引き受けることになったのだ」


「なるほど」


「ミオールキャットの任務以来、久々の任務になるが…お前も来るだろう?」


「当たり前だ」


ここ数日、任務の依頼がなくて退屈していた俺は、二つ返事でミシェルに承諾の返事をする。


「任務の詳細は、依頼者の元へ向かいながら話す。時間はあまりないから、至急準備をしてくれ」


「分かった」





***



軽くシャワーを浴び、着替え終わった俺は、ミシェルと共に依頼者の元へ向かっていた。


「今回の任務はどういう内容なんだ?」


隣を歩くミシェルに訊ねる。


「今回の任務内容は、とある魔物の討伐と氷の維持だ。依頼者の名前は、シャルメーンロードで氷専門の店を構えている妖精族のシャラ。彼女はツキドゥーマ森林の氷山エリアで出来る氷を使用し、氷とかき氷の販売をしているんだが、数日前からその氷が魔物の被害を受けているそうだ」


「…魔物の被害?」


異世界にもかき氷があることに驚きだが、今はあえて触れないでおく。


「魔物の中には、氷を主食にする魔物が3体だけ存在する。1体目は火属性のヒルニア。2体目が水属性のミズメ。そして3体目が氷属性のコールヒューマという魔物だ」


「水属性と氷属性は想像出来なくはないが…火属性で氷を喰う奴がいるのか」


「ヒルニアの場合、属性は関係ない。全身が火で覆われている魔物なのだが、取り込んだ氷の水分を燃料とし、自信の力にするという特殊な能力があるんだ」


「随分と変わった魔物だな…。該当する魔物は、そのヒルニアという魔物の可能性が高いのか?」


「いや…それはまだ分からない」


ミシェルが表情を変えずに答える。


「今挙げた3体の魔物は、あくまで該当しそうな魔物として挙げたに過ぎない。

――――着いた。あそこがシャラの自宅だ」


ミシェルに言われて顔を上げると、数メートルほど先の所にペンションの様なお洒落な建物が見えた。玄関前には中年くらいだろうか、落ち着いた大人の女妖精が佇んでいる。恐らく俺達が来るのを待ってくれているのだろう。


自宅の周囲を見てみると、ガーデニングが趣味なのか敷地のあちこちに色とりどりの豊富な花が咲いていた。

しっかりと手入れをしているのは、花を見れば一目瞭然である。


見た感じは、現実世界にもありそうな普通の家だが、家もデカければ敷地もかなりの広さだ。


「まだ聞いていない話もあるし、詳しい話はシャラに聞いてみよう」


「分かった」


先に歩き始めたミシェルに続いて、俺達はシャラの元へと近づく。




「今回この任務を受けることになったミシェルだ」


シャラの前で立ち止まったミシェルが先に口を開いた。


「お待ちしておりました、ミシェル様。この度はわたくしの依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます」


丁寧な口調で答えたシャラが、ミシェルに向かって深くお辞儀をする。

年の功で言えばミシェルよりも年上に見えるが、どうやらこの世界で年齢は関係ないらしい。

ミシェルのような四大精霊は格上の存在なのだろう。


紺色の長い髪を後ろで三つ編み状に結い、肩から前に垂れ流しているシャラは、水色のクラシカルロングワンピースに白のストールを肩にかけた落ち着いた印象の妖精だった。


「そちらの方が、先日ヨルノクニに来られた人間の方でしょうか」


ちらりと俺の方を見たシャラがミシェルに訊ねる。


「そうだ。魔物討伐の任務を学ぶため、今一緒に行動を共にしている」


「柊征十郎だ。よろしく頼む」


「氷属性 妖精族のシャラと申します。よろしくお願いいたします」


ふわりと微笑んだシャラが、俺に向かって再び頭を下げる。


「このような場所で立ち話も申し訳ないので、中へどうぞ。詳しくは中でお話いたします」




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