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「…とりあえず、お前は誰だ…」
最初よりも大分黒焦げ状態になった女を見下ろしながら訊ねる。
何故か朝っぱらからどっと疲れたような気がするのは、100%この女のせいだ。
「うぅ…私、エヴィ―って言うんだ。地の四大精霊だから、怪しい者じゃない事だけは分かってぇ…」
半泣き状態で答える女――エヴィ―は、相当ミシェルに怒られたらしい。強行突破した事をかなり反省しているようだった。
「は…?四大精霊?お前が?」
「うん…」
「…」
信じられず、思わずミシェルの方を向けば、ミシェルが静かに頷く。
「エヴィ―の言う通り、こいつは地の四大精霊 ノームで間違いはない。エヴィーは、4か月前から昨日まで長期の任務でツキドゥーマ森林の奥地の方へ行っていたから、不在だったんだ」
「…」
「1つでも気になることがあると納得するまでやり続けるところがあるが、元気でコミュニケーション能力も高いから誰とでもすぐに打ち解ける事が出来る…悪い奴ではないから、どうか私に免じて許してやってくれ」
「本当にごめんなさい…」
しょんぼりした表情で謝るエヴィーを見る限り、かなり反省しているようだ。
「…はぁ。もういい。それで?あの扉はどうするつもりなんだ?」
なくなってしまった扉の方を振り向く。
このままではセキュリティもへったくれもない。自由に誰でも家に入って来れるだけじゃなく、雨風も
「あ、それなら心配しなくても大丈夫!」
そう言うと、エヴィ―が座ったままつま先で地面を数回鳴らした。
途端、地面の何ヵ所かが盛り上がり、盛り上がった地面が人型を形取り始めたのだ。
「!」
人型になった地面はそのまま小さな小人のようなものに変化し、どこからか持ってきた木の板を使って扉を作り始める。
「壊したのは私だし、私の力で責任を持って直すよ!だから心配しないで」
数人の小さな小人たちは、手慣れた様子で扉の寸法を測り、あっという間にピッタリサイズの扉を新しく完成させて地面へと返っていった。
「……四大精霊の力って本当に便利だな…」
自分の力とはいえ、自分が動かずともここまでの事が出来るのかと逆に感心してしまう。
しかも、前の扉よりもクオリティが高いのはどういうことなんだ?謎は深まるばかりである。
「さて…エヴィ―、そろそろ帰るぞ」
いいタイミングで空気を読んでくれたミシェルがふいに切り出した。
「えぇ!もう!?」
人の家に強行突破してきた張本人のエヴィ―はと言うと
…かなり残念そうである。
ミシェルがすかさずエヴィ―に詰め寄った。
表情はかなり不機嫌そうだ。
「もう!?じゃない。エヴィ―…お前全然反省していないだろう?」
「うっ……あは、アハハ…そんなことないよーっ!反省してる!うん、ちゃんとしてる!すごーく反省してるよ?」
「……」
目を泳がせながら視線を逸らすエヴィ―は、嘘がつけない精霊なんだろう。
恐ろしい形相で詰め寄るミシェルを一切見ようとしない。
(こいつ……いくらなんでも分かりやすすぎるだろう…)
もはや怒りを通り越して呆れてしまった俺なのであった。
「征十郎―っ、また色々と話そうねー!」
「……」
「ほら!早く帰るぞエヴィ―!」
「あうう…!ミシェルってば引っ張らないでよー!」
その後、エヴィ―は玄関前に立ち尽くす俺に向かってブンブンと腕を振りながら、ミシェルに引きずられ帰っていったのだった。
「朝から疲れる奴だな…四大精霊にはまともな奴はいないのか…?」
ようやく静かになった自宅でぽつりと呟く。
ミシェルやアリアはマシな方だが、総じてなにを考えているのかは分からない。
見た目は人間と変らなくても、中身はやっぱり“人間”ではないんだなと思いつつ、トルドからもらった水をコップに注ぎ飲み干す。
「せっかくだし、このままトレーニングでもするか…」
その頃、敷地から離れた木の影では氷の結晶が浮かんでいた。
征十郎の家から数十メートルは離れた位置で、征十郎の姿を観察するようにふよふよと浮かんでいる。
『ふぅん…あれが人間かぁ…』
氷の結晶から高めの少女の声がすると同時に、その結晶は重なり合い、人の姿へと変化していく。
銀色の髪を
「面白そうだし、ちょっと悪戯しちゃおうかなぁ。ふふっ…」