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17話:地の四大精霊 ノーム-Ⅰ


「おっはよーございまーす!ねぇー、人間さんいるー??」



早朝。


時間帯で言えばようやく日が昇り始めようとしている時間帯に、玄関扉を激しく叩く音が一帯に響き渡る。



「ごめんくださぁーい!」


「ねーえー!ねぇーってばぁ~!」


扉が凹みそうな勢いで何度も扉をノックするのは、褐色肌の少女だった。


「こんな早朝に叩き起こしに来て、どこに連れて行かれるのかと思えば…いい加減にしろ!征十郎だってまだ寝ている時間帯だ!」


少女の隣には、不機嫌そうな表情をしたミシェルが褐色肌の少女を止めている。


「えー、いいじゃん!私まだ例の人間さんに会ってないんだよ?みんな会ってて、私だけ会ってないとかズルくない?」


「お前は昨日まで長期の任務で不在だったんだ。会えないのは仕方がないことだろう!大体、お前も征十郎もここで生活を送っているんだ。わざわざ早朝に突撃しなくても、いずれ会えるじゃないか!」


「えー…でもぉ…あの男嫌いのミシェルが!今まで家に男を呼ぶことなんてなかったあのミシェルが!家に呼ぶほど気にいっている男なんだよ!?どんな人間か気になるじゃーん!」


「っ…!わ、私は征十郎の事を気に入っている訳ではない!」


「じゃあなんで夜に家に呼んでたのぉ~?みんなが寝静まった夜に男女が一つ屋根の下に…ふっふっふ~♡こんなのなにをしているかなんて想像できるじゃんかぁ~♡」


「……はっ倒すぞ?」


物凄い形相で胸倉を掴むミシェルは、少女の全身を炎で包んだ。


「うひいいいい!!あつッ!熱い!熱い!!じょっ、冗談!冗談だからぁ~!!あっつ!!熱い!ギブギブ!!」


「まったく…お前は…」


少女の身体から炎が消え、煙を立たせながら黒焦げになった少女が座り込む。


「ケホッ!ケホッ……し、死ぬかと思った…」




**


「…朝っぱらから、人ん家の前でなにをやっているんだ」


外のあまりのうるささに叩き起こされた俺は、不機嫌丸出しの表情で扉を開けたまま、ミシェルともう一人の見知らぬ少女を見下ろす。


「征十郎…その…朝っぱらから騒がしくしてすまない…」


「あっ!初めまして人間さん!いきなりお邪魔しちゃってごめんねー!うっわぁ~!これが人間か~!人化した私達と見た目はあんまり変わらないんだね~!」


「……」


申し訳なさそうに謝るミシェルとは真逆に、何故か黒こげ状態で明るく話しかけてくる少女に、俺はそっと玄関扉を閉めた。


「って!!ちょっ!ちょっとちょっと!!なんで扉閉めるの!?せっかく初めましての挨拶に来たのにぃ!」


「なにが初めましての挨拶だ。朝早くに人の家に断りもなく来て騒ぎやがって」


扉越しにギャーギャー騒ぐ少女に冷たく言い放つ。

状況を見るに、ミシェルもこの女に叩き起こされたのか、少しだけ不機嫌そうだった。


「だって仕方ないじゃーん!ミシェルもアリアもモネも、みーんな君に会ったって言うのに、私だけ会ってないんだよ!?それにミシェルとも仲良さげだし、どんな人間の男なのか気になって仕方なかったんだもん!」



「…」


(そんなの知るか)


「そんなことよりもここを開けてー?自己紹介だってまだだし~!早く開けてくれないと、無理矢理開けちゃうよ~?」


どうやらこいつは大分諦めが悪い性格らしい。

未だに激しく扉を叩き続けてくるせいで、気のせいか少しだけ扉が歪み始めている気がする。


「いい加減にしろ。帰れ、今すぐ」


「どうしても開けてくれないのー?」


「開けない。帰れ」


「……むー…。わかったよぉ~」


渋々返事をする女に、ようやく諦めてくれたのかと安堵したのも束の間。


「おい、よせ!!」


外でミシェルが叫ぶ声が聞こえた瞬間、鍵を閉めたはずの玄関の扉が吹っ飛んだ。


「!?」


「言ったでしょ?早く開けてくれないと、無理矢理開けちゃうよって」


扉がなくなった事で露わになった女は、片足を上げた状態で笑みを浮かべながら立っていた。


「…」


蹴りだけであの頑丈な扉を吹っ飛ばしたとでもいうのか。だとしたら信じられないほどの怪力だ。

そして、そんなことよりも扉を飛ばされてしまった事で、ギリギリのところで保っていた俺の堪忍袋の緒は完全に切れてしまった。



「お前…いい加減に――」


目の前の女に詰め寄ろうとした瞬間、ミシェルの怒号と共に女の身体が炎に包まれる。



「うひいいいい!!」


「エヴィ―!いい加減にしろ!!」


「あちちちち!熱い!あっつ!ミシェル、熱いってばぁ~~!ごめん!ごめんってぇ!少しやりすぎたのは謝るから、これ止めてえええ!」


「謝るくらいなら最初からするな!」



「‥‥‥‥」


全身を激しく燃やされながらあちこちに逃げ回る女と、手加減せずに炎を出し続けるミシェルのまるでコントのような光景を見つめながら、俺は呆然とその場に立ち尽くしていたのだった。




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