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14話:風の四大精霊 シルフ-Ⅰ


ドマークは振り返って俺と目が合うなり顔色が真っ青になった。


「ひいいい!お前はさっきの!!」


「お前…トルドの子供だったのか!?この変態誘拐野郎が…!!」


「えっ…」


ドマークを睨みながら叫ぶと、トルドは意味が分からず俺とドマークの顔を交互に見る。


「ちょっと…人間さん?どういうこと?ドマークが…誘拐…?誘拐ってなんの事?」

「トルド、こいつは嫌がる子供を無理やり連れ去ろうとしていたんだ!」

「なんですって…?」

「ついさっきの事だ。ギリギリのところで俺が助けたから、その子供は何事もなく済んだが…あの感じを見ると、さっきのが初めてではないだろう。手慣れている感じがあったからな!」


「あ…いやぁーそのぉ…違うんだよ母ちゃん!これには深い訳が…」


「…」


さっきまでの強気な態度はどこに行ったのか、急にしおらしくなったドマークは弁解しようと必死にトルドにすり寄る。


中年のオッサンだとばかり思っていたが、まさかトルドの息子だとは…いくら何でも老けすぎじゃないかというどうでもいい感想はこの際置いておく。

小さい子供を連れ去ろうとしたことも許さないが、トルドに怪我をさせたことも許せなかった俺は、ドマークの顔面を鷲掴みにした。


「ぐええッ…あぐ…ッ」


「オイ…言い訳をするな、変態野郎…」


「ギ…あが…ッぐ…す゛、す゛み゛ま゛せ…ッ」


顔を潰す勢いで力を入れれば、ドマークが苦しそうに声を上げる。

そして黙り込んでいたトルドがようやくドマークへ向けた。その表情は、般若のごとく怒り狂っている。



「ドマーク……このバカ息子がァ~~~~ッ!!!」


トルドは鬼の形相でドマークの方へ振り返る。

いつもの優しいトルドからは想像もできない表情だ。


「ひぎぃぃぃ~~~ッッ!!だすげでぇぇぇ~~!!」


ドマークは顔を半分潰されながら泣き叫んでいた。

同時に少しずつドマークの身体全身が湿っていくような感覚を覚える。


「なんだ…!?」


「まずいわ!人間さん!ドマークをしっかり掴んでいて!」


「えっ」


トルドが叫んだ瞬間、ドマークの身体が魚のようにぬめり始め、俺の手からすっぽ抜けた。


「なっ…!」


「ぎゃははは!!!なぁーんちゃって!クソババアもクソ人間も、どいつもこいつもうぜぇーんだよ!俺がなにをしようがテメェらに関係ねぇーだろーが!バ~~~カ!!!クソババアに言われなくても、こんな家さっさと出て行ってやらぁ!俺はこの先もなにもしないで自由に暮らしてやるぜ!俺好みの可愛い女の子とイチャイチャラブラブしながらな!」


俺とトルドを散々煽ってきたドマークは、半魚人だった姿を完全な魚の姿に変える。

そして、まるで水の中に飛び込むように地面の中に消えていった。


「…あいつ…ッ!オイ待て変態野郎!!」


ドマークの後を追おうと店を出ようとした所で、トルドに腕を掴まれる。


「人間さん!ドマークが魚の姿になれば、あなたが追うのは無理よ!」


「だが!これで逃げられると、あいつを野放しにして自由にさせることになる!そうなれば、狙われるのは女子供なんだぞ!」


「だから私が捕まえに行くんだよ」


「っ…!!」


「魚人族の私達は、魚と人…好きなタイミングで好きなように、自在に姿を変えることが出来る。完全に魚の姿になれば、水の中のように地面中を泳ぎ回ることだって出来るんだ。力を追跡する能力がある人だったら、あの子を見つけられるだろうが、一番早い探し方は…」


そこまで言うと、トルド姿が身につけていたエプロンと三角巾を徐に外す。

そして、ドマークと同様全身が滑り始めると、一瞬にして大きな魚の姿へとその姿を変えたのだ。


「!」


『私が地面の中を泳いで、あのバカ息子をとっ捕まえる方が早いんだよ』


二ッと笑ったトルドが地面に飛び込もうと、高くジャンプした。

そして地面に飛び込む瞬間、物凄い突風が店を襲い始める。


「きゃあああ!」


「ぐっ…!なんだ…ッ!?」


まるで店の中に竜巻が突っ込んだような強風だった。

周りのありとあらゆる物がガタガタと音を鳴らし、吹き飛ばされて空中を舞っているのが分かる。

目を開けていることさえも出来ないまま、店の柱にしがみついていると、入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ドマークなら私が連れてきたよ」


「!」


声が聞こえたとほぼ同じタイミングで、ピタッと風が止んだ。


「止んだ…?」


「きゃああああああ~……えっ?」


風によって飛ばされていたトルドだったが、風が止んだことで叫んだまま店の前のカウンターに着地していた。

完全な見た目魚姿でカウンターに立つ姿は、なんともシュールすぎる光景である。

声の主へと視線を向けると、そこにはさっき別れたはずのモネが、背中から小さい羽を羽ばたかせた状態で宙に浮いていた。


「モネ…!?」


「ふふっ!」


モネの頭上には、具現化した風がぐったりしたドマークの身体を拘束している状態だ。

白目を剥いていることから、ドマークは恐らく気を失っているのだろう。



「お前…いつの間にそいつを…!どうやって捕まえたんだ!?」


モネが精霊だという話は本人から聞いていたため、今更羽が生えていようと、宙に浮いてようと気にはならなかったが、簡単に捕まえることが出来ないはずのドマークをどうやって捕まえたのかが分からなかった。

正直に言って、まだ子供のモネがそこまで強いとは思えなかったのだ。



「んーー?なんかね、食料と薬草の買物が終わって帰ろうかなーって思ってたら、よからぬ事を考えながら、地面の中を泳いでいる奴の気配を感じてすくってみたの☆」


「…は?掬った…?」

(なんだ、その金魚掬いをしてみた☆みたいな言い方は)


「うん!そしたらさっき私を連れて行こうとしていたおじさんだったからびっくりしちゃったよぉ!私を連れて行こうとしたことも含めて、今まで色んな女の子達を連れ去ろうとしていたのが分かったから、ちゃんとお家に連れ帰って、怒らなきゃと思ったの」


モネはそう言うと、ガチガチに拘束していたドマークをトルドの目の前…店のカウンターへ放り投げた。


「!!」


そこでようやく我に返ったトルドが、モネの姿を見て途端顔面蒼白になる。


「ッ…あ…ああ…貴女は…っ!」



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