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12話:幼児連れ去り未遂事件??-Ⅰ

ヨルノクニに来て、ソラリア庭園都市に住み始めて1週間が経った。


住処となる居住スペースは、初日にすぐにオリビアに与えてもらったため、神殿からほど近い場所にある山の中の平屋の一軒家で生活を送っている。

魔物討伐の仕事がない日はほとんど家で筋トレをしているか、家付近の山の中を探索したりと自由に過ごしていた。


食料や飲み物は、現実世界と変らないものが多かったせいかすぐに慣れたのだが、慣れない事が1つだけあった。

生活を送る中で避けて通れない事……それが食料の調達である。


昔から大人になった今でも人づきあいが苦手なのは変わっていない。

生きている時でさえ、なるべく人と関わらないようにして生活を送っていただけあって、空っぽの冷蔵庫を見た瞬間、テンションは氷点下のごとく下がり、憂鬱になってしまった。


「水もなくなったし、食料すらもない…さすがにそろそろ調達に行かないと…はぁ。めんどくせぇ」


ガシガシと頭を掻きながら大きなため息をつく。

現実世界と違って金を払わなくても食料や飲み物を調達できるのはありがたい。だが、やっぱり人と関わることだけはどうしても慣れなかった。

何度も会って話をしているミシェルやアリア、オリビアには多少慣れてきたものの、まだどこかで壁を作ってしまっている自分がいるのだ。


ただでさえ知らない奴と話すのが苦手だというのに、俺をよく思っていないのが明らかに分かる奴と接するのもこの上なく疲れるし、ストレスだった。

人間である俺を警戒している住人はこの世界に少なからずいることは確かで、店によっては素っ気ない態度を取ってくる奴もいる。


「…まぁどの世界にも、面倒くさい奴の1人や2人いるか…」


基本的にこの世界の住人は優しくて親切な人が多い。最初は警戒していたとしても、話してみるとちゃんと対応をしてくれるし、なんならおまけをつけてくれる店もある。

オリビアから住人に俺の事は話をされているみたいだし、なにも知らされていない初日と比べれば俺への警戒は大分薄れたように感じる。

それでも歓迎していない奴らは一定数いるのは、俺を見てくる視線で分かってしまうのだ。


「さっさと調達しに行って、トレーニングをするとしよう。しばらく魔物討伐の仕事は入っていないようだし」


念のためオリビアから護身用として与えられた刀を装備して家を出た。

ソラリア庭園都市で刀を使うことはゼロに近いほどないらしいが、なにがあるかは分からないため、いつも持ち歩くようにしている。

店が立ち並ぶシャルメーンロードまで歩いて5分程度。現実世界の時に通っていたスーパーとほぼ同じくらいの距離だ。

森を出て神殿を過ぎた頃、シャルメーンロード手前の路地裏付近でなにやら言い争っているいるような声が聞こえてきた。


「なんだ?」


ヨルノクニに幽霊はいないようだし、恐らくこの世界の住人であることは確かだ。しかし、オリビアからもミシェルからも、ソラリア庭園都市は治安がいいと聞いている。

時間帯はまだ昼前。ソラリア庭園都市に来て変な奴や怪しい奴は見かけていなかっただけあって気になってしまった俺は、なんだか嫌な予感がして路地裏へ近づいてみることにした。


路地裏をそっと覗いてみる。


人通りが少ない路地裏の奥の方で、中年で小太りな半魚人の見た目をしたオッサンらしき奴が、幼い子供の腕を引っ張ってどこかへ連れて行こうとしている真っ最中だった。


「いやっ!やめて!離して!」


「いいじゃねぇかお嬢ちゃん!おじさんの家においでよぉ!美味しいお菓子もたーくさんあるよ~」


「お菓子なんていらない!私はおじさんが道に迷っているって言うから道を教えただけ!早くこの手を離してよぉ!




(……誘拐未遂?)


しかもまだ幼い女の子を?


(ったく…どこの国でも変態なキモオッサンはデフォルトで存在するってことか)


半魚人オッサンが連れて行こうとしている少女は、どう見ても小学生くらいの年代。

金髪ツインテールといった可愛らしい少女ではあるが、さすがに誘拐は犯罪だ。相手の少女もかなり嫌がっていて抵抗しているのが分かる。


「変態野郎が…」


胸糞悪い光景に小さく舌打ちをする。

腰に装備してあった刀を鞘から抜いた俺は、背後からそっと近づき、半魚人オッサンの首元に刀を突きつける。


「オイ、変態野郎。その子から今すぐ離れろ…さもねぇとその首吹っ飛ばすぞ」


「ひぃッ!!」


半魚人オッサンは青い肌を更に真っ青にし、冷や汗を浮かべながら逃げていった。



「ご、ごごごごめんなさあああああいいいいい!!」


「逃げるなら最初から犯罪まがいな事をするんじゃねぇよ」


呆れながら刀を鞘に戻し、少女へ声をかける。



「大丈夫か?」


「う、うんっ…!助けてくれてありがとう!」


少女は、エメラルドグリーンの綺麗な瞳で俺を見上げながら笑顔で答えた。

そして俺の顔をじーっと見つめてくると、思い出したように声を上げる。



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