「っ…!!」
ワンコ達の身体は炎によってみるみる焼き尽くされていく。
その身体が塵となって消えるまで、ほんの数秒の出来事だった。
「なにが起きてるんだ…っ」
ワンコ達が燃え尽きてもなお、俺の周りは一面火の海と化している。
あの一瞬でワンコを消し、こんなにも広範囲の火を出せるということは相当強いバケモノが現れたのかもしれない。
依然燃え続けている火の
一瞬自分も焼き殺されるのかと身構えたが、その火の粒子は俺の身体に絡みついているツタだけを燃やして解放してくれた。
地面に落ちる直前、火の粒子の塊が俺の身体を包み込む。
「!」
まるで、俺が地面に落下しても痛くないように、クッション代わりになってくれているようにも感じる。
不思議と、火を熱いと感じることはなかった。
無事に地面に着地したところで火の粒子は消え、背後から声をかけられる。
「怪我はないか?」
「!!」
振り返ると、そこには火の様に赤い髪とワインレッドの瞳をした少女が立っていた。
もしかするとあの火は…直感でそう思い、少女に訊ねてみる。
「アンタが助けてくれたのか?」
「そうだ」
「そうか…助かった。礼を言う」
「――それよりも何故、人間がこの世界にいる?」
間髪入れずに聞いてくる少女は、この世界の住人なのだろうか。見た目は人間だが、雰囲気が普通の人間のソレではない。
「悪魔を追いかけてきたらここに辿り着いた」
「なに…?悪魔を追いかけてきただと!?それはどういうことだ!」
「どういうこともなにも、そのままの意味だ。仕事帰りに人間の子供に化けた悪魔と会って襲ってきたから対処した」
「た…対処したぁ…?人間が悪魔と戦ったのか!?」
「だからそうだと言っているだろう。まぁ、子供から大人の姿に変わってからは一瞬で腹を突き刺されてやられてしまったが」
「なっ…」
口あんぐり状態の少女の様子を見ると、あの悪魔についてなにか知っているだろう。
「アンタ、悪魔について何か知っているのか?知っているのならそいつの居場所を教えてくれ」
「馬鹿を言うな!!人間が悪魔に敵うはずがないだろう!悪魔に会ったところで、殺されるだけだ!」
「いや…だが」
(あの時、1回だけあの悪魔に攻撃することができたのは事実だ)
拳を見つめながら、悪魔を殴った時の事を思い出す。
「そもそも悪魔は、
「そんなはずはない。アレは確かに悪魔だった。頭からは角が生えていたし、黒い羽も生えていた。それに自分のことを“魔王”と言っていたんだぞ」
悪魔以外のなんだと言うんだ?と続けると、少女の表情が一気に変わった。
「魔王…?その悪魔は、自分のことを“魔王”だと言ったのか…?」
「そうだ」
「……そうか…。お前が遭った悪魔が、本物の魔王だったのだとすれば最悪なことになった」
「どういう意味だ?」
「…ここだとゆっくり説明が出来ない。場所を移動しよう。詳しくはそのあと話す。お前の様子を見る限り、この世界に来て間もないと見える。この世界がどういう世界なのかも含めて説明をする」
「…」
俺の返事を待たずに歩き出した少女は、いつまでも動こうとしない俺に気付いて振り返った。
「どうした?早く着いてこい。ここは力を求めて襲ってくる悪魔が多いから、あまり長居はしない方がいい」
再び歩き出そうとする少女をじっと見つめ、問いかける。
「――その前にアンタは誰だ?まずは名を名乗れ」
俺の問いに足を止めた少女は振り返り、口元には僅かに笑みを浮かべたまま切れ長の大きい瞳で俺を睨む。
「…随分と警戒心が強い人間だな。どこかもわからない異国に来て、命を助けてもらった相手さえも信じることができないのか?」
「初めて会った相手に、まずは名前を名乗るのが常識だろう。俺は
「……」
「……」
お互いを睨むように見つめ合い、沈黙の時間が続く。
自分が面倒くさい人間だということは分りきっている。
だが、こればかりはどうしようもできない。
素性を知っていても、知らなくても、俺はもう誰かを信じることはできなくなってしまった。
そういう人間になってしまった。
霊感という力があるばかりに。
しばらくの沈黙のあと、少女は小さくため息をつき、俺に手を差し出してきた。
「――名前も名乗らずにすまなかった。私の名前は“ミシェル”。ミシェルと呼んで構わない。この世界――“ヨルノクニ”で暮らしている。種族は四大精霊・サラマンダー。この場所には、魔物討伐の依頼を受けて来ていた」
「四大精霊…」
昔なにかで見たことがある。
“四大精霊”
火・水・風・地の四大元素を司る精霊で、数多くいる精霊の中で最も強力な力を持っていると…
(なるほど。だからあんな広範囲で火を出せていたのか…)
「
差し出された手を握る。
火の精霊だからなのか、とても落ち着く温かい手だと感じた。
「それじゃあ行こう。私達が住む街へ」
ミシェルは振り返り、赤色の髪を
薄暗い森林帯の中、ミシェルの姿が光を
「…あぁ」
先頭を歩き始めたミシェルの背中を追うように、俺は歩き始めた。