地区に戻ってきた俺たちは、数日平穏に過ごした。
どうやら前回の兵士交代からは二週間経ったらしい。
兵士の馬車がまたやって来た。
「やあひさしぶり」
「お。おま、アンダーソン騎士様」
「また来たよ。この任務は基本ローテーションなんだ」
「いや、歓迎するよ」
アンダーソン騎士だ。
長身、金髪碧眼。人間だけど、イケメンの三拍子揃ったって感じのお兄さんだ。
「びよーん」
しかし手にはヨーヨーを装備していた。ギャップがすごいな。
「ヨーヨーは家族にも好評だったよ。兵士たちはいまいちの反応だったけどな」
「あはは」
「んじゃ、引き継ぎしてくる」
「いってらっしゃい」
アンダーソンがヘルベルグと宿舎で話をしていた。
さすがに宿舎の中までは見ないので、よく分からない。
「あぁああ。ワシはコーヒーとはもうお別れだな。町でコーヒーショップなんて、どんな値段で飲まされるかわかったものではないし」
うちは適正価格だけど、高級品を扱う店は当然のように利益率も高いから、末端価格はかなり高価だ。
元値が高いものは、販売額も余計高い。
「すまないが、最後にもう一杯だけ」
「いいよ、アンダーソン騎士もどうですか?」
「ああ、じゃあいただこうかな」
「アンダーソン騎士からはお金を取らないのかね」
「いや、だって、こっちから誘うんだし、歓迎を兼ねてるから。普段から飲みたいっていうならもちろん取るよ」
「だろうな、まあいい」
「今回はヘルベルグ騎士もサービスさせてもらいます」
「話が分かるじゃないか坊主」
「へいへい」
俺の家でコーヒーを三つ出す。
ちなみにこのコーヒーはインスタントコーヒーみたいにして
ドドンゴから最近購入したティーポットを使ってコーヒーを淹れる。
「あ、そうだ。今日はヤギミルクがあるんだけど」
冷蔵庫様様だ。なんとか賞味期限以内っぽい状態のヤギミルクがあった。
「ああ、それじゃあミルクもいただくよ」
「私もミルク入りで頼むよ」
「はいよ」
こうしてみんなでミルク入りのコーヒーを飲む。
「実に、うまい」
「おいしいな」
「美味しいよな、うん」
コーヒーのうまさが分かる人に悪い人はいない。
そういえば最初悪口言ってたけど、あばばば。
「どうですか、ここの生活は」
アンダーソン騎士がヘルベルグ騎士に話しかける。
「最初はテントでどうなるかと思ったが、この家に泊めてもらってな。今は宿舎が完成したから快適だよ。領都のうるさい上官殿もいないから、精神的にも快適そのものだ」
「なるほど。それはよかったですね」
「ああ、戻らなければならないと胃がキリキリしてくるな」
「ご自愛ください」
とにかくこうしてヘルベルグのおっさんも戻っていった。
「それでブランダン君」
「なんでしょう、アンダーソン騎士。改まって」
「ヨーヨー他、そのリバーシ、コマとかどうだ。売り出さないかい、うちのコネを使って」
「ほほう、詳しく」
俺からは木琴も候補に加えてもらった。
俺が生産するのは最初の見本のみ。
町の暇そうな木工職人に仕事をさせる。アンダーソンはあのマーリング辺境伯と親交があるらしいので、権利は販売額の二割を俺がアンダーソン騎士が一割もらう、領内で有効な覚書を作ってもらう。
製造者は基本的には許可制だけど、新規業者を拒むことは基本的にはしない。ただし質が悪い悪徳業者は締め出すようにするらしい。
普通は特許制度とかないので、こういう利権は、上を説得できるかどうかにかかっている。
偉い人が決まりを決定したら、下々は従うほかない。封建制度だからできることでもある。
コネがないとできない。
「木板物語も、こっちの伝手で販売すればよかったな」
まあ木板物語は単価が安いという性質があるから、まあいっか。
しかも孫業者の海賊版が出てくるのは防ぎようがない。
領主の御旗のもと許可があるというのは、かなり大きい。
違反するということは、すなわち、領主に盾突くことに他ならない。
最悪の場合、違反者は打ち首とかになることもある。
「えへへ、儲かるかな」
「木琴はけっこう高め。コマとかはそれほど高く売れないだろうから、利益もおまけ程度だと思うが、ないよりはいいだろう。ついでだついで」
「ですよね」
「とりあえず、ここ二週間はここで下準備だけ。私用で馬を走らせるわけにはいかないけど、報告書のついでに送ることぐらいはできるから、辺境伯やうちの家族宛ての手紙は出しておくよ」
「助かります」
今度は猫じゃらし茶を出して、まったりする。
最近は気温もすっかり涼しくなったから、こういう温かいお茶は美味しい。
「本当にこの集落は不思議だな。貧困ど真ん中かと思って来てみれば、なかなか豊かな野菜、それにいつもある肉。さらにコーヒーに各種お茶と、
「俺が趣味でやってるんです。でも人生懸けてますよ、これには」
「人生懸けてたか、さすがだな」
「まあ、それほどでも」
とにかくこうして、リバーシとかコマの権利の販売をすることになった。