「よ、さすが村長の息子だけはあるな、すげえ」
「ま、まあな」
ちょっと威張ってるけど、まあ役得だろう。偉い人には偉い人なりの役割がある。
リーダー的な存在なのだろう。
俺も少しは見習わないとな。
こうして全種類お買い上げ、彼の家は子供図書館と相成りました。
俺たちはお小遣いがもらえて、ウィンウィンという関係になった。
他にも個人用に子供たちが何人か買った後、去っていった。
店じまいかなと思ったけど、次は後ろで見ていた大人が興味を示してきた。
「なるほど、木板物語ね。物語を板に書いておくというは、いいアイディアじゃないか」
村人の一人だろう、男は言った。
「在庫は、全部買っちまってもいいのかい?」
「ええまあ、自分たちのものは集落に確保してあるので」
「だろうな。ちなみに勝手に複製を作って売るのは?」
「できればやめてほしいですけど、権利料として利益の三割をくれるなら」
「ああ、なるほど、よく商売のことを分かってるな。禁止したところで勝手にやられるのが落ちだ。それなら権利を行使して、お金だけ受け取るってのは賢い判断だな。もちろん誤魔化すことはできるが、まあそこは信頼だな」
「そうですね。お互い気持ちよく仕事したいでしょうに」
「そうだな、それじゃあ成立でいいか? 在庫は全部俺がもらう」
「いいですよ、まいどありです」
子供三人で持ってこれる量だったので、そこまで多くはない。
これが紙だったらもっと大量に持ち込めるけど、木の板だから限界はある。
おじさんは木の板を積み上げると、即金でお金を払っていった。
「あ、忘れてた。権利料だったか。もし売れたらだけど、次の村に来るときに言ってくれ。俺のうちはあそこだから」
おじさんは数軒先を指さした。村だと狭いから家近くていいよな。
「はい。売る当てはあるんですか?」
「俺はよく町まで行ってるんだ。そのときに売るよ」
「なるほど」
いやドドンゴ経由で受け取ったほうが楽だ。
「あそうだ。ドドンゴ知ってるかい?」
「もちろん知ってるよ。この村に出入りしてる貴重な商人の一人だな」
「ドドンゴ経由で取引すると、うちの集落まで来てくれるから楽なんだけど」
「わかった。じゃあそうする」
「よろしく」
この村でも当然のようにドドンゴの信用度はかなり高い。
これで俺が村まで来なくて済むようになった。しかも村の住民が勝手に売って、勝手に利益をくれる。
これは不労所得といえるのでは。とてもいい仕事だ。ただ一枚銅貨十枚で三割だと銅貨三枚か。金貨にするにはかなりの枚数が必要だな、などと考えてしまった。
自分基準の蜂蜜が高額すぎるのがな。普段の物価が分からなくなるような蜂蜜相場だからな。
もう夕方になったので、寝ることにした。
みんなで村唯一の宿屋で雑魚寝だ、雑魚寝。ベッドがあるなんて高価な宿ではない。
その代わり、ここの二階の部屋は土足禁止になっている。
明日は何しようかな。すぐ戻るというのも手だけど。ニワトリの世話は母ちゃんがやってくれる約束になっているし、大丈夫だ。
翌朝、いきなり帰るのもまだ寂しいから、ちょっとだけ歌っていこう。
朝市を一通り見学して回り、それが終わったら隅のほうでスタンバイをした。
今日も歌う。
木琴も準備して、昨日と同じ歌だ。
童謡メインなので、聴くほうもすぐ覚えるだろう。
こうしてまず全曲一周をした。
また子供たちが集まってきた。
もう一周、曲をやる。
「一緒に歌いたい子はどうぞ」
そういうと一緒に歌ってくれる子も何人か出てきた。
さらにもう一周、曲をやる。まだまだ新鮮だ。
みんなで歌い、調子はずれの子もいるけど、楽しく歌えた。大盛り上がりを見せた。
「歌うのは無料です。でも、この楽器も販売しています。どうですか。村で最低一つとか。親御さんにおねだりしてみましょう」
「あ、あの、ちょっと待っててください」
「いいですよ」
そういうなり走って消えた。
少し待ったら戻ってきた。
「あの、楽器、木琴、ください」
「はい銀貨一枚です」
「あ、ああ、はい」
手にはしっかりと銀貨が握られていた。
銅貨が百円ぐらいで百枚で銀貨。銀貨一枚が一万円ぐらい。
俺は在庫のほうから木琴を出して、渡してやる。
「演奏指導とかできないけどいい?」
「はい、手探りでも頑張って覚えます」
「悪い。そうしてくれ」
楽譜を用意していなかった。ちょっと失敗だった。
ただ楽譜があったとして、その読み方まで指導が必要なので、指導がエンドレスしそうでちょっと困る。
「とりあえず一曲覚えていく?」
「はいっ!」
そういって一緒に演奏した。何回も練習させる。
飲み込みは早いみたいで、少しして短い童謡だけど、演奏できるようになった。
他の子も一緒に歌ってくれた。
販売は終了だ。
町の商店にいき、ヤギミルクを購入してひっそりとアイテムボックスにしまった。
こうして楽器のほうも一台売れて、俺たちはスモーレル地区に戻っていった。