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44. 木板物語


「よ、さすが村長の息子だけはあるな、すげえ」

「ま、まあな」


 ちょっと威張ってるけど、まあ役得だろう。偉い人には偉い人なりの役割がある。

 リーダー的な存在なのだろう。

 俺も少しは見習わないとな。


 こうして全種類お買い上げ、彼の家は子供図書館と相成りました。

 俺たちはお小遣いがもらえて、ウィンウィンという関係になった。


 他にも個人用に子供たちが何人か買った後、去っていった。




 店じまいかなと思ったけど、次は後ろで見ていた大人が興味を示してきた。


「なるほど、木板物語ね。物語を板に書いておくというは、いいアイディアじゃないか」


 村人の一人だろう、男は言った。


「在庫は、全部買っちまってもいいのかい?」

「ええまあ、自分たちのものは集落に確保してあるので」

「だろうな。ちなみに勝手に複製を作って売るのは?」

「できればやめてほしいですけど、権利料として利益の三割をくれるなら」

「ああ、なるほど、よく商売のことを分かってるな。禁止したところで勝手にやられるのが落ちだ。それなら権利を行使して、お金だけ受け取るってのは賢い判断だな。もちろん誤魔化すことはできるが、まあそこは信頼だな」

「そうですね。お互い気持ちよく仕事したいでしょうに」

「そうだな、それじゃあ成立でいいか? 在庫は全部俺がもらう」

「いいですよ、まいどありです」


 子供三人で持ってこれる量だったので、そこまで多くはない。

 これが紙だったらもっと大量に持ち込めるけど、木の板だから限界はある。


 おじさんは木の板を積み上げると、即金でお金を払っていった。


「あ、忘れてた。権利料だったか。もし売れたらだけど、次の村に来るときに言ってくれ。俺のうちはあそこだから」


 おじさんは数軒先を指さした。村だと狭いから家近くていいよな。


「はい。売る当てはあるんですか?」

「俺はよく町まで行ってるんだ。そのときに売るよ」

「なるほど」


 いやドドンゴ経由で受け取ったほうが楽だ。


「あそうだ。ドドンゴ知ってるかい?」

「もちろん知ってるよ。この村に出入りしてる貴重な商人の一人だな」

「ドドンゴ経由で取引すると、うちの集落まで来てくれるから楽なんだけど」

「わかった。じゃあそうする」

「よろしく」


 この村でも当然のようにドドンゴの信用度はかなり高い。

 これで俺が村まで来なくて済むようになった。しかも村の住民が勝手に売って、勝手に利益をくれる。

 これは不労所得といえるのでは。とてもいい仕事だ。ただ一枚銅貨十枚で三割だと銅貨三枚か。金貨にするにはかなりの枚数が必要だな、などと考えてしまった。

 自分基準の蜂蜜が高額すぎるのがな。普段の物価が分からなくなるような蜂蜜相場だからな。


 もう夕方になったので、寝ることにした。

 みんなで村唯一の宿屋で雑魚寝だ、雑魚寝。ベッドがあるなんて高価な宿ではない。

 その代わり、ここの二階の部屋は土足禁止になっている。


 明日は何しようかな。すぐ戻るというのも手だけど。ニワトリの世話は母ちゃんがやってくれる約束になっているし、大丈夫だ。




 翌朝、いきなり帰るのもまだ寂しいから、ちょっとだけ歌っていこう。


 朝市を一通り見学して回り、それが終わったら隅のほうでスタンバイをした。


 今日も歌う。

 木琴も準備して、昨日と同じ歌だ。

 童謡メインなので、聴くほうもすぐ覚えるだろう。


 こうしてまず全曲一周をした。

 また子供たちが集まってきた。


 もう一周、曲をやる。


「一緒に歌いたい子はどうぞ」


 そういうと一緒に歌ってくれる子も何人か出てきた。


 さらにもう一周、曲をやる。まだまだ新鮮だ。

 みんなで歌い、調子はずれの子もいるけど、楽しく歌えた。大盛り上がりを見せた。


「歌うのは無料です。でも、この楽器も販売しています。どうですか。村で最低一つとか。親御さんにおねだりしてみましょう」


「あ、あの、ちょっと待っててください」

「いいですよ」


 そういうなり走って消えた。

 少し待ったら戻ってきた。


「あの、楽器、木琴、ください」

「はい銀貨一枚です」

「あ、ああ、はい」


 手にはしっかりと銀貨が握られていた。

 銅貨が百円ぐらいで百枚で銀貨。銀貨一枚が一万円ぐらい。


 俺は在庫のほうから木琴を出して、渡してやる。


「演奏指導とかできないけどいい?」

「はい、手探りでも頑張って覚えます」

「悪い。そうしてくれ」


 楽譜を用意していなかった。ちょっと失敗だった。

 ただ楽譜があったとして、その読み方まで指導が必要なので、指導がエンドレスしそうでちょっと困る。


「とりあえず一曲覚えていく?」

「はいっ!」


 そういって一緒に演奏した。何回も練習させる。

 飲み込みは早いみたいで、少しして短い童謡だけど、演奏できるようになった。

 他の子も一緒に歌ってくれた。


 販売は終了だ。


 町の商店にいき、ヤギミルクを購入してひっそりとアイテムボックスにしまった。


 こうして楽器のほうも一台売れて、俺たちはスモーレル地区に戻っていった。


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