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42. 楽器


 ドロシーが風邪の間、俺はその間も、兵士と訓練したりニワトリの世話をしたり、メアリアの物語を読んだりして過ごした。

 しかしやっぱりドロシーが一人いないだけで、変な感じだ。


 ドロシーは三日ぐらいで熱も下がって、よくなった。


 いつも歌っているリズとかドロシーとかを見てて、そういえばこの世界には楽器っぽい楽器はあんまり普及していないなと思う。

 以前、町に行った時にも、吟遊詩人がリュートを持って演奏とかも異世界ファンタジーなら定番ではあるけど、そういうのもなかった。


 ということで楽器を作ろうと思う。

 リコーダーを作ろうとしたけど、まず木に穴をあけてそして笛部分を作るのが難しいことがすぐにわかったため、中止した。


 本命に取り掛かる。

 今度は木琴のようなもの、いわゆる子供のおもちゃとかであるアレだ。

 本物の木琴は結構でかい上に、下に増幅管みたいなパイプとかもついていて、かなり本格的だけど、これは木の板を渡しただけのやつ。

 音もそれほど大きくない。

 とにかく、自分の感覚でドレミファソラシドを合わせていく。


 実は音楽の音階の音の高さ、音程ってのは、人間が自然と身に付くものではなく、既存の楽器や曲などを聴いて、初めてあの高さに合わせられていく、後天的なものなんだそうだ。

 だから日本人も西洋音楽を聴いて、ドレミに合わせている。

 江戸時代の人とかがどんな音感を持っていたかは結構謎だ。


 ということで変な音程がこの世界で普及したら、俺のせいかもしれない。


 ドレミっぽい音程に合わせて木を削って鳴らしてを繰り返して、それっぽくした。


「わわ、すごいです」


 作業を見ていたメアリアはうれしそうだ。


「町でこういうの見たことない?」

「そういえば、見たことないですね。演奏なしで歌っている人はたまに見ますが」

「楽器ってないの?」

「『楽器』って言葉がある程度は知ってますけど、本物を見たのは旅芸人が持っていた一、二回ぐらい、ですね」

「そうなんだ、一応あるんだね」

「はい。でも本当に一応ですね。普及はしてません」

「なるほどね」


 ふうん。あることはあるんだな。

 とにかく木琴を作ってしまおう。

 各音階をどんどん作っていった。

 なお面倒だったので、今回はドレミファソラシドレミ、ぐらいで半音は未装備だ。


 有名な童謡とかの曲、カエルに関する歌とかを弾いていく。どうでもいい情報だけど、日本語歌詞の著作権は、俺が死んだ時点ではまだ切れていなかった。

 まあ異世界では無効だし、日本語で歌っても、意味不明なんだろうけど。


「ブランは楽器作ってすぐに、何か知らないけど弾けるんだね」

「うん、まあ」

「すごいね、なんでなの?」

「まあ、色々」

「色々ね、変なの」


 ドロシーに突っ込まれた。まあ前と同じように誤魔化しておく。


 こっちの言葉で、童謡の歌詞をそのまま翻訳して歌ってみせる。


「んじゃ一緒に歌う?」

「「「うん」」」


 みんなで例の合唱曲を歌ってみる。

 ちなみに、よくメジャーな有名曲とかを異世界に行って弾いたり歌ったりするっていう人がいるけど、聴いただけの曲をすぐ俺に弾けるわけもなく、そういうのは無理だ。

 一般人ってのは歌う音程を分かっていても、それがドレミでいうとどれで、弾くときにはどうなるってすぐには分からない。

 ピアノを何年も幼少のころから習っていたとかなら例外だけど、俺はそうではない。


 ドレミを聴いたものに合わせて探る作業とか、素人がやるとすごく大変なんだぞ。PCが趣味でフリーのDAWという音楽作成ソフトで耳コピという作業をしてみようとした俺がいうんだから間違いない。

 ドレミだけ合わせても、今度は調が違うこともある。要するに相対音感だけだと、全体の音の高さがずれていることがある。


 だから簡単にメジャーの曲を聴いてカラオケで歌っていたから程度の能力では、とても異世界に曲を持ち込めないのだ。

 もちろん、一音ずつあーでもない、こーでもないと音を探って楽譜に起こすことも、できないことはないが時間がすごい掛かるし根気もいる。


 ということで俺が弾けるのは、小学校や中学で習ったり演奏したりした曲中心になる。あははこの辺の中途半端さはさすが、器用貧乏の名に恥じないといえよう。


 童謡でも曲は曲だ。みんなはかなり喜んでくれた。


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