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37. プリン


 ドドンゴたちが他の家との商談をして戻ってきた。

 もうすぐ夕ご飯ではあるが、まだ時間は余り気味だ。

 ドドンゴはいつも早めに来て、余裕を持って商談して泊まっていくから。


 ドロシーたちも商談が終わり、俺の家に集まっていた。


「んじゃあ、ちょっと卵があるんで、例のアレを作りたいと思います」

「例のアレってなによ」


 ドロシーがもっともなことを言ってくる。


「プリンを作りたいと思います」

「プリンって何かしらね」

「わかんにゃい」

「プリンとはなんでしょうね?」


 みんな頭にクエッションだ。まあしかたがない。


「まあ見ててよ。作業はそれほど難しくないから」


 竹のコップ小を人数分、三人娘、それにドドンゴとしょうがないのでヘルベルグ騎士の分も用意する。

 騎士様は今日も暇で、ドドンゴと一緒に商談についていったあと、戻ってきた。

 夜はうちに泊まるので、そりゃあ必然、戻ってくるんだけど。


「まずはカラメルを作ります」


 ドドンゴから買った金属鍋の小さいのに、なけなしの砂糖を入れる。

 蜂蜜ではどうなるか不明なので、今回は砂糖を使う。


 そしてやや焦げすぎないように注意しつつ、砂糖水を溶かして、焦げはじめたらすぐに火からおろして、コップに注ぐ。


 次に最初からプリンのために取ってあった卵を使う。

 普通は卵と牛乳を使う牛乳プリンが一般的だけど牛乳がないので、卵をといて水で薄める。

 そこに砂糖だともったいないので、蜂蜜を投入して甘みを加える。

 蜂蜜もなけなしの自家用だ。


 卵水をカラメル入りの竹コップに注ぐ。

 そのコップを浅めに水を張った大きな鍋の中に並べていく。

 そしてその鍋を火にかける。


 蒸し焼きにするのだ。

 乱暴な言い方すると、プリンって要は砂糖入りの茶碗蒸しなわけですよ。

 ゼリーのようにゼラチンとかも不要なのだ。

 できれば牛乳はあったほうがいいけど、なくても大丈夫のはずだ。


「砂糖が入ってるから美味しいに決まってる、です」


 ぽつりとメアリアがつぶやいた。その通りだと思う。


 でるというか、蒸し終わったので、火からおろした。


「お、ブラン、できたのよね?」


 ドロシーが確認してくる。


「うん、ちゃんと固まってるね。できたけど、でも冷やしたほうが美味しいよ」


 うちには夏の終わりごろから冷蔵庫がある。

 卵をとりあえず冷やしたり、父ちゃんが狩ってきたお肉を冷やしたり、ちょっとだけ使っている。

 生肉が使えるようになったのは、想定してなかったけど、うれしいことだ。柔らかい肉が食える。


「まあ、半刻ぐらい待ってくれ」

「半刻がどれくらいか分からないわ」


 まあそうだろうな。ここには時計というものがない。

 ついでに言えばカレンダーもないので、今日が何月何日か分からない。

 年間カレンダーは季節を感じて、だいたいで生活している。


 だから誕生日を祝ったりする習慣もないのだ。

 記念日とかもない。

 年末年始もだいたいでやってる。

 宗教的なことが薄い村なので、そういう祭日とかがなくて適当だ。


 年齢は誕生日が来ると増える満年齢ではなく、数え年タイプだ。ただしゼロから始まるから誤差は少ない。


 みんなウキウキしながら、リバーシをして待った。

 そういえばリバーシを見ても、ドドンゴもヘルベルグも何も言ってこないな。

 売り出そうとかいうものじゃないんだろうか。

 でも町で売り出したら、すぐに真似されて量産できる人が勝つというのが、特許とかライセンスとかの概念がない中世もどきの世界での常識だと思う。

 ずるいと言えばずるいが、独占販売だって、独占側がずるいと言われるだけだ。


 だから面倒で売るということをしていない。

 もちろん貴族に販売権利を独占させる約束を取り付けることができれば、例外だ。

 あの領主なら、お願いしてみればいけるかもしれないけど、そこまで大事にしたくないな。


 平穏無事にスローライフできればいいんだ。


 いやまて、領主にライセンス契約だけして売れたものの利益の一割を俺にくれ、っていえば売れただけ全部の利益をもらえるから、自分で作って売るという、忙しさマックスの愚行をするよりずっといいかもしれない。


 とにかく三十分経った。この世界では一応、三十分が半刻だ。


「はい、これがプリン。どうぞ」


「「「甘い、おいしー!!」」」


 まず声を上げたのが三人娘。


「ふむ、美味しいですね。さすがブランダン様。でも卵も手に入りにくいんですよね。このカラメルっていうのが、ほろ苦くて美味しいですな」


 前にも言ったけど、町で卵を手に入れるのも大変だ。

 むしろ農村でニワトリを飼ってる家のほうが、入手が楽という世界だ。


「実にうまい。素晴らしい。ワシも町では、卵料理はあまり手が出ないですね。実に残念だ」


 ヘルベルグ騎士も、美味しいと喜んだけど、帰ってから食べられないらしく、悔しがっていた。


 とにかく評判は上々だった。


 ドドンゴは翌日の朝、余裕を持って帰っていった。


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