兵士たちが来て二週間が経過した。ほぼ宿舎も完成間近というところ。
また馬車と馬がやってきて、兵士が降りてきた。
「なんだろう、増員かな。もっと増えるの、マジで」
「さあ」
「どうだろうにゃあ」
「兵士さんたくさん、です」
俺たちの感想はそこそこにして、兵士がやってきた。
「兵士さん何用ですか?」
一応、村長の息子として、第一報ぐらいは俺が知らせてやろう。野次馬根性ともいう。
「俺たちは交代要員だよ」
「ああ、交代するんですね」
「そうだよ。それに食料の量もそこまでないしな」
「確かにそうですね」
ご飯が別々だったから気がつかなかったけど、確かに食料をそんなずっと足りるほど持ってきていないだろう。
しばらく引き継ぎの作業をした後、その日のうちに来た馬車でそのまま帰るようだ。
アンダーソンも交代らしい。
「君たち、寂しくなるな。俺は戻らなければならないんだ」
「そうですね」
「ばいばい、アンダーソンにゃ」
「さようなら、です」
みんな握手をしてお別れした。
アンダーソン騎士の手にはヨーヨーが握られている。
それを三回、びゅーんってやって、にっこり笑うと、手を振って馬車に乗り込んだ。
アンダーソン騎士はいいやつだったよ。
交代で来たやつはどんなかな。
実はもうすでに見てしまったので、今からげんなりしている。
一応、騎士らしいんだけど、なんか中年デブなのだ。
「アンダーソン君も行ってしまったし。ワシは暇だな」
とか言っていた。名前はヘルベルグ・ブルレリア騎士。彼も騎士爵だ。
なんか憂愁漂っていて、左遷されてきた感じ満々なのだ。
「ほら、子供はあっち行って遊んでなさい。兵士の仕事の邪魔はするなよ」
どうやら俺たち村の子供と遊ぶような心の広さはないようだ。
やれやれ、先が思いやられるな。
「なんでワシがテント暮らしなんか」
そう、まだ宿舎は未完成なのだ。
そして交代要員の士気は低い。当分、テント暮らしかもね。あはは。
「そうだそこの君」
君とは俺だ。
「なんでしょう。騎士様」
「そうだそうだ。ワシだけ家に泊めなさい」
「はあ、前の騎士様はちゃんと兵士と一緒にテント暮らしでも、嫌な顔一つしないイケメンでしたよ」
「なにがイケメンだ。上司の顔色
どうやら俺とは意見が合いそうにないな。まあこういう嫌なこともたまにはあるんだろう。しょうがないなあ。
ということで、ヘルベルグ騎士様もうちで泊めることになった。はやく宿舎完成してほしい。
俺がコーヒーを独り楽しんでいると、ヘルベルグ騎士も興味を示してきた。
「おい、坊主」
「なんでしょう、騎士様」
「それ、コーヒーではないかね」
「そうですけど、なんですか」
「こんな田舎のガキが、コーヒー、それにそっちは砂糖ではないか」
「そうですけど、なにか?」
「ワシにも、飲ませなさい」
「いいですよ。ただし、料金は適正価格、いただきますよ。安くはないので」
「むむ。まあ、確かに。しかたがない、代金は払う」
正直なところ、お金より俺のコーヒーが減るほうが問題だけど、騎士様に文句も言えるはずもない。
「前払いです」
「ぐぬぬ。ワシを信用していないと」
「そりゃあ、今日会ったばかりの新任を信用なんてしませんよ。信用してても、いや、信用しているからこそ、先払いでお願いしたいですね」
「なるほど。一理ある。親しき仲にも礼儀ありというしな」
「そうですね」
こうして代金を先にもらって、コーヒーを飲ませてやる。
「ふむ、これがコーヒーか、いい匂いだ。それにうまい」
「あれ、飲んだことないんですか?」
「むむ。いや、飲んだことはあるぞ?」
「でもこれがコーヒーかって」
「まあ、いいではないか」
なるほど、飲んだことない貧乏騎士だけど、恥ずかしいから自分からは言えないってやつですね。
気を遣うのもけっこう面倒くさいな。でも、顔は幸せそうだ。
「コーヒーというものは、何というか。素晴らしいな」
このおじさん。実は悪い人ではないのかもしれない。どっちかというと平和ボケというか、能天気で、それで出世できないタイプなんだと思うわ。
緊張感が圧倒的に足りていない。
コーヒー好きに悪い人なんていないに違いない。