夏の終わりごろ。また沢にきて、今度はザリガニ取りをすることにした。
「というわけで、今日は沢でザリガニを取ります」
「「はーい」」
ザリガニを取るのは初めてではない。
去年も一回ぐらい食べた気がする。
だから二人もその味は知っているはずだ。
夏服の涼しい格好で、沢に向かった。
「さあ、誰が一番多く捕まえられるかしらね」
「わわ、わたしが一番にゃん」
「さあどうだろうな。俺かもしれないし」
「「それはない」」
「えーなんで」
「ブランはこう見えて、あんまりすばしっこいの苦手にゃん」
そうだったのか俺。
まあ普通くらいかな、俺の運動神経は。
こうしてザリガニ素手掴み合戦が始まった。
今日はちょっと固めの籠を持ってきているので、それに取れたザリガニを入れていく。
「取れたにゃああ」
最初に取ったのはリズだった。
「ま、負けないわ」
そこにドロシーの魂に火が付いた模様。
「あはは、取れたわ」
ドロシーが今度は一匹目を手に取って、持ち上げる。けっこうでかい。
俺もたまにザリガニが取れて、そこそこの数を揃えることができた。
沢の水はそれなりに澄んでいて、泥抜きとかもしなくても泥臭くない。
これが池とか沼だとかなり臭うのを俺は知っている。
だからあまり食欲湧かないのだけど、味は一級品だ。
特にこの山の中で、海のエビとか食べられるわけもないので、貴重な機会だ。
「いっぱいと~れ~た~♪」
「にゃんにゃがにゃ~♪」
ドロシーとリズは結局どっちが勝ったか分からないけど、勝利の歌を二人で歌い、お互いほめ合っていた。
ケンカにならなくてよかった。
家に帰り、塩茹でにしてもらう。
塩はベルガル王国では一部の領土が海に面しているので、そこまで貴重ではない。
俺たちのいるマーリング辺境伯領は海に面していないから、ちょっとだけ他の領よりは値段が高いらしい。
それでも塩茹でするぐらいは大丈夫だ。
ザリガニの茹でるいい匂いが漂ってくる。エビみたいな感じしかしない。
そう、どう見てもエビ。匂いもエビ。
ただハサミがついてるぐらいなもんだ。あとは殻が固い。
日本人としては、若干ザリガニに忌避感あるんだけど、この美味しそうな匂いの前には、そんなもの吹き飛んでしまう。
茹で上がりのザリガニは赤いいい色をしていた。
「「「いただきます」」」
ザリガニは、みんなのお昼ご飯になった。
ぷちパーティーみたいな感じ。
俺ブラン、両親のゴードン、ナターシャ。ドロシーの両親のバドル、メーラ。そしてリズとカエラばあちゃん。
みんな集合して、ザリガニをいただいた。
ザリガニは取りつくすほどではない。繁殖力がすごいらしく、一年で数はすぐ回復するらしい。
エビみたいな甘みと旨味がすごい。これは美味しい。
「おいしーです」
「おいしいにゃ」
みんな、殻を
夏野菜のサラダも一応、添えられている。
実験農場は大活躍で、秋収穫の麦以外の野菜類が大豊作で、おかずが増えていた。
この人数で食べるには、ザリガニ取りは年一回ぐらいが限度かなというところ。
もちろん川とか他の沢まで行けば、もっと取れるかもしれないけど、そこまでしようとはあまり思わない。
今度は何をしようかと考えて、タンポポコーヒーだけだと普段はお水ばかりだなと思い至った。
そこで、カエラばあさんに話を聞き、お茶になりそうな葉っぱを探すことにした。
「というわけで、タンポポコーヒーの代わりに、葉っぱを取りに行きます」
「「はーい」」
毎食、みんなの分だと結構な量がいる。
特に今は夏だけど、寒い冬の間は暖かいお茶っぽいものがあると喜ばれるだろう。
カエラばあちゃんとともに山に入っていく。
まだ暑い夏だけど、木陰なども多く、緑の葉っぱはたくさん生えている。
一種類ではなく、候補になる草は目星がついていて、いくつかあるので、それらを取って歩いた。
もう山登りも慣れてきた。子供の体力ではきついかなと思っていたけど、案外慣れるもんだな。
「この葉っぱだ」
「そうじゃな」
こうしてぷちぷち葉っぱを取って、背負い籠に入れていく。
「あったにゃ」
「こっちにもあったわ」
リズとドロシーも見つけて左右見える範囲で手分けして取っていく。
むろん、一か所で取り過ぎて全滅させないように気をつける。
古い葉っぱは固かったり、苦かったりしそうなので、取らないでおく。