しばらく前の頃、俺は山をせっせと登ってある生き物を探していた。
もちろん、みんなも一緒だ。
俺が一人で山歩きなんて、許してくれる人がいない。
剣は持ってきていないけど、魔法で対処できる。
けっこう登ってきた。
「お、あ、いた、いた」
そこには木の葉っぱを食べている、山カイコの姿があった。
ちなみに時期的にはぎりぎりで、もうすぐ
「芋虫嫌い」
「まあ、そう言わず。嫌いなら見てるだけでいいよ」
「見てるのも、気持ち悪い」
「じゃあ、離れない程度でその辺で遊んでてくれ」
「わかったわ」
ドロシーは芋虫嫌いらしい。
とにかく、カイコを見つけたので、確保だ。
餌も一緒に収穫していく。
だいぶ前、絹を見せてくれた人がいたと思う。
母ちゃんのハンカチだ。
シルクは黄金にもまさる価値があるって昔は言われていた。
そして今でもその価値は、相変わらず高いのだ。
前世でもそうだったけど、美的感覚は同じらしく、こちらの世界でも高級品だった。
「じゃあドロシー以外のみんな、これがカイコだから見つけたら、そっと、取ってきて」
「はいにゃ」
「はーい、です」
今日は山なのでジェシカはお留守番だ。
警備隊の本業のほうで、急な呼び出しがあるかもしれないので、一緒には遊べない。
まあ、こっちも遊びでやっているわけではないが、半分は遊びである。
遊びだと思っておかないと、万が一、失敗した時の精神的負担が高すぎる。
これはスローライフの一環という、遊び半分で、でも真剣にやっているのだ。
リズが見つけた芋虫を持ってきた。
「残念。これは違う種類だよ」
「そんにゃあ」
「そういうこともあるさ。じゃあ、別のよろしく」
芋虫そのものは、もう時季外れなので、あまり種類がいないけど、何種類かはいるらしく、ハズレがある。
カイコを持ってくるんだぞ。
カイコちゃんたちをなんとか、集めることに成功した。
これであとは飼育と人工繁殖ができれば、このミッションは完了だ。
持って帰った集落に到着した。
「これは、焼いて食べるのにゃ?
「いや、カイコ食べたらだめでしょ。まあ繭を作った後なら食べてもいいけど」
「え、食べないにゃ?」
「うん」
リズはたくましいな。俺はあんまり虫は食べようとは思わない。
実際、地球でも食べる文化はあるらしいけど、現代人にはちとキツイ。
「育てて、絹、シルクにするんだよ」
「絹にゃ。あれは綺麗だったにゃ」
「そそ、それだよそれ」
ちゃんと絹を覚えていたかリズちゃんよ。偉いぞ。
取ってきた葉っぱを食べさせて、家の中で室内飼いをする。
このカイコは山カイコなので緑色だ。
地球の人工飼育のカイコは白いのが特徴的だ。自然界では白いと鳥に食べられやすい。
こうして日々、葉っぱを食べさせて、カイコの世話をした。
そしてついに、繭を作る。
口から糸を出して、繭を作っていくんだけど、この糸、出しっぱなしで全部一本に
綺麗な薄緑色の繭だった。これが山カイコだ。
繭が完成したら中で芋虫はサナギになる。
それから日数が経過して、やっと、ついに
この世界の山カイコは、糸を切らないで繭から出てくる。
だから糸を取るために、サナギごと茹でてしまう必要がない。
蛾になったカイコたちは、卵を産んでしばらくして死んでしまう。
お疲れさま、カイコちゃんたち。
そして手元には、繭と卵が残っている。
繭を茹でて、柔らかくして、糸を引っ張り出して、糸車に巻いていく。
この日のために、糸巻き機は作ってあった。
手動の簡単な仕組みのものなので、大量生産には向かないけど、個人用なら十分に威力を発揮する。
糸巻きの歌を歌った。たぶんみんなも知っていると思う。
みんなで歌いながら、糸を紡いでいく。
普段使っている綿や羊の毛糸より、明らかに細くて綺麗な糸が出来上がった。
「できたあ」
といってもできたのは糸だけだ。色も薄緑色をしている。
町で軽く仕入れた情報によると、薄緑色だけど、これはこれで高級品ということになっているらしい。
生地にするのが普通だと思うかもしれない。
でもさ機織り機なんて、そうほいほい持っていないし、作ることもかなり難しい。
田舎の子供だけの力でなんとかなるような代物ではないのだ。
ということで、糸のまま売ろうと思う。
「すごいじゃないか」
アンダーソン騎士だ。
「へへへ。きっと山にはいるんだろうな、と当たりを付けていたんですよ」
「へえ」
「私が全部買い取りたいが、そうだな、ドドンゴ君が来てから相談しよう」
「そうですね。ドドンゴも欲しいって言うかもしれないし」
「だろうな」