「コガネムシが出たぞおおお」
ドロシーのおっちゃんバドルが大きい声で知らせてきた。
「もうそんな季節か、そりゃ大変だ」
俺は感慨深そうにそう思った。
「ブラン、じゃあ畑いこっか」
「ああ」
俺たちは収穫した後、草半分、枯草半分の畑を見て回る。
「お、いたいた。一匹確保」
注意深く草の間を見ると、たまに黄金の虫がいる。
それがコガネムシだ。
前世ではカナブンみたいな昆虫だったけど、あれとは異なるらしい。
それでこのコガネムシ。なんと甲の一部に金が含まれていて、それで金色なのだ。
だから金が飛んでくるようなもので、現金収入になっていた。
この時期になると、飛んできて一斉に畑などに出没する。
ただ、なかなか見つからない。
辛抱強く、畑を見るしかない。
みんなばらけて、一生懸命見る。
これでその年の収入の二割ぐらいにはなってると思うので、麦の売却と並んで、非常に重要な年中行事なのだ。
「コガネムシね」
ジェシカも探してくれる。
いつもは飛んでるけど、今日は飛んでない。
虫はカナブンの半分ぐらいの大きさで、高く飛ぶと見えないのだろう。
コガネムシ探しは、夕方近くまで続いた。
今年の発見数は平年並みのようだ。これで安心して冬が越せるだろう。
数日後の朝、父ちゃんがコガネムシをまとめて持ってトハムン村まで出かけて行く。
毎年恒例の納税の日だ。
この集落の分、まとめて父ちゃんが支払う義務があった。
「父ちゃん、いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
最近では俺もトハムン村まではたまに行ったりするようになったから、別に珍しくもないけれど、やっぱり集落から人が出ていくというのは、それなりに気になることだ。
この世界というか俺たちの領では、税金は人頭税なので、農民はひとりいくらと決まっている。
だいたいひとり金貨一枚ぐらいだろうか。
基本的には現金で納めることになっていた。ただし麦などを持って行っても場合によっては換算してくれることが多い。
今までは、だいだい現金半分、麦半分で納めていたけど、今年は現金があるのでお金だけ持っていく。
人数も増えたので麦で支払うにも限界もある。
やはりお金は便利だ。
いつもは村まで馬車を借りに行って、それで戻って来て麦を積んでいく作業があるけど、今年はなし。
麦はすでにドドンゴへ売ってしまってある。もちろん自分たちの分、新しい村人の分などは売却していないで保存してある。
「税金なんてなければいいのにね」
ドロシーがしれっと言ってくる。
「まあね。でもほら辺境伯とか兵士たちとかの給料になるんだよ」
「そっか。兵士さんは畑持ってないもんね」
「そういうことです」
「よくわかんないにゃ」
ドロシーは理解してくれたらしい。リズは頭が回っていない。
メアリアは町でちゃんと勉強済みのようだ。
「領民のみなさんが納税してくれるから、私たちは助かってる、ありがとう」
「え、ああ、うん。そうだよね」
「にゃにゃ?」
「で、です」
ジェシカにそう言われてしまえば、ドロシーも税金がなくていいとは言えないよな。
「農民や町人は納税して、兵士たちはそのお金を給料でもらって食べていける」
「ふむふむ」
「その代わり、兵士は農民たちを守る義務があるんだ。持ちつ持たれつ、分業制っていうんだよ」
「なるほどね」
「あー、何となくわかったにゃ」
ジェシカ先生の納税の仕組み講座が終わった。
兵士はそういう教育もちゃんと受けるんだろう。自分たちは農民に生かされているって。そうすれば少しは領民を大切に思うだろう。
ちょっと世の中の仕組みを理解して、みんなで偉くなった気分だ。
あーあ。コガネムシがもっとたくさん一年中いれば、俺たちはそれを捕まえるだけで、食っていけるのにな。
楽して生活したい人生だった。
夕方、父親のゴードンが帰ってきた。
「無事、村長のところに納税してきたよ。今年は楽だったです」
「お疲れさまです」
「いえいえ、アンダーソン騎士も、いつも警備ありがとうございます」
父ちゃんとアンダーソン騎士が話していた。
「じゃあ、ジェシカ、報告をお願いします。はい手紙」
「了解しました」
ジェシカが手紙を受け取り、敬礼すると、飛び立っていった。
夕方だけど、帰りは暗くなったら大丈夫だろうか。
そう思っていたけど、真っ暗になる前に、ジェシカは戻ってきていた。
手には何やらお土産を持参している。
「お帰り、ジェシカ」
「ただいま、ブラン。はい、お土産」
「なにこれ」
「クッキーだよ」
「ありがとう」
ふむ。クッキーか。わずかに甘い匂いがする。高級品だなこれは。
クッキーは匂いのとおり甘くて美味しかった。
それにしても累進課税でなくてよかった。俺の収入増えた分だけ払えって言われたら、ちょっと苦しかった。
中世風世界で、丼勘定だから助かった。
よかったよかった。
異世界辺境開拓農業村〈スモーレル〉でスローライフ3