「ジェシカ、よろしく」
「いいですよ」
ジェシカにお願いして、朝から俺を抱えてもらって空を飛ぶ。
さすがジェシカ。かなりのスピードが出る。
空を駆け抜け、片道半日の距離をあっという間でトハムン村についた。
「なんだあれ」
「すごいな。翼人族かな。珍しいな」
広場に降りて、村人がひそひそいうのを尻目に、目的を探す。
以前お世話になった、雑貨屋なのか何でも屋の主人に聞く。
「あのおっちゃん、おはようございます」
「お、朝から珍しい客人だな」
「はい、ちょっと空を飛んできたので早くこれました」
「空を飛んできた……」
まあ、後ろ見れば嘘じゃないってわかるよな。翼が見えるし。
「それで今日は、ミルクヤギが一頭ほしいな」
「ああ、ミルクヤギか。そうだな、普通はあんまり手放さないんだが、まあ、あの人ならきっと売ってくれるよ」
そういって人を教えてくれた。
俺たちは店主と一緒にその人のところまでいって、ミルクヤギを購入した。
何がほしいって、ミルクがほしいんですよ。
もちろん美味しいコーヒーを飲むために。
以前、ここでヤギミルクを買っていって、コーヒーを飲んだけど、美味しかったので。
「では、ありがとうございました」
「なに、最近現金収入が少なくてちょうどよかったよ」
「そういってもらえると助かります」
俺はおっちゃんに頭を下げて、白ヤギを受け取る。
残念ながらヤギを空輸するわけにもいかないだろう。
「じゃあ、ジェシカ、ありがとう。先に帰ってていいよ」
「わるいブラン。一応、いつ伝令の仕事があるか分からないので、戻ります」
「仕事熱心だこと」
「まあね。では」
そういってジェシカは飛び立っていく。
俺はミルクヤギを一人で連れてスモーレル地区の集落まで歩いて戻った。
ミルクヤギはミルクのためのヤギの品種で、なんと子供を一度産んだ後、定期的に乳絞りをしていると、ずっとミルクを生産できる。
毎年のように産ませる必要がないので、けっこう長生きするし、ヤギの体にも負担が少ないらしい。
異世界もなかなかどうして、便利なものだ。
「「「ブラン、お帰り」」」
村に戻ったら、三人娘が迎えに来ていた。
そばにはジェシカもにやにやして見ている。
「これがヤギなの?」
「うん」
「名前決めないとね」
「あ、そうだね」
ヤギの名前か。
ドロシーたちは、こういっては何だけど、人間の名前すら
ドロシーとリズは首をひねるだけだ。
「じゃあメアリアは?」
「そうね」
メアリアはペークヒェ町に住んでいたので、それなりに名前に詳しい。
「じゃあ、ドドンゴ」
「それはパス。メスだよ」
「そっか」
ドドンゴには世話になっているので、さすがにいくらドドンゴが好きでもそれはない。
この世界ももちろん、男性名、女性名がある。
「じゃあね、ローナ」
「意味は?」
「え、名前に意味なんてあるの?」
「まあ、たいていは」
「そうなんだ」
名前は知ってても、意味までは知らないか。まあそんなもんだろうな。
ということでヤギさんはローナになった。
「ローナ」
「ローナ、か」
「うん」
ヤギ小屋はないけど、ニワトリの隣で、草を食べてその辺にいてくれれば大丈夫か。
さっそくヤギミルクを絞ってみる。
乳絞りなんて初めてだ。鍋で受けて溜める。
それを一度、火にかけて沸騰させる。煮沸消毒だ。
前世知識だけど、たぶん生のまま飲んだりしないと思う。
「はい、では冷めたので、飲みたいと思います」
「ミルクおいしー」
「美味しいわ」
「美味しい、です」
「うん。ミルクだけでも美味しいな」
「はい、この村は色々なものが揃っていて、けっこう贅沢だね」
ジェシカにこういわれた。
まあ、そうだよな。町のほうが自給自足できなくて、食生活は貧乏かもしれない。
でもジェシカん家は准騎士らしいから、それなりに贅沢な生活してたかもね。
初日は飲料用にしたけど、今度はチーズとか作ってみよう。
チーズそれからバターを作る。
バターはミルクの上のほうにたまった脂肪分などを集めておいて、それを思いっきり振る、とにかく振る。そうすると分離して脂肪分が集まって、バターになった。
チーズは沸騰する直前のミルクに、町で買ってきたレモンの絞り汁を入れる。
それを布で
今は冷蔵庫があるので、こういうのも作りやすい。冷蔵庫作って本当に良かった。
魔法を直接使えば、冷凍もできなくはない。
これで、色々料理にも幅がさらに広がった。