「エルフの少女の件、ぜひ見てみたい」
やっぱりきたか。
というか俺たちはこうなるのを知っているので、剣を持ってきている。
普通、謁見で帯剣はご法度なので、持ってること自体が珍しい。
とがめられないということは、そういうことだ。
「人払いをしよう。ここでいいかな」
「はい」
「では、関係者以外、見聞きは許さん。退出したまえ」
そういうと幾人かの人たちが出ていく。
「アンダーソン隊の兵は問題ないのだな、ここに残れ。それ以外は全員だ」
「あの、領主様」
声を掛けたのは、ああ、昨日の将軍様だった。
「なんだねユドルフ将軍」
「私もぜひに、その、見てみたいのですが」
「彼女に聞いてくれ、エルフの子だ」
「そうか、昨日の君が。私にも見せてくれませんか?」
ユドルフ将軍が片膝をついて騎士仕様の礼をした。この礼、普通は立場が上に対してする、かしこまったときにしかしない、すごい礼だったりする。
それを十歳の少女にするんだな。紳士だな。
「はい、いいですよ。領主様が事情を話す程度には信用しているようですし」
「かたじけない」
ユドルフ将軍は礼をやめ、うれしそうに笑った。
みんなが出ていって扉を閉められたあと、将軍自ら横のほうに置いてあった、訓練で使う丸太の案山子を中央に運んでくる。
「ところでユドルフ将軍、君はこの丸太を魔法剣で切れるかね」
「ワシですか。さすがにこの太さだと、ちょっと無理ですね」
「ではアンダーソン騎士、君のほうは。魔法剣が得意だと聞いているが」
「私でも、半分ぐらいが限界かと」
「だそうだ。ではお願いする」
あーあ、それをドロシーは剣ではなく魔法の部分だけでちょん切ることができると。
「ていやああ」
ブンと風を切る音と同時に、ドロシーが剣を振るった。
やはり丸太が剣筋の通り斜めに真っ二つになって、上半分がゴロンと転がった。
パチパチパチ。
王様が拍手をする。
「すごいな。ドロシーといったか」
「はい」
ドロシーは緊張した声で答えていた。
「すごい。それに妖精光、綺麗だ。なんと美しい」
今回も剣の周りをまだ緑色の妖精光がぽわぽわ、優しい光を発して、漂っていた。
「これが妖精に愛されるという事か」
「よくわかりません」
「いやいいんだ。純血のエルフの力か。錬金術師だか魔術師だかが血眼になって、なりふり構わず探すわけだ」
「それは……」
「年に何件か、純血で純潔のエルフの少女はいないか、と問い合わせがある。君がいることは前から知っているが、もちろん知らないと答えているよ」
「ありがとうございます」
「領民を守るのが領主の務めだ。当たり前だろう」
「そうですか」
さも当然のようにかっこいいことをいう領主。いつもわりとおちゃらけているが、決めるときは決めるんだな。
さすが領主の器だけはある。
あ、隣で将軍のほうは、涙流してるわ。なんかお祈り始めそうな勢いだぞ。
「女神さま、この場に居合わせることができて、ワシは幸せです」
信者なのかな。何か感じちゃったみたいだ。
「そういえば美少女天使合唱団だったな。どちらかといえば美少女妖精合唱団ではないかね」
辺境伯の言う通り、確かに天使というか妖精だな。
「あの、妖精絡みなのは秘密なので」
「そうだったな。まあ天使でいいか」
よかった。あれ、これって美少女天使合唱団が正式になるってことかな。うーん。
細かいことは全部忘れよう。
扉を開けて、外の人を呼び戻した。
「では、すっかり忘れていた。販売権の件、領主マーリングの名のもと、許可する。違反するものは領主にあだなすものと思え、以上だ」
俺は二割、アンダーソン騎士が一割の売り上げ金額からの徴収が決定した。
しかもマーリング辺境伯の名前付き。こういうことは異例なんだそうだ。
封建制度も悪くないな、コネがあれば。
「まあとにかく、もうすぐお昼だ。昼食、食べていくだろう」
「ご相伴にあずかります」
あれなんか知らないうちにご飯食べていくことになった。