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52. 妖精剣


「エルフの少女の件、ぜひ見てみたい」


 やっぱりきたか。

 というか俺たちはこうなるのを知っているので、剣を持ってきている。

 普通、謁見で帯剣はご法度なので、持ってること自体が珍しい。

 とがめられないということは、そういうことだ。


「人払いをしよう。ここでいいかな」

「はい」


「では、関係者以外、見聞きは許さん。退出したまえ」


 そういうと幾人かの人たちが出ていく。


「アンダーソン隊の兵は問題ないのだな、ここに残れ。それ以外は全員だ」

「あの、領主様」


 声を掛けたのは、ああ、昨日の将軍様だった。


「なんだねユドルフ将軍」

「私もぜひに、その、見てみたいのですが」

「彼女に聞いてくれ、エルフの子だ」


「そうか、昨日の君が。私にも見せてくれませんか?」


 ユドルフ将軍が片膝をついて騎士仕様の礼をした。この礼、普通は立場が上に対してする、かしこまったときにしかしない、すごい礼だったりする。

 それを十歳の少女にするんだな。紳士だな。


「はい、いいですよ。領主様が事情を話す程度には信用しているようですし」

「かたじけない」


 ユドルフ将軍は礼をやめ、うれしそうに笑った。


 みんなが出ていって扉を閉められたあと、将軍自ら横のほうに置いてあった、訓練で使う丸太の案山子を中央に運んでくる。


「ところでユドルフ将軍、君はこの丸太を魔法剣で切れるかね」

「ワシですか。さすがにこの太さだと、ちょっと無理ですね」


「ではアンダーソン騎士、君のほうは。魔法剣が得意だと聞いているが」

「私でも、半分ぐらいが限界かと」


「だそうだ。ではお願いする」


 あーあ、それをドロシーは剣ではなく魔法の部分だけでちょん切ることができると。


「ていやああ」


 ブンと風を切る音と同時に、ドロシーが剣を振るった。

 やはり丸太が剣筋の通り斜めに真っ二つになって、上半分がゴロンと転がった。


 パチパチパチ。


 王様が拍手をする。


「すごいな。ドロシーといったか」

「はい」


 ドロシーは緊張した声で答えていた。


「すごい。それに妖精光、綺麗だ。なんと美しい」


 今回も剣の周りをまだ緑色の妖精光がぽわぽわ、優しい光を発して、漂っていた。


「これが妖精に愛されるという事か」

「よくわかりません」


「いやいいんだ。純血のエルフの力か。錬金術師だか魔術師だかが血眼になって、なりふり構わず探すわけだ」

「それは……」


「年に何件か、純血で純潔のエルフの少女はいないか、と問い合わせがある。君がいることは前から知っているが、もちろん知らないと答えているよ」

「ありがとうございます」

「領民を守るのが領主の務めだ。当たり前だろう」

「そうですか」


 さも当然のようにかっこいいことをいう領主。いつもわりとおちゃらけているが、決めるときは決めるんだな。

 さすが領主の器だけはある。


 あ、隣で将軍のほうは、涙流してるわ。なんかお祈り始めそうな勢いだぞ。


「女神さま、この場に居合わせることができて、ワシは幸せです」


 信者なのかな。何か感じちゃったみたいだ。


「そういえば美少女天使合唱団だったな。どちらかといえば美少女妖精合唱団ではないかね」


 辺境伯の言う通り、確かに天使というか妖精だな。


「あの、妖精絡みなのは秘密なので」

「そうだったな。まあ天使でいいか」


 よかった。あれ、これって美少女天使合唱団が正式になるってことかな。うーん。

 細かいことは全部忘れよう。


 扉を開けて、外の人を呼び戻した。


「では、すっかり忘れていた。販売権の件、領主マーリングの名のもと、許可する。違反するものは領主にあだなすものと思え、以上だ」


 俺は二割、アンダーソン騎士が一割の売り上げ金額からの徴収が決定した。

 しかもマーリング辺境伯の名前付き。こういうことは異例なんだそうだ。

 封建制度も悪くないな、コネがあれば。


「まあとにかく、もうすぐお昼だ。昼食、食べていくだろう」

「ご相伴にあずかります」


 あれなんか知らないうちにご飯食べていくことになった。


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