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48. 木琴


 ある日、歌う専門だったリズが、木琴に興味を持った。


「木琴、わたしもやりたいにゃ」

「お、いいよ。余ってるし」


 自分用、一つ村で売却、アンダーソンの見本用で三つ。全部で六個作ったので、あと三つ残ってる。三人娘にも一つずつ渡すことにした。

 そのうちの最初に興味を持ったリズが、思いのほか演奏が上手だった。


「こう、ダダダダって連打したり」

「ふむふむにゃ」

「バチを二つ持って、交互とか同時に打ったりもするね」


 と二和音とかやってみせると、余計やる気になった。

 野生の勘というのか、リズムを取るのもうまい。


 みるみる上達して、一人で演奏しながら歌うことも普通にしていた。

 そのうち、知ってる曲は全部マスターしてしまい、自分で作曲するようになった。


 これでドロシーは風の魔法剣。メアリアは物語執筆。リズが木琴と作曲と、趣味にもばらつきが出てきた。

 いつも一緒に遊んでいた俺たちだけど、夜家にいるとき以外でも、別々の時間を作るようにしようと思う。そのほうが色々個人でもできるよね。

 ちょっと寂しさとかもあるけど、きっと個人の才能を伸ばすにはいいことだと思う。


 作曲をしていたリズだけど、楽譜を覚えさせていないので、暗記しかなかったりする。

 さすがにリズの記憶では怪しいことがある。

 ということで、楽譜を教えることにした。ドレミの文字を木板に書いてもいいけど、まあ楽譜のほうが後々いいと思う。


「五線譜ってのに書いてくんだけど」

「うん」

「こうして音符、オタマジャクシみたいなのを並べていくんだよ」

「なんだか難しいにゃ」


 俺がリズに教えだしたとき、アンダーソン騎士がやってきた。


「これが楽譜かい」

「はい」

「これは私にも覚えられるかな」

「すぐ覚えると思いますよ」

「じゃあ頼む」


 こうしてアンダーソン騎士にも教えることになった。


 リズのほうは楽譜が音楽の領域で勘じゃあどうにもならないのでちょっと苦労したけど、なんとか読み書きできるようになった。

 ふう、覚えないかと思ったぜ。

 まあシャープとかフラットとか覚えてないけどな。俺もちゃんとは覚えてない。

 調が変わると、ト音記号の横に書いたりするのは知ってるけど、具体的にどうなるかまでは知らない。


 こうしてこの世界にも同じ楽譜を導入することができた。まあ世界に普及して発展するかはわからんちん。


「最初は木琴だけあっても困るから、君たちにもマーリングに来てもらおうかと思ったけど、これなら楽譜と私が覚えればいいんだから、それでもいいかな」

「あーどうしましょう。美少女天使合唱団がいたほうが、見た目とかはいいですよね。成人男性が歌うのと、声の高さとかが違うので」

「むむむ。確かにそうだな。参ったな」


「親たちとも相談してみますか」

「すまないそうしてくれ」


 小遣いぐらいにしかならないコマとかならともかく、木琴はそれなりの値段なので、場合によっては月に金貨になることもありうる。

 現物の野菜や麦を育てて、現金収入がほとんどない農村から見たら、かなりの金額になる。


 結局、集落会議が開催された。というか家に集まっただけだけど。

 それでアンダーソン騎士は信用されているので、俺たち三人を連れて行っても、大丈夫ということになった。

 二週間で交代だけど、実はマーリングとこの地区を往復すると最速でも十日ぐらいかかる。

 だから交代といいつつ、実情は半分の期間はこの地区にいて、次の期間は馬車で移動して街道を見回っている。残り三日ぐらいが領都で休暇という名の書類仕事をしているという。


 その短い領都の期間で、マーリング辺境伯と会って全部決めてしまおうという話になった。

 もちろん事前に説明の手紙は送っておく。もう手紙の第一弾はドロシーが妖精剣を使った報告の時に、一緒にしてある。

 報告の手紙は一応別だけど一緒に持っていってもらったので、たぶん一緒に読んでくれているはずだ。


 あんまり交流すると、ジャムはまだかって言われそうでちょっと困るな。とくにこれからの時期、いいジャムがない。


 あとこれでもドロシーは隠れ住んでいるので、あまり有名になりすぎないように、気を遣わないと。

 それでも魔法剣、妖精剣を見せなければ大丈夫か。でも見せてほしいって言ってくるかもな。

 まあ人払いしてくれればいいか。


 色々心配しつつ、話し合いは終わった。


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