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38. ブラッドベア


 当たり前だけど、山越えルートを単独の徒歩で移動する人は、通常、それなりに強い人に限られる。

 魔物が出たら、死にかけることもあるのだ。


 今日は三人の商人兼冒険者パーティーの人たちが登っていったんだが、昼過ぎ、一人が荷物も何も全部捨てて、戻ってきた。


「大変だ。仲間がブラッドベアと戦闘になって、にらみ合ってる。このままではジリ貧だ。助けてくれ、すぐそこだ」


 とまあこんな感じで、見張り場のテントで暇そうにしてる兵士に声をかけた。

 そのままその人は疲れて動けなくなっていた。


 俺たちの村の周辺は、俺の父ちゃんのマーキングとやらで強い魔物はほとんど出ない。

 ブラッドベアはちょい強い魔物で、この辺では珍しい。


 で兵士が俺の家まで、ヘルベルグ騎士を呼びに来た。


「ヘルベルグ隊長、出撃しますよね?」

「ああ、もちろんだとも。領民が危険にさらされているなら、ワシらの出番だな」


 中年太りだけど、ヘルベルグ騎士の動きは素早かった。

 すぐに準備もほぼなく移動を開始、駆け足で山を登っていった。


 俺たち子供も黙ってついていったら、特に何も言われなかったので、後ろをついて走る。

 もちろん真剣は持ってきている。

 ドロシーとリズは、剣を取りに行く暇がなかったので無手だけど、まあ大丈夫だろう。

 ヘルベルグのおっさん、見かけによらず、普通に駆け足で移動していく。わかった、身体強化だ。俺も使ってるけど、おっさん魔法剣士系なんだ。


 テントのところの見張り二人を置いて八人の部隊は、すぐにブラッドベアが出たというところまで追いついた。

 商人たちと場所を交代して、兵士たちが剣を向ける。


「グワアアアア」


 ブラッドベアは怒りに任せて手を振るうが、兵士たちは簡単に避けられた。


「ワシが魔法を使う、離れろ」


 ヘルベルグ隊長が剣を鞘に刺したまま、魔法を発動させる。


「アイスミサイル」


 氷の刃が飛んでいき、ブラッドベアにぶつかっていく。あっさりブラッドベアは倒れて、そのまま動かなくなった。


「さすが隊長です」


 へえ、おっさんのくせに強いんだな。あれぐらいなら俺でもできるけど、でも本職だけあって、躊躇ためらいとかもなかったな。

 ちょっとヘルベルグ騎士を見直した。無駄に騎士爵ではないらしい。まあよく考えたら当たり前だった。なんも取り柄もないなら騎士ではなく兵士どまりだもんな。


「助かりました」

「ありがとうございます」


 騎士様に商人たちは頭を下げて、生還を喜んでいた。


 クマは集落まで持って帰り解体され、お肉と毛皮になった。


 今日の昼ごはんは特別に、広場で兵士も俺たちも含めて全員でクマ肉鍋パーティーとなった。

 もちろん味噌味ではなく塩味なんだけど、十分食べごたえがあった。

 これならお肉大好きドロシーも喜ぶだろう。



 皮は人間よりちょっと大きいサイズの一枚皮が取れた。魔法で倒したので、剣による傷とかもほとんどない、綺麗なやつだ。

 解体作業は、うちの父ちゃんが買って出て、他の人たちは見学だった。


 ついていった俺たちは怒られそうで、タイミングがなかったのか結局、問題にされなかった。


 兵士と俺たちの合同訓練は、剣だけだったので、ヘルベルグ騎士が魔法剣士だとは知らなかった。

 魔法を少し教えてほしいけど、あのおっちゃん、最初の印象がよくないので、躊躇ちゅうちょしてしまう。


 まあ何にせよ、クマが出てもお肉にしかならないというのは、楽だな。危険ではあるけど、むしろ食料として見てるし。


 商人たちは軽い怪我をしていたけど、それはカエラがポーションを出してすぐに治療された。商人たちも手持ちのポーションがあるが、なるべくなら使いたくないし、予備としておきたいので、助かるらしい。

 もちろん代金は払っていった。簡単なポーションならそんなに高くはない。

 カエラが山作業とか以外、仕事してるのは初めて見た。


 商人たちは一緒にクマ鍋を食べた後は、すぐに山を登って行ってしまった。

 彼らは時間こそが命で、このルートを通ってるので、先を急ぐらしい。


 死に急がないといいな、と思って祈っておいた。


『彼らが元気で商人を続けられますように』


 祈ってちょっと思うことがあるので、今度はそれの作業をしよう。


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