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33. 兵士駐留


 ある日、町から馬車と馬が来て、兵士が十人ばかり降りていった。


「何だ何だ」

「ねえねえ、何だろうね」

「わわ、兵隊さんにゃ」

「兵士ですね。領軍、ですね」


 俺たちは遊んでいたので、馬車が着いてそれを見ていた。


 兵士の人の代表、隊長さんが降りてきて俺の家で説明会が開かれることになった。

 集落の人が全員集まった。


 その話によると、あの領主、マーリング辺境伯に、この裏街道のことが知らされたらしい。

 今までは、ほとんど通る人もいなくて、実質無視されていたような場所なんだけど、今回の通行止めの件を含め、この裏街道も道として認識されたようだ。

 道として扱うなら、この道の先は、隣国アベルスタン王国へつながっている。

 つまり関所なりなんなりが本来あるべきなのに、ここはそれを迂回うかいできるわけだ。

 で、税金のとりっぱぐれが数は少ないけど、発生していると。

 そして隣国とは今は仲がいいらしいけど、昔、戦争した前科があるらしい。

 だから完全には信用していない。

 もし裏街道を大軍で攻めて来られたら、認識できるまで時間が掛かってしまう。

 ということで見張り場みたいなのを設置すると。


 集落の目と鼻の先に、テントだけど駐在所が設置された。

 馬も二頭残された。馬車は戻っていくみたい。


 ご飯は野戦用の食料を自前で持ち込んできているので、村でお世話をする必要はないそうだ。

 よかった。村から食料を供出しろとか命令が来てたら、干上がって、おまんま食い上げになってしまう。


 村人は現在えっと全部で十二人。そして兵士がちょうど十人と。倍近いけど、まあ大丈夫だろう。

 民主主義だと、人口が多いほうが偉いけど、ここではそうではないし。


 こうして集落の人口が倍ぐらいになった。

 独立した村への第一歩ともいえる。


 軍がいるっていうのがちょっとアレだけど、まあ平和な世界っぽいし大丈夫だろう。


 隊長さんはアンダーソン・リバリエという騎士さんで、辺境伯から騎士爵をもらっている、いわゆる貴族の一種らしい。

 もし万が一、何か向こう側から偉い人とかが来て、対応するときに、こちらも判断可能な偉い人が一人はいないと大変になってしまう。


 現在建築中の五軒目がある程度出来上がっている。これに普段暇な兵士の人の労働力を追加して、結局、五軒目が兵員宿舎になることが決まった。

 見た目は普通の家だけど、テントよりはマシだろう。

 完成まであと一歩なので頑張ってくれ。それまではテントだ。


 兵士も暇なので、俺たちが剣と魔法の練習をしていると、見学してくる。というか結局、俺たちの腕が思ったよりいいので、一緒に稽古けいこすることになった。

 面倒だが、まあ本職の人たちと一緒に稽古というのも悪くない。


「一、二、三、四、五」

「「「一、二、三、四、五」」」


 軍隊式では、みんなで声を合わせて素振りをしたりする。いつもは基本無言でやっていたので、雰囲気も違う。

 俺たちも回数はそれなりにこなせるので、兵士たちもびっくりして、喜んでくれた。


 兵士の残りの人のうち数人は、裏街道の山道の改良をするため、山道へと入っていった。

 街道整備をして、ゆくゆくは馬車道にしたいらしい。

 今はそのための調査というところだ。


 山道区間で馬車が通れないのは、この山部分だけだから、あと少しなのだ。そうしたら表街道よりも四日以上短縮できる、バイパス的な道になる。

 こちらが実質「表」になる可能性もある。

 そのためにはこの集落だけでなく、ふもとの村も含め宿場町の整備も必要だろう。

 今はあまり客がいないので、宿も一軒ぐらいしか無いのだ。


 村で見張りをしている兵は、かなり暇だ。というか表街道が復活したので、こちら側を通る人は、日に一人いるかどうか。

 そりゃあ暇だろう。

 それでも関所であるということで、相手が来るのをただひたすら待つしかない。

 ただあまりに暇なので、訓練をしたり、椅子に座ってまったりしている。


 幸いなのは、ここは陸の孤島ではなく、ちゃんと馬車による流通が確保できるということだろう。

 こうして暇に暇を重ねたアンダーソン騎士は俺たちの相手をして過ごしていた。


 まず歓迎と言えば、三並べからだ。そしてコマやリバーシをやらせる。

 聞いたところ、将棋のようなボードゲームの遊びそのものは、貴族にはあるらしい。

 ただ、今回の荷物には入れなかったので、何か持ってくればよかったと言っていた。


「この村には、色々な遊びがあって、楽しいな」


 アンダーソン騎士も、無邪気に笑ったのだった。


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