メアリアのうちのお父さんとおじさん兄弟は、建築に詳しいらしく、今畑仕事が無い彼らは、急ピッチで家を建てていた。
これならあっという間に、次の家が建つような勢いだった。
やはり専門職がいると強い。
今までは、うちのおやじゴードンと、エルフのバドルだけだったから、二倍かと思いきや、十倍速ぐらいになっている。
二人しかいない場合よりも、作業分担や慣れなど、色々あるらしい。
木は道や土地を開けたときに切り倒したのが、土地の横のほうに積んであって、かなりの量がある。
今年は秋麦も豊作っぽいし、いいことずくめだ。
メアリアは主にドロシーの後ろをついて回っている。
猫耳族のリズは、すばしっこくて、すぐあっち行ったりこっち行ったりするので、おのずと対象はドロシーメインになってきていた。
そしてドロシーの後ろから、そっと俺のほうを見ていることがよくある。
「メアリアちゃん」
「はい、なんでしょう、ブラン」
「何でもない、ちょっと名前呼んだだけ」
「なんですかそれ」
「だから何でもない」
「そうですか、ぷぅ」
おとなしい子だけど、からかうとちょっと楽しい。すぐぷくぅってほっぺを膨らませて主張してくるのだ。
「それ町で流行ってたの?」
「そんなことないですっ!」
「もうブラン、メアリアばっかりからかってにゃ」
リズにも言われてしまった。
そこまでメアリアばかり相手にしてるわけではないと思うんだけど。
当人たちから苦情があれば、善処しなければ、村社会では不和はよろしくない。
ちょっと反省して、猫耳にも手を出して、さわさわする。
相変わらずいい毛並みでありますな、リズさん。
おっと今度はドロシーのほうから無言の圧力が。頭をなでなでしておこう。
金髪のさらさらヘアーは触り心地もいい。よきかな、よきかな。うん、実に平和だな。
三人とも
お昼寝マンセーのスローライフなビジネスマンは、新規事業について考えるのが好きなのだ。特に何もしないで、もしくは少ない労力で大金を稼げるのがいい。
「なんか楽にお金が増える事業ないかな~」
「事業ですか、難しいこと考えてますね」
「いやいや事業なんて気取っていってるけど、やってることはおままごとや普段の遊びの延長ですよ」
メアリアがせっかく感心してくれてるのに、ドロシーの酷い言いよう。まあ当たってるから変に突っ込むのはやめよう。藪蛇だ。
「とりあえず、そうだ、メアリア文字書ける?」
「え、いえ、字はちょっと、その。あの」
「別に書けなくても怒ったりしないから正直に言ってくれ、もし書けないなら、ちょろっと勉強しないかなと思って」
将来へのこういう投資は必須だ。
今サボるツケが十年後に来たりするから侮れない。
みんながたとえ嫁にならなくても、秘書とかメイドとか作業員とかでも、字は読み書きできるに越したことはない。
ということを適当に話す。
「はい、書けないです。できるように、あの、なりたい、です」
「そそ、自分の意思も重要なんだよ。さすがメアリアわかってるじゃん」
「はい、読み書きできるようになりたいです!」
今度ははっきりした声で答えてくれた。やる気が、あの二人よりもずっとあるように見える。素晴らしい。もしかしたらすごい人材に将来なるかもしれない。これはその第一歩だ。
「ということで、みんなで読み書きの復習と、メアリアの勉強を一緒にやってしまおう」
「なるほど、一石二鳥ですね。さすが省力化大好きなブランだわ」
「そんなにほめても、何も出ないよ」
「特にはほめてません」
「そうだと思った」
落ちがついて、お後がよろしいようです。
さっと数字から始めよう、数字から。
あ、数字は読めるんだ。町で値札とかよく見るってさ、さすが町っ子。俺たち田舎っ子とは違う。
まあでも復習だし、大きい数の勉強もしよう。金銀ざくざくだとそういうのも必要だ。予定では。はははは、予定ではな!
さすがに大きい数字はなじみがないようで、よくわかっていない様子。でも、なんとかゼロがいくつで、何々というのはわかったようだ。そそ、それさえわかれば怖いもんなんかない。後はみんな桁が違うだけで一緒だよ。
「こんな金貨千枚とか何するつもりなんですか、ブラン。怖い、です」
怖いですとか言われちゃった。別に何もしないよ。万が一だよ、保険さ保険。
「にゃはは、ブランは別に何も考えてないにゃ」
「そうなんですかね」
そうだ。さすがリズよくわかっておいでだ。もちろん現時点では何も考えていない。
先人の知恵、備えあれば
そういう格言みたいのも、教養が無いと知らないもんな。本とかもほとんど無いし。
教えてくれる人も無し。
まあ異世界だからこんなもんだろう。別に舐めてるわけではないけど、文明レベルにあった、モノの見方ってのはあると思う。
いちいちそういう説明はしないけどね。お説教くさくなっちゃうわ。