集落に帰ってきて、家の庭でゴザを敷いてそこに葉っぱを干していく。
長期保存には乾燥させるに限る。
もちろん塩漬け、砂糖漬けも長期保存向きだけど、お茶にはちょっときつい。
「どんど~ん並べていくにゃ」
重ならないように、手際よくリズたちも働いてくれた。
まあ働くというか半分は遊びみたいなものだ。一応この集落ではお茶は
こうしていくつかのお茶っぽいものが完成した。
さっそく完成したものを飲んでみた。
「はぁ~落ち着く味だわ」
やはり日本の心というのか、お茶の味は落ち着くな。
でも、なんかお茶としてはちょっとだけ物足りなさもあるような気がする。
まだまだ研究を続けよう。
他の種類のお茶探しだけど、さすがに主食の小麦を使って、嗜好品の麦茶にするってわけにもいかない。
それに麦茶といえば夏の飲み物で、熱い冬用とはちょっと違う気がする。
そこで、俺が今度目をつけたのは、猫じゃらしだった。
猫じゃらしはイネ科で穀物のアワの親戚らしい。
そしてお茶にすることができるのは、前世で知っていた。
「美味しいお茶にするために、猫じゃらしを集めよう」
「「はーい」」
いつものことだ。もうこれが定型になっているな。
リズ、ドロシーを連れて、村の中を歩き回る。
まだ畑にしていない空き地があり、そこにはたわわに穂をつけた猫じゃらしが群生している。
まさに猫じゃらし畑と言ってもいい。のどかな風景だ。
「本当に、こんな猫じゃらしが美味しいの?」
「そうにゃそうにゃ、誰も食べるとこ見たことないにゃ」
「それがけっこういけるはずなんだよ」
カエラばあちゃん
この猫じゃらしの穂だけを刈り取って集めまくった。
しかしこれもすぐには使わない。
虫はまずいないのがありがたい。その穂をゴザを敷いて天日干しした。
後日。
乾燥した穂を脱穀する。手でそっと猫じゃらしを下側から上に指で挟んで動かすと、小さな種の部分がどんどん落ちてくる。それを木のお皿でキャッチして集める。
けっこうそれなりの量を取ったので、三人掛かりで作業した。
いやぁ、ひとりよりずっと早くできて楽ちんだ。
そうして集まったものをフライパンへ。
ガスコンロじゃないから火加減が難しいけど、なんとか
「わーブラン、いい匂いしてきたにゃ」
「本当ね、いい匂いだわ」
ドロシーもリズも後ろでふんふん鼻で嗅いでいた。
そしてだいぶ香ばしい匂いになってきたところで、フライパンから降ろして小さな壺に入れておく。
スプーン一杯分ぐらいを鍋で作ったお湯で
ただね、この家には急須みたいなものが無いので、ちょっとコツがいる。
綺麗な布に入れた猫じゃらしの種を鍋に入れて、ティーバッグみたいな感じにするのだ。
これで煮出すことができる。
「まだまだ?」
「もうちょっとだよ」
リズがせかしてくるが、もうちょっと出したほうがいいと思う。
こうして布を上下に動かしたりしてみる。
まあこんなもんかな。
「はいできあがり」
「「わーい」」
ドロシーとリズにもコップに移してあげる。
ほんのり穀物を煎った香ばしい匂いがする。
飲んでみると、緑っぽい味と香ばしい味の両方がする。
普通のお茶よりはウーロン茶に近い。
「美味しいね」
「美味しいにゃん、ちょっと変わってるにゃん」
「そうだね」
こうしてお茶のレパートリーに猫じゃらし茶が加わった。
色々試してみるのが何よりいいと思う。
後日、みんなが試飲した猫じゃらし茶の評判が良かったので、少量を残して、大量に生えている猫じゃらしをかなりの量、収穫することになった。
そしてそれを全部猫じゃらし茶にする作業が発生した。
結構大変だった。
またドドンゴがやってきた。
一頭引きの小さな幌馬車でやってきて、手を振ってくれる。
集落で遊んでいたときだったので、すぐに見つけられた。
「やあドドンゴさん、こんにちは」
「ブランダン様、こんにちは」
俺たちは笑顔で挨拶を交わした。今では金貨が飛び交うようになり始めた間柄だから、景気がよくて、顔もいい表情をしている。
「ジャムはできた?」
「おおよ、山ブドウジャムができたかな」
「そうかそうか。ブドウはワインが多いから、ブドウそのものの味、というのは珍しいこと違いないですね」
「なるほど、それは高くなるってこと?」
「そーいうこってす」
「やったね」
「はい」
二人でぐっと悪手じゃない握手を交わした。
別に悪い顔、悪いことはしてないよ、全然。ほんとだよ。