たまに来る、商人のおっさんが来た。
このおっさんは、俺の家に一泊してまた帰っていく。
どうやら俺んちがこの村の村長ポジションらしい。よく知らんけど。
そして俺の父親を「ゴードン様」、母親を「ナターシャ様」と呼んでいる。
村長だから偉いのかとも思ったがどうも違うようだけど、あまり深く突っ込むと、蛇が出てくるならいいけど、何がどうなるか分からないので聞いていない。
おっちゃんからは、壺を買ったりしている。いわゆるガラス瓶というのは無いらしい。無いというか普及していない。
こちらからは、前に買った壺に入れたフキの塩漬けや、なんかそういうのを売っている。
あと俺も手伝って内職で麦ワラの袋をけっこうたくさん作ったので、それを売る。
小麦は収穫時期にまとめて売るのが基本なので、今の時期にはあまり売らないようだ。
小麦を収穫後、狭い家に積んでおくのも場所がないからすぐ売ってしまう。
他にもこまごましたものをいくつか。
この集落からは半日の距離に村がある。人口は二百人くらい。
そこを経由して、さらに半日の距離以内に村がいくつかあり三日の距離にちょっとした町がある。
そこからさらに三日行くと領主様の町があるらしい。
もちろん俺はこの村から出たことがないので分からないが、そうらしい。
国の名前はベルガル王国。この辺はマーリング辺境伯領だそうだ。
そしてその外側はアーメリア大陸。海を越えて、ホルイン大陸があるとかなんとか。
砂糖の話のついでにばあさまに聞いた。
アーメリア大陸には他にもいくつかの王国と、帝国があって、あとはよく知らない。たぶん自分にはあんまり関係ないと思う。
とにかく情報は商売の命だ。この商人ドドンゴさんには一泊する間にたくさん話を聞く。
夕方早めに着いて商談はすぐに済むので、そのあとは俺と延々話をするのだ。
そうしないと、この世界の単語を覚えられない。
おばばも詳しいが外の世界はやはり商人のほうが詳しい。
「というわけで、蜂蜜がそのうち取れそうなんだ」
「蜂蜜か。なかなか子供のくせに知恵が回るな。さすがゴードン様の息子だけある。あははは」
「買い取ってくれるよね?」
「もちろんだとも。この俺はこんな辺境まできているが、貴族にも伝手があるんだぞ」
「へぇ~。それは初耳、実はおっちゃんすごいん?」
「すごいんだぞ」
「よっ、さすがおっちゃん」
俺はおっちゃんをおだてて遊ぶ。この村には酒とかも無いので、歓迎会とかは難しい。
出す料理も、いつもとほとんど変わらない。ちょっとお肉が多めかなというくらい。
鉄の器具、包丁、刀、ナイフ、釘、鍋、とかそういうの全部はおっちゃんに世話になっている。
着ている服もほぼ購入品で、食べ物は自給自足だけど、それ以外に必要なものというのは多い。
他にも塩なんかを購入している。
色々自作できればいいんだけど、そうもいかない。
異世界は魔物や動物が多めで肉の入手が可能なのが、うれしいところだ。
万が一、麦が不作でも、なんとか野菜と肉でも食い
うちは父ちゃんが元騎士というところも強い。
ということで麦とか細々したものを売って生活を立てている。
ただかなり質素ではあると思う。
町のスラムとかよりはちゃんとしたものを食べられるのは田舎の特権だと思う。
「それでね、おっちゃん。蜂蜜漬けって知ってる?」
「ああ、名前だけは。蜂蜜は高価だからそのままでも売れるけど、何かの蜂蜜漬けはさらに値段が高くなるかもな」
「そうそう。それでさ、もうすぐイチゴの季節でしょ。ノイチゴの『ジャム』にしようと思うんだけど」
ちなみにジャムは日本語だ。何と言うか分からん。
「ああ、潰してなじんだやつはジャムって言うよ」
「おおそれそれ、ノイチゴジャム、どう思う?」
「どうっていいんじゃないかな」
「だよな? 絶対うまいよな」
「ああ、俺はノイチゴを食ったことが無いので、なんとも言えんが」
「そっか、絶対いけるって、保証する」
「子供に保証されてもなぁ」
とにかく俺はノイチゴジャムを作ると決めたのだ。
「イチゴはどうなの?」
「町では名前は知ってるだろうけど、食べたことある人は少ないんじゃないかな」
「だよね」
「だいいち、そのまま持って行っても、腐るか潰れて汁が出てしまうか、食べられないだろう」
「だよねぇ」
おっちゃんに好感触だったので、いけそうだ。