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第22話 一周回ってなん何か面白くなってきた

 思いがけない再会を果たした三人は、ロビー奥にある打ち合わせコーナーに移動していた。

 夜霧と知千佳はソファに並んでび座っている。、クラスメイトの橘裕樹はテーブルを挟んでその向かい側に座っているのが、クラスメイトの橘裕樹だった。

 裕樹の背後には五人の少女が控えていた。

 この世界に来てまだ四日目のはずだが、もう現地人の仲間がいるらしい。


「えーと、その、正直意味がわからないんだけど、告白ってわけでもないんだよね?」


 愛人になれだなど、高校生が言いそうなことセリフではないだろう。冗談を言い合う友達のいなかった夜霧でもそう思った。


「すぐ決めてくれないなら愛人っていう好条件の待遇はな無くなるよ? 二分以内に決めてくれない?」


 短い制限時間を設定し選択を迫る。典型的な誘導の手口だ。

 だが、これは愛人という立場に多少でも価値がある場合のみ成立する話だろう。そして、裕樹はその価値を確信しているようだった。


「そんな待遇とかはどうでもいいから、橘くんがここで何してるのかとかそーゆーのが聞きたいんだけど」


 知千佳が一蹴する。背後の少女たちはますます知千佳を睨み付けていた。

 間違いなくそこに殺意はある。だが、具体性をともなってはいない。まだ様子見でいいだろうと夜霧は判断した。


「いいの? もし後から僕の仲間になりたいって言っても、よくて中級奴隷からになるよ? 今、壇ノ浦さんは最高のチャンスを逃したことになるんだ」

「なに何ひとつ一つ理解できなくてびっくりなんだけど!?」


 ただが、裕樹の方がよほど驚いた顔をしていた。こんな話が通ると本気で思っていたらしい。


「ああ! 奴隷には上級奴隷、中級奴隷、下級奴隷、労働奴隷と階級があるんだよ。でも愛人は特別でね。その上に位置する永久奴隷の位で――」

「いやいやいや、そーゆーの聞きたいんじゃなくて!」

「じゃあなに何?」

「えーと、そう! 後ろの人たちは?」


 話に困った知千佳は、裕樹の背後にいる少女たちのことを聞いた。


「ああ。紹介がまだだったね。彼女らは僕の奴隷の中から選りすぐった親衛隊なんだよ。おい。自己紹介するんだ」


 平然とした様子で奴隷と言い切る裕樹に知千佳が唖然となっていると、親衛隊の少女たちが自己紹介を始めた。

 一人目は先ほどいきなり突っかかってきた少女だ。

 金髪の長い髪をツインテールにしていて、つり目がちな瞳からは強気な性格が伺える。


「親衛隊、序列第五位のエリカよ。正直、あなたに名乗る名なんてないんだけど、ユウキがそう言うんだから仕方がないわね。もちろん、あんたが永久奴隷になるなんて絶対に認めないけどね!」


 二人目は栗色のふわりとした髪の少女で、おっとりとした印象だ。


「親衛隊の序列第四位で、ステファニーって言います。ご主人様のお申し出を無下にされるような方に利く口など持ち合わせてはいないのですが、ご主人様の命令ですから仕方がありませんね。あなたなど中級奴隷でも分不相応かと存じますわ」


 三人目は五人の中では一番幼い少女だ。黒いフリルドレスを着て、腕には熊のぬいぐるみを抱いている。


「序列第三位、チェルシーって言うの。お姉ちゃん、死んで?」


 四人目は、銀色の長い髪と、褐色の肌が印象的な少女だった。


「序列第二位のエウフェミアです。正直なところ目障りですので、視界から消えていただけませんか」


 五人目はこの中では最年長なのだろう。大人の雰囲気を醸し出していた。白いドレスを着て、柔和な笑みを浮かべている。


「序列一位、親衛隊の隊長をやらせていただいているリーザと申します。うふふ、ユウキくんの言うことはまに受けないでくださいね。愛人と聞いて浮かれておられるかもしれませんけど、それで増長するのは身の程ほど知らずでしかないのですよ?」

「びったんびったん、敵意ぶつけてくんのやめてくんないかな!? 橘くんもちゃんとこいつらの手綱握っといてよ!」


 知千佳も一々突っかかられて苛立っているようだった。


「ユウキ! こんな奴らに関わるなんて時間の無駄だわ! 今日は買い物に行く予定だったでしょ!」

「ご主人様のクラスメイトだったぐらいでいい気になられては困りますわ! 速やかに奴隷にして、労働奴隷どもの慰み者にしてしまうのがいいかと思います!」

「ユウキお兄ちゃん。こいつら、殺していい?」


 親衛隊の少女たちが次々に文句を言う。

 裕樹が手を上げると、少女たちはぴたりと口を閉ざした。


「いや、すまないね。僕は女の子に厳しくするのが苦手でね。けど、これはちょっとやりすぎかな。お前たちはしばらく黙っててくれ」

「はい!」


 親衛隊が口をそろえて言う。だがその目は知千佳を睨み付けたままだった。


「ま、確かにいきなり愛人にってのは性急すぎたかな。あ、もしかして高遠のことを気にしてる? 男は労働奴隷しか受け入れてないけど、特別に下級奴隷でもいいよ。クラスメイトのよしみで」

「……最初はむかついたけど、一周回ってなん何か面白くなってきた……」


 苛立っているのかと思いきや、知千佳はそんなことをぼそりとつぶやいた。


「確かにここまで意味不明だと殺意がわいてこないな」


 夜霧もぼそりと知千佳に話しかけた。殺意よりも、興味がわいてくるほどだ。


「さすがに何の説明もなしに仲間になるとか無理だからさ、橘がここで何をやってるのか聞かせてくれないかな?」

「そうだな。じゃあ僕のことを説明してあげるよ。でも、きっと後悔することになるけどね。さっさと僕の仲間になっておけばよかったって」


 夜霧が話を促すと裕樹はのってきた。どうにもムキになっている節がある。


「まず安心して欲ほしい。賢者が生まれなければ魔力を絞り出す家畜にされるってことだったけど、それはありえない。なぜなら、僕が賢者になるのは確実だからだよ」

「ここまでドヤ顔の人にお目にかかったのは初はじめてだ!」


 だが、裕樹の自信は知千佳のツッコミを軽くスルーできるほどのものだった。


「だから壇ノ浦さんたちはぼーっとしていても身の安全は保証される。けど、クラスメイトだというだけで、なん何の貢献もしていない者たちに僕が報いることはないよ。それは当然だろ?」


 召喚されたクラスメイトたちは一つの集団、クランとして扱われている。

 そしてクランには賢者を輩出する義務が課せられていた。

 賢者が誕生すれば、同じクランの者たちは賢者の従者となり、その待遇は賢者に一任される。賢者になるもの者が現れたからといってそれだけで安泰というわけではないのだ。

 つまり賢者になれそうもない者たちは、賢者になりそうな者ものに取り入って、賢者誕生後の立ち位置を確保しておく必要がある。


「で、その貢献ってのが奴隷とか愛人とかになること?」


 夜霧に揶揄するつもりはない。単純に疑問に思っただけのことだ。


「だって君たちにはそれぐらいしかできないだろ? ああ、誤解のないように言っておけばそれは壇ノ浦さんだけに限らないよ。僕があまりに強すぎるから、クラスメイトの誰もが足手まといなんだ。そうなると僕を楽しませることで貢献するぐらいしかないよね?」


 夜霧は感心した。裕樹が本気で言っているのがわかったからだ。


「この世界に来てまだ四日目ぐらいだよな? どんな力を手に入れたのか知らないけど、ここまで増長出来できるってすごいな」


 夜霧は小声で知千佳に話しかけた。


「あー、いや、高遠くん。橘くんはもともとこんな感じなんだよ」

「え? マジで?」

「すっごいナルシーで自信過剰だったの。女の子にもてまくってたから、そうなるのもわからないでもないけどね。知らなかった?」

「……高校って、思ってたよりずっと面白いところだったんだな……」


 寝てばかりいたのは少しもったいなかったかと、今さらながらに夜霧は思った。


「ん? どうしたんだい? ああ、もしかして愛人じゃ満足できないってことかな?」

「そんなことは全まったくないけど」


 知千佳は即答した。


「でもそれは仕方がないんだ。こう見えても僕は一途な人間だからね。人生の伴侶はこれから吟味していくつもりなんだよ。もちろん愛人や上級奴隷の中から妻を選ぶ可能性は高いから、まずは愛人からというのはとてもいい話だったんだけどね」

「一途の定義を根本から見直してもらいたいよね」


 知千佳は呆れた様子だった。

 もともとこんな少年だという話だが、さすがにここまでではなかったのだろう。


「なん何だってそんなに自信があるわけ? クラスのみんなが修業の旅をしてるのに、橘くんはそれはしないわけでしょ?」


 二回目の召喚だと言っていた三人も相当の自信を持っていた。知千佳は裕樹にも同様のものを感じとったのだろう。


「修業は必要ないんだ。僕のクラスは支配者だ。全てを支配する最強のクラスなんだよから」


 裕樹は満を持してといった風にここぞとばかりに言い放った。

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