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第11話 ろくでもない奴はほとんど日本人なんだけど!

 頭に猫耳の生えた不気味な少女。

 それが、猫の獣人を見た夜霧の第一印象だった。

 背丈は知千佳と同じぐらい。要所を防具で覆い、帯剣しているので戦士の類なのだろう。


「うわっ、日本語すごい上手ですねぇ!」


 知千佳は素直に感心しているようだった。

 だが、第一印象のせいもあるのだろう。突然声をかけてくるなどあからさまに怪しいと夜霧は警戒した。


「当然ですにゃ。街の女の子はたいてい日本語を勉強するもんですからにゃ」

「なんなんで?」

「それは日本人の男の子と仲良くするためですにゃ! 日本人の男の子は将来性がある割には落としやすいと評判なのにゃ」

「ぶっちゃけたよ、この人!」

「みんなそうだし、隠すほどのことでもないですにゃ」

「けど、それは男の人も同じじゃないの? でも男の人は日本語そんなに上手じゃなかったよ?」

「日本人の女の子は一般市民なんかに目もくれないにゃ。狙いは貴族とか王族とかの玉の輿に決まってるにゃ。だから男ががんば頑張っても無駄なのにゃ」

「そう決めつけなくても。一般市民よりはそっちいっちゃうのもわかる気はするけどねー」

「で、なん何の用?」


 話し込んでいるところに夜霧は割り込んだ。


「あ、そうそう。何かお手伝いできることはにゃいかな、と思っているのですにゃ。これも婚活の一環ですのにゃ。もちろん、彼女さんがいらっしゃる方をどうこうするつもりではにゃいんですが、こういったところから地道に交友関係を広めていくのが成功の秘訣だと思っているのですにゃ!」

「あ、彼女とかそういうんじゃないんだけど、この人はやめといた方ほうがいいと思うよ? いろいろとおかしいから」

「そうですのにゃ? 見た目はよ良さそうですけどにゃ」

「手伝いって何をするつもりなの?」

「この街を案内したりとかですかにゃ? 来たばかりなら右も左もわからないかと思うのですにゃ」

「で、見返りは交友を広げること?」

「はいですにゃ」

「どうする?」


 夜霧は知千佳に聞いた。

 実にうさんくさいが、何か仕掛けてくるつもりは今の所ところはなさそうだ。なら、知千佳の判断に任せてもいい。


「だったらお願いしてみる? 正直な話、どこに何があるのかとか全然わからないし」


 武器屋がすぐに見つかったのはたまたまだ。行きたいところがあるなら、案内を乞うのが手っ取り早いだろう。


「わかった。じゃ案内してもらうよ」

「ありがとにゃ! 私はミレイユと言うにゃ。街の外では運搬業をやってるけど、街では婚活にいそしんでるにゃ。お二人の名前も聞かせてもらっていいかにゃ?」

「高遠夜霧」

「私は壇ノ浦知千佳。よろしくね」

「夜霧に知千佳にゃ。わかったにゃ」


 ミレイユは軽くうなずいた。


「で、行きたいところって他にあったっけ?」

「暗くなる前にいろいろ見て回りたいんだけど」

「では、手早くこの近辺を紹介して、その後は夕食というのはどうですかにゃ」


 そういうことになった。


  *****


 いくつかの店を回って買い物をした後、夜霧たちはレストランで食事をしていた。


「いやー、結構楽しげだね、異世界。なんの不自由もなさそうなんだけど」


 知千佳は街で買った服に着替えていた。

 水色を基調としたトップスに、ミニスカートといった格好だ。日本では奇抜にみえるかもしれないが、この世界のファッションはこのようなものらしい。

 だが、チュニックにパンツといった格好なので異世界感はほとんどない。

 夜霧はというと制服のブレザーを脱いだだけの格好だった。

 異世界でこんな格好では目立ちそうなものだが、街の中は様々な服装の者たちであふれているたから、。取り立てて浮いて見えることはもないだろう。

 街は実に快適だった。衣食住すべてに日本人の意見が取り入れられているというから、それも当然かもしれないのことだ。

 突然やってきた夜霧たちでも、明日から普通に暮らせそうに思えるぐらいだった。

 今出されている食事も、日本で食べるものとそう変わりのないものだ。


「でもそれはそこそこの規模の街に限られるのだけどにゃ。ちょっと田舎の方ほうに行くとそれはひどいものですにゃ」

「ひどいって?」

「村レベルになると賢者様の加護がないのにゃ。モンスターの襲撃から身を守るのが精一杯で発展させる余裕がないのにゃ」


 この世界には数多くの魔物がいる。賢者が結界を張っている領域は安全だが、それ以外の場所は危険に満ちていたるというわけだとのことだった。


「賢者様と言えば、お二人は賢者様のギフトをもらってないのにゃ?」


 ギフトは他人に継承させることができ、普通は親から子へと受け継がれていくものだそうだ。

 また、ギフトにはピンからキリまであるが、賢者のギフトは特別なものとされていて、それを使いこなす日本人は特別視されていたるという。


「なんでそう思う?」

「そりゃあわかりますにゃ。鑑定スキルのレベルは低くても、相手が強いかどうかぐらいはわかるもんですにゃ。おふたりは『とてよわ』ですにゃ」


 花川は、他人のステータスを見ることができるのは鑑定が高レベルの者に限られるといっていたが、低レベルの鑑定でも夜霧たちが弱いのはばれてしまうらしい。

 これから先もこんなことはいくらでもあるだろう。なんらかの対策がいると夜霧は考えた。


「ああ! 剣聖様のギフト狙いですかにゃ? それでしたら納得ですにゃ。けど、ギフトなしで剣聖様の元まで辿り着くのは至難の業だと思うのですにゃ」


 なんとも返事のしようがなく、曖昧にごまかして夜霧は食事を進めた。


  *****


「で、こうなるのは、なんとなくわかっていたんだけどね」


 夜霧たちは袋小路にいた。

 そして、その入り口は大勢の獣人で塞がれている。

 宿泊場所に案内するというミレイユについていった結果がこれだった。


「わかってたんだー、へーすいませんねー。なん何も考えずに脳天気に、親切にしてくれるいい子だなーとか思ってて!」


 最初こそ驚いた知千佳だったが、すぐにふて腐れ始はじめた。


「まあ世の中そう甘い話はないってもんですにゃ」


 当然のようにミレイユは獣人の側にいる。

 もうすっかり夜だが、月明かりが明るく、で周囲の様子は比較的よく見えていた。

 男女混合で獣人が十人に、人間が一人。手には武器をも持っているし、使い慣れている様子もある。常習犯だろうと夜霧は判断した。


「話をするつもりある?」

「随分ずいぶんと余裕があるじゃねーか。何が聞きたいんだ? ん?」


 リーダーらしき人間が一歩前に出て、嘲るように聞いた。

 黒髪に黒目の日本人だ。年齢は三十代前半というところだろう。暴力的な雰囲気を纏っている大柄な男だった。


「目的は金?」


 ミレイユは武器屋での様子を窺っていたはずだ。大金を持っているのはばれているだろう。


「ま、金は全部いただくがそれだけじゃねぇ。一番の目的は日本人で無能者のお前らだよ。俺ら日本人がこの世界で暴れた結果、貴族どもは日本人を嫌っててな。でも日本人は強いからどうしようもない。そこで無能の日本人が重宝されるってわけだよ。鬱憤晴らしにな!」

「この世界、ろくな奴がいないな」

「この世界っていうか、ろくでもない奴はほとんど日本人なんだけど!」


 知千佳が言うことももっともだと夜霧は思った。


「まあそっちの目的はわかったよ。じゃあ俺はあんたらを殺そうと思うけどいいかな?」

「ほお? まあ安心しな。俺たちはお前らを殺さねーからよ? ま、この先死んだほう方がましだって目にこの先あわされんのかもしんねーけどな!」


 リーダーの嘲笑に合わせて、獣人どもがゲラゲラと笑う。

 こんな奴らなら殺しても大たいして気が咎めない。夜霧は安堵していた。

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