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第7話 エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ

「死ね」


 夜霧は力を放った。


「ぷげらっ! 死ねってなんでござるか、いくらなんでもボキャブラリがなさすぎで――」


 夜霧の言葉をせめてもの抵抗だと思ったのだろう。花川は嘲るような台詞を吐きかけて、そして異常に気付いた。

 隣にいた東田が膝から崩れ落ちたのだ。そして、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。


「東田殿? どうしたでござるか?」


 花川はただ呆気に取られていた。


「俺が死ねって言って死んだんだから、因果関係ぐらい察してくれよ。だから動くな。動けばもう一人殺す」


 夜霧は警告した。

 だが、福原は警告を無視して東田に近づいていく。

 夜霧は福原を指差し「死ね」とはっきり口にした。

 福原は東田を介抱しようとしたのだろう。だがそれは果たせなかった。

 福原は東田にのしかかるように倒れ、そしてまたもや動かなくなった。


「動くなって言っただろ。動くと死ぬ。理解できた?」

「あ、え、その」


 花川は固まった。

 理解も納得もできてはいないだろう。

 だが、異常なことが起っていて、それを目の前の夜霧がやっていることだけは察したようだ。

 これで話ができると夜霧は判断した。


「じゃあ今から俺の能力を説明する」

「ちょっと待って!? ドラゴンに何かしたのは高遠くんだとなんとなく気づきつつも、言いたくないみたいだったから、それ以上は触れないようにしてたんたけど! 秘密じゃなかったの!?」


 勢いよく知千佳が聞いてきた。


「特に秘密じゃないけど? さっき説明しなかったのはめんどくさかっただけで」

「めんどくさいって、おい!」

「で、花川は頭悪そうだし、ちゃんと説明しとかないとまた喧嘩売ってきそうだろ?」

「わかった。じゃあその能力っての聞かせてよ」


 いきなり殺したことを批難されるかと夜霧は身構えていた。

 妥当な判断だとは思いつつも、知千佳の反感を買うかと思っていたのだ。

 だが、その点について知千佳は触れなかった。


「じゃ説明の前にそこで転がってる奴らが本当に死んでるかを確認してくれないか? 動いても殺さないからさ」


 まずは死を実感させ、考えさせる必要がある。本当に死ぬのだと理解させなければ、都合良く物事を解釈して襲ってくる可能性があるからだ。

 花川はしゃがみこんで、東田と福原を恐る恐る揺さぶった。

 どちらもぴくりともしなかった。


「ヒール!」


 花川が魔法の名前らしきものを叫ぶ。

 回復魔法らしいが、死者に効果があるものではないのだろう。二人の死体は一瞬輝いたがそれだけだった。


「ヒール! ヒール! ヒール! ふははっ! 拙者ヒーラーでござるからな! どんな大怪我だって病気だって一瞬で治せるのでござる。拙者はずたぼろになりながらもこのチートじみた回復魔法で異世界を生き抜いて……って動かないのですが!」

「理解できた?」

「あ……あんまりでござる! いきなりこんなことするなんて、頭おかしいでござるよ!」

「お前が言うなよ」


 夜霧はコンコンとバスを叩いた。


「すごい威力だよね、これ。わざと外したのかもしれないけど、人が死にかねない攻撃をしておいて、やりかえされて文句を言うのはお門違いだと思うよ」

「だ、だとしても、福原殿は何もしてないでござる! そして、ここがもっとも重要なのですが、拙者も何にもしてないのでござるぅ!」

「そんなのが通用するわけないのはわかってて言ってるんだよな? どう見たってお前らつるんでるし、東田の行動を容認してただろ?」


 花川が言葉に詰まる。それ以上何も言ってこないので夜霧は説明を始めた。


「俺の能力は『任意の対象を即死させる』というものだよ。俺が殺したいと思っただけで、即座に相手は死ぬ」

「むちゃくちゃすぎるでござるよ! ナンデスカ!? エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ、でござるか!!」


 花川が悲鳴じみた声を上げた。


「チ、チートすぎるでござるよ! 普通、そこはもうちょっとオブラートに包むものでござる! 異世界なめてんですか? だいたいステータスもないのになんでそんなことが!」

「ステータスとか言われてもね。逆にそっちのほうがそんなのありか、って感じだけど」


 夜霧からすればステータスだのギフトだのの話のほうがよほど不思議だった。


「あの、ドラゴンやっつけたのはそれなんだよね。けど、なんでわざわざ能力の秘密をばらすの?」


 知千佳が聞いてきた。秘密にしておいたほうが有利だと思ったのだろう。


「脅迫のためだよ。そのためにはこの能力の脅威を相手にわかってもらわないと駄目なんだけど、説明しないとわかってもらえないんだよな。実演しても何が起こったのかいまいちわかりづらいだろ?」

「確かに、私も信じられないけど……」

「俺の能力は理解できた? 理解できてないってことなら、面倒だしもう殺すけど」

「理解できたでござる! だから、やれやれ系クール主人公みたいな、本当に殺しそうな目で見つめるのはやめてください!」


 すぐにでも殺されると思ったのだろう。花川は叫んだ。


「じゃあこっちにきてよ。離れたままだと話しもしにくいし」


 夜霧は草原に座り込み、バスにもたれかかった。

 知千佳も夜霧の隣に座り足を崩す。

 花川はとぼとぼと夜霧たちへと歩きだした。


「はい、ストップ」


 だが、夜霧は突然花川を制止した。


「な、なんでござるか?」

「今、何かしようとしただろ?」

「な、なななな、何を言ってるんでござるか?」


 花川は明らかに挙動不審な態度になった。


「能力が一つとは言ってないだろ。俺はね、俺に対する殺意を確実に認識できるっていう能力も持ってるんだよ」

「はい?」

「だから、二つの能力を組み合わせると、俺に殺意を持っただけで相手が死ぬ。ってのも可能だったりする」

「ふざけてんですか、あんた! そんなものドウしようもナイではナイですかぁあ!」

「そんなこともないと思うよ。殺気をかけらも漏らさない超達人の暗殺者が、目にもとまらない動きで襲いかかる、とかだったらワンチャンあるかもね。と、いうわけでここからは細心の注意を払ったほうがいいよ」


 花川はおとなしく夜霧たちの前にやってきて、恐る恐る草原に正座した。


「じゃあ、いくつか聞きたいことがあるんだけど」

「わかりもうした、何でもぺらぺらと聞かれてないことまでしゃべるでござるよ……」

「聞いたことだけでいいから」


 花川はすっかり怖じ気付いていて、逆らう気力はなさそうだ。


「お前らなんであんなに自信満々だったんだ? ギフトを手に入れてから、それほど時間は経ってないだろ?」


 ギフトが超常の力を与えたとしても、この短期間では使いこなせないだろうと夜霧は思ったのだ。

 それに空を飛んだり、バスを消し飛ばしたりするのは、低レベルには見合わない能力に思えた。


「拙者たちは、この世界に来るのは初めてではないのでござるよ。強くてニューゲームなのでござる……」


 ぽつぽつと花川が話しはじめた。

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