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第5話 アダムスキー型に似てたかな

「充電はひとまずおいとくとして、俺も光ってなかったから、置いていかれたわけか」

「何か今までと違うものが見えたりする?」

「さっき言ってたロゴとかミッション説明とかってやつ? 特に変わりはないね」


 夜霧は注意深く視界を確認したが、今までと何ら変わりはなかった。


「だよね。けど、光ってた人たちはみんな何か見えてたんだって。体力ゲージみたいなのがずっと視界の端のほうに出るようになったらしいの」

「そういうのゲームでよくあるよね」

「さあ。みこちはゲームしない子だったから、そのあたりはうまく説明してくれなかったけど」

「そのみこちって子は友達? 壇ノ浦さんを置いて、みんなと行っちゃったわけ?」


 夜霧は、自分が置いていかれるのは当然だろうと受け止めた。クラスメイトとほとんど交流がなかったからだ。

 だが、知千佳は違うはずだ。夜霧はクラス内の人間関係に詳しくはなかったが、知千佳なら友達も多いだろうと思ったのだ。


「矢崎くんが何か……したんだと思う」


 友達の裏切りを信じたくないのだろう。知千佳の表情は苦渋に満ちていた。


「ビューティーコーディネーターが魅力を操作できるなら、ジェネラルも人心操作みたいなことができるのかもね。けどクラスやらレベルやらスキルやら、まるでゲームみたいな話だな」


 そんな力があれば面白かったかなと、少し思う夜霧だった。


「そのジェネラル矢崎の言葉を信じるならドラゴンは一匹なわけだ。だったら外に出ても安全かな」


 夜霧は窓から、倒れているドラゴンを見た。

 ぴくりとも動かないドラゴンは脅威ではなくなっている。


「ねえ、その……高遠くんが何かしたの?」


 少し怯えた様子で知千佳が聞く。


「勝手に墜落してそのまま死んだ」

「むちゃくちゃ嘘っぽい!」

「別に信じなくてもいいよ」

「うーん……まあ、確かに高遠くんに何かできたとも思えないんだけど、勝手に死んだってのもなんだか……」


 特に秘密にするつもりもなかったが、めんどくさかった夜霧は説明を後回しにすることにした。


「しかしドラゴンがいるとなると異世界ってのも信憑性が……あるようなないような」

「ない可能性があるの!?」

「どっかの悪趣味な超金持ちに拉致られてスナッフムービーに出演させられてるとか? ドラゴンも遺伝子操作の成果とか言われたほうが異世界よりは信じられるかもね」

「そりゃあれだよ。高遠くんは大賢者の孫とかいう人を見てないからだよ。あれ絶対魔法だよ! 手から何か出してたんだから!」


 そう言われても、知千佳が真実を語っているのかが夜霧にはわからない。

 しかし、疑い出せば切りがないので、とりあえずは知千佳の言うことを信じることにした。問題があればその都度認識を修正すればいいだけだ。


「いつまでもここにいても仕方ないし、とりあえず外に行ってみようか」


 夜霧は死体を乗り越えて出口に向かった。

 ドアは開かなくなったという話だが、ドラゴンの攻撃にさらされたせいか、かなりぐらついている。


「なんとかなりそうかな。って、どうしたの?」


 夜霧は知千佳がそばにいるとばかり思って話しかけたが、返事がない。

 振り向いてみれば、知千佳は桐生という男子生徒の死体を前に躊躇しているようだった。


「その、死んじゃったのはもうどうしようもないと思うんだけど、だからって踏みつけにてして行くのはちょっと……」

「そっか」


 死体など障害物でしかないと夜霧は思ったが、知千佳の気持ちも多少は理解できる。

 夜霧は引き返し、桐生と綾香の死体を席に座らせた。

 そして知千佳とともに出口へ向かう。

 夜霧が蹴ると、ドアは派手な音を立てて吹っ飛んでいった。

 こうなると今さらこそこそしても仕方がない。夜霧たちは堂々と草原へ降り立った。


「春っぽいな」


 草原にはやさしい風が吹いていた。


「ほら、やっぱり異世界なんだよ。さっきまで冬だったんだから」

「南半球だと季節が違ったりするけど? 異世界ってよりは、船か何かでバスごと外国に運ばれたってほうがまだ信じられるな」

「高遠くんのその頑なさは何なの!?」

「すぐに異世界って信じるほうがどうかしてると思うよ?」

「だったら異世界の証拠を……あ!」


 知千佳はキョロキョロとあたりを見回し、何かを見つけたようだった。

 夜霧もそちらを見た。

 円盤が浮いていた。

 比較物がないため距離感がうまくつかめないが、数キロは先だろう。円盤の上にお椀を伏せたような形のものが浮いていた。

 そして、それは見る間に上昇していった。

 円盤を追って空を見上げた夜霧は呆気にとられた。

 多数の岩塊が浮いていたのだ。

 雲の向こうに見え隠れしているので、それらはかなりの高空にあるのだろう。

 円盤は岩塊の一つに近づいていき、やがて見えなくなった。


「ねえ! これは異世界って言っていいんじゃないの!? あれ、天空の城的なやつだよ! 浮遊大陸だよ!」


 なぜか知千佳は得意気になっていた。


「アダムスキー型に似てたかな」

「なんでUFOのかたち気にしてんの!? ほら! 認めなよ! ここが異世界だって!」

「わかったよ。異世界ってことにしておこう」


 もともと外国説には無理がある。夜霧は異世界説をひとまず受け入れた。


「って、なんでUFOやねん! もっと異世界っぽいもんあるやろ!」


 今さら、知千佳は何もない空間に向けてツッコんだ。


「壇ノ浦さんは元気だね」

「で、これからどうしたらいいの?」

「とりあえず移動しないとね」


 夜霧は周囲を見回した。あたりは草原で周囲には何もない。

 遠くに見える城壁が、ファーストミッションの目的地だろう。

 そちらを北とすれば、西の少し離れたところには森が見えた。東と南はなだらかな丘になっていて、遠くまで見通すことはできなかった。


「街、森、丘の三択か。森はやめたほうがいいかな」


 森に行くのはできれば避けたいと夜霧は思った。

 都会暮らしの夜霧たちにとって森は未知の場所だ。しかも異世界の森とあっては何が出てくるかわかったものではない。


「街……は、人がいるならそっちのほうがいいのかもしれないけど……」


 だが、そこには夜霧たちを囮にしたクラスメイトがいるはずで、それが知千佳には気になるのだろう。


「とりあえず荷物を漁ってみようか。あいつら慌てて逃げてったんだろ?」

「確かに手ぶらだったね」

「充電器もあるかもしれない」

「何なの? 高遠くんのそのゲームに対する情熱は……」


 夜霧はバスの下部にあるトランクルームに向かった。大きな荷物はそこに入れてあるのだ。

 だがトランクルームには鍵がかかっていた。


「開けられそうにないな。壇ノ浦さんは、ピッキングとかできる?」

「なんで私がそんな犯罪行為に手を染めてそうとか思ったの?」

「じゃあ駄目だね。バスの中には大したものはなさそうだし……とりあえず丘にでも登ってみようか」


 丘の向こうに何かがあるかもしれない。

 夜霧が丘のほうに向かおうとしたところで、知千佳が北の空を指差した。


「ねえ? 何か飛んでくるんだけど?」

「ドラゴンか?」


 それともまたもやUFOなのか。夜霧は知千佳の指差す先を見た。

 確かに何かが空を飛んでいるが遠すぎてよくわからない。少なくともドラゴンではないように見えた。


「東田くんと、福原くんと、花川くんだけど、飛んでくるってどういうこと!?」

「こんな距離でよくわかるな」


 夜霧は知千佳の目の良さに感心した。もっとも、クラスメイトの顔と名前などほとんど覚えていないので、顔が見えたところで夜霧にとってはたいした意味はなかった。

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