バスの中は、生徒たちが発する様々な色の光が混ざり合い、幻想的な雰囲気になっていた。
「色で能力の違いがあるんですけど、単純により輝いている人が強いと考えてくださいね。光はしばらくすると消えます。誰が強そうかは覚えておいたほう方が後々いいと思いますよ。強い人に取り入った方ほうが生存確率は高まりますからね」
シオンの忠告を真に受けたのか、生徒たちは必死になってバスの中を見回しはじめた。
中には知千佳と同じく輝いていないクラスメイトもいたがそれはごく少数のようだ。
「皆みなさんには
立っていた知千佳は席に座り、目の前の空間を見つめた。
見えるのは前の座席だけで、シオンが言うような何かは表示されていなかった。
「みこち、何か見えてるの?」
不安になった知千佳は、隣のろみ子に聞いた。
「うん、カラフルな、よくわからない文字が目の前に浮いてる。あ、ステータスだって。これは日本語だよ。なん何だろ?」
やはり自分以外には見えているらしい。
知千佳は嫌な予感を覚えた。ここで蚊帳の外にな置かれるのはまずいと思ったのだ。
「このシステムはこの世界でギフトと呼ばれているものです。ギフトを活用して賢者を目指してくださいね。期限はそうですね。とりあえずは一ヶ月としておきましょうか」
「あ、あの!」
知千佳は意を決けっして立ち上がり、シオンに話しかけた。
「なん何ですか?」
「質問してもいいでしょうか?」
「いいですよ」
シオンは穏やかに微笑んだ。
「その、私は光ってないし、ロゴとか見えなかったんですけど」
「ああ、それはそれは」
シオンは途端に演技がかった憐れみの表情を見せた。
「残念ですけど、相性の合わない方もおられるのです。こればかりは仕方がありませんので諦めてくださいね」
あっさりと片付けられて、知千佳は愕然となった。かなりまずい事態なのではという予感がひしひしとしてくる。
「では続けますね。あなたたちは一つの共同体、クランとなります。このクランから賢者を輩出してください。皆みんなみなさんで協力して一人を盛り立ててもいいですし、それぞれが賢者を目指してもいいですよ。方法はお任せいたします」
「はい! なぜ私たちなんですか!」
ヤケクソになった知千佳が喧嘩腰に言った。余計なことをするなと言いたげな視線が周囲から突き刺さる。
「統計によるものですね。この集団から賢者が輩出される可能性が高い。そんな計算結果が出ましたので」
「はい! もし賢者になる人がいなかったらどうするんですか!」
「そうですね。クランごと魔力を絞り出す家畜にでもなってもらいましょうか。暗くて狭い魔力タンクに押し込められて、そこで一生を過ごしてもらうことになります。だから必死になったほうがいいですよ?」
思っていた以上に悲惨な未来で、知千佳はそれ以上何も言えなくなった。
「ですが、賢者が誕生すれば、皆みなさんは賢者の従者となり、この世界での権勢が保証されますよ。では、一時間後にファーストミッションがスタートします。こんなところでいきなり全滅しないでくださいね?」
その言葉を最後にシオンはバスを出て行いき、途端にバス内は大騒ぎになった。
「なん何なのこれ、全然意味がわかんない」
知千佳はどさりと席にもたれかかった。
「あ、ミッションの説明が出でてるね」
あまりこの状況に動じていないのか、ろみ子が普段と変わらない様子で言う。
ろみ子によるとミッションはこのようなものだった。
ファーストミッション
目的:現在地である竜の平野から北にある街に辿り着く。
主なエネミー:ドラゴン(平均レベル1000)
アドバイス:ドラゴンの好物は人間です。無策でバスから出れば確実に襲われることでしょう。そして現時点のあなたたちではドラゴンは倒せません。ミッションスタートまでの間、バスは結界で守られているため安全です。作戦を立ててから行動しましょう。
「いやいやいや、ドラゴンって……」
知千佳は窓の外を見た。
バスの周りには牧歌的な草原が広がっているだけで、物騒なモンスターがいるとはとても思えない。
「みんな! 聞いてくれ!」
混乱冷めやらぬ中。一人の男子生徒が立ち上がった。
矢崎卓。
このクラスの中心人物の一人だ。成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群と非の打ち所のない少年だ。多少融通の利かない面を持ってはいるが、それも正義を重んじる性格が故だろう。
彼が呼びかけると、皆生徒たちみんなはぴたりと黙りこんだ。
「わけがわからない状況だけど、とりあえずはこのミッションとやらをクリアするしかないみたいだ。そしてそれにはみんなの協力がいる」
いきなりのリーダー面だが、皆みんなほとんどの者は納得しているようだった。クラス投票を行ったとすれば、まず彼がリーダーに選ばれるはずで、そこに異論はなかったのだろう。
「ねえ、矢崎くんに任せちゃっていいの?」
だが、多少反発心を抱いた知千佳は、小声でろみ子に聞いた。
「とりあえずまとめ役はいるんじゃないかな? 矢崎くんなら向いてると思うけど」
「そうかもしれないけどさあ」
勝手に決まっていくこの流れが、なんとなく気持ち悪いと思う知千佳だった。
「まずはみんなの能力を把握したい。メモに名前とステータスを書いて持ってきてくれないか?」
矢崎の提案に反対する者は誰もいなかった。