「語ることはこの程度だよ」
私は、話を終える。
聞き手の子供は、それなりに面白く聞いていたようで、
「面白かったー、ありがとう!」
と、元気に礼を言った。
「ねぇ、コゲマメに会いにいくの?」
「コゲマメどうしてるの?」
「どこの駅で降りればコゲマメに会える?」
いつの間にか子供がいっぱいだ。
最初の聞き手がゲームしているとか言っていた子供達かもしれない。
「コゲマメはみんなの友達だよ」
私は言う。
「会おうと思えばどこにでもコゲマメのような友達がいるよ」
車内放送が私の降りる駅をアナウンスする。
「おや、それじゃ私はここで」
私は荷物を持って、席を立つ。
「ばいばーい」
子供達は元気に手を振り、私を見送る。
その笑顔はやはり、夏に愛された子供の笑顔だ。
ドアが開き、私はかんかん照りのもとに足を踏み出す。
暑い、あのときのような夏。
改札を抜けて、そこに待つ人。
きらきらの夏の輝きを凝縮させた、きれいな白い肌の女性。
笑顔はあのときのまま。
夏休みの友のまま。
「モヤシ」
「もう、コゲマメと呼べないな」
「コゲマメでいいよ」
白くきれいになったコゲマメは笑う。
コゲマメは夏休みの化身だと。
誰かを、永遠に繰り返す夏休みに引き込まないと、
夏休みの化身でいられなくなると、
親である夏のぬしに言われたという。
コゲマメはモヤシの私を引き込むかどうか悩んだという。
結局それが本当かどうか確かめる術はなく、
コゲマメは普通の少女になり、
夏に会うたびにきれいになった。
夏休みの化身のコゲマメ。
夏休みの友は、私か。
夏は何度でもやってくる。
友が遠方から来るように。
生きている限り、何度でも。
憎くても嬉しくても、お構い無しに夏はやってきて、
生きていることを突きつけてくる。
お前も生き抜け、友とこの夏を走り抜けと。
夏のぬしに、そう言われているような気がする。
夏が直射日光で笑っている。
こうこなくっちゃ夏じゃない。
変わる田舎の風景、変わらない夏、
そして、私の隣にいる、変わらない友情。
いつまでも。