コゲマメが言っていた。
ヒマワリは悲しみをよく知っていると。
届かない悲しみを、よく知っているものだと。
だからヒマワリは好きじゃないと。
両手を伸ばしても届かないものがある。
どんなに捕まえたつもりになっていても逃げるものがある。
コゲマメが言っていた。
ヒマワリは、太陽を捕まえたつもりになっている気がして嫌だ。
コゲマメはそんなことを言ってヒマワリをにらむ。
どうせ太陽は逃げていくのに、捕まえたつもりになるから、嫌だ。
ヒマワリの乱立する畑の近く。
夕焼けで、あたりは薄く溶けるように。
「コゲマメは捕まえたいものがある?」
私は尋ねる。
「夏」
コゲマメは簡潔に答える。
「それから、モヤシ」
「?」
「ずっと夏休みが続けばいいと思わない?」
コゲマメは私の目を見て話さない。
何かを恐れるように、目を見ない。
ヒマワリを背にしたコゲマメは、
夏を背負っているのに、何かをあきらめかけているような。
うつむき気味で、言葉を探している。
「モヤシが望めば、ずっと一緒に夏休みを繰り返せるんだよ」
それは魔法でも使うかのような言葉。
でも、コゲマメは私の目を見ない。
夏休みの繰り返しの魔法を、明らかにためらっている。
私はそう思った。
「コゲマメ」
私が呼びかけると、コゲマメは肩を震わせた。
「ヒマワリは何度だって夏の度に咲くよ」
「でも、太陽を捕まえられないから…嫌だ」
「友達は捕まえるものじゃないよ」
私がそういうと、コゲマメははっとしたように視線を上げた。
「夏の太陽も、ヒマワリの友達。また会えるとわかるから、種が残るよ」
「友達」
「何度だって、夏の度に会える友達だよ」
私は伝えたかった。
コゲマメも友達で何度だって会えるということを。
「ごめん、モヤシは帰るところがあるんだよね」
コゲマメは、泣いていた。
「もうすぐ夏休みもおしまいになる、それで友達も終わりだね」
「コゲマメ?」
「夏休みの友達は終わり。さっさと帰れ!」
コゲマメは走っていった。
蝉が物悲しく鳴いていたのを覚えている。