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第7話 ちょうちん

当時私が滞在していた田舎の家にも、

いわゆるお盆の風習があり、

どんな風習かは、調べればわかることだろうが、よく思い出せない。

ただ、ちょうちんのことを覚えている。

赤いちょうちんだったような気がする。

丸い赤いちょうちんが、列を作っていた気がする。


死者の霊が、迷わないで来れるように。

そういう意味かもしれない。

けれど私は、そのちょうちんの列がひどく怖かった。

祭りとはまた違う、何か怖いものと、当時の私は思っていた。


ちょうちんの列は怖い、コゲマメにそう言ったら、

コゲマメは辺りを少し見回して、声をひそめた。

「実は、怖いって言うのも多分理由があるよ」

「理由?」

「ちょうちんは怖い風習の名残なんだ」

私は多分引きつった顔をした。

コゲマメは続ける。

「昔は死者の供にと、動物の首を置いたんだよ」

「供に、首?」

「さすがに首を置いたのでは動物もいなくなるからね。なくなった風習だよ」

「そりゃそうだ、ね」

「でも、一時は赤子の首を置いたりもしたらしいって」

赤子と聞いて、私は背筋が寒くなるのを感じた。

「そうした風習を形だけにどうにかしたのが、ちょうちんだと…」

「…そうなんだ」

私は納得しかける。

「…って言うホラ話」

と、コゲマメは話を締める。


私は多分ぽかんとした。

コゲマメは予想していたのかしていなかったのか、

「ほんとは、赤いちょうちんはホオズキの大きなものという意味だって聞いたよ」

「え、あ、そうなんだ」

「何変な顔してんの。さっきのはホラ話」

いいながらコゲマメはすたすたとどこかに行ってしまう。

私は一人で考えた。

コゲマメが考えた物語とは思えない。

死者の供の首の話は、

こうして何も知らない子供に受け継がれていくんだろうか。


「モヤシ、ホオズキ見たことある?」

コゲマメが赤いちょうちんのような小さなのを持ってくる。

その時ホオズキを初めて見た私であるが、

中の果実を見たとき、赤子の首がよぎって、

ホラ話とわかりつつも、話の怖さに少し震えた。

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