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第6話 夕立

コゲマメの家で宿題をしているとき、

夕立がやってきたときのことを覚えている。

コゲマメは苦手な読書感想文にうんうんしていて、

私は適当に問題集を解いていた。

しばらくして、手元が夕方にしてはちょっと暗いなと思ったら、

コゲマメが洗濯物を取り込んで走り回っていた。

「何してるの! 雨来るよ!」

コゲマメの手伝いをして、私は洗濯物を引っぺがして走った。


最後の洗濯物を取り込んだとたん、

かなり強い雨が降ってきた。

「夕立だね」

「言わなくてもそうだよ。モヤシの癖に」

コゲマメは洗濯物をたたんでいる。

なんだかうれしそうに。

「わくわくするね」

コゲマメはそんなことをいった。

「雷と猛烈な雨と、たまにくるとワクワクする」

「そんなものかなぁ…」

「なんかさ、夏が全部で生きてる生きてるって言ってるみたいで、いいな」

「コゲマメにはそう聞こえるの?」

「うん、すっごい生きてることの自己主張だよ」

コゲマメは心からうれしそうに。

コゲマメが心から、生きていることを喜んでいるかのように。


雨は生きる音だとコゲマメは言う。

空が生きている。

大地が生きている。

植物が、動物が、昆虫が生きている。

人も生きている。

そしてなにより、夕立は夏が生きている。

雄叫びをあげて、夏は走る。

そんな風に生まれてしまったのなら、

そんな風に夏は生きるしかないような気がした。


雷が大きく鳴り、

ひときわ雨音が強くなる。

コゲマメの洗濯物は、様々の大きさがあるけれど、

コゲマメのものでないものもあるけれど、

コゲマメ以外の家族を私は見たことがない。

「ねぇ、コゲマメ…」

私は聞こうと思った、そうしたら、

「家族だったら、この夕立を友にして吼えまくってるよ」


さらりとコゲマメは答える。

私は思う。

それは夏そのものじゃないか。

あっけにとられた私に、

「何ぽかんとしてるのさ」

笑ったコゲマメは夏の顔をしていた。


雨は降り続いている。

生きている生きていると吼えながら。

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