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第3話 風鈴

風鈴の音をしみじみ聞いたことはあるかな。

涼しい音色なんだけど、

風鈴が一人のような気がしてしょうがないと思い出す。

そして、風鈴の音を聞くと、

私は田舎で出会ったコゲマメのことを思い出す。


コゲマメは小さな少女だ。

日焼けがすごいからコゲ、小さいからマメ。

夏の日差しにも負けないくらい快活に笑う少女だ。

コゲマメなんて、あだ名をつけたのは私だけど、

私はコゲマメに、モヤシと呼ばれていたのだから、

おあいこということにして欲しい。


私とコゲマメは、夏の田舎でコンビを組んで、

あっちこっちを走り回った戦友だ。

コゲマメはおとなしいということが苦手だった。

おとなしくあるべきときはそうするけれど、

はじけるときは日差しも暑さも何のその。

夏の騒がしさを一手に引き受けたような少女だった。


ある夏の日のことだったと思う。

私とコゲマメは、昼下がりにたらふくスイカを食べて、

縁側で雲が育つのを見ていた。

古びた風鈴が、思い出したように小さく鳴る。

コゲマメは縁側に腰掛け、足をぶらぶらさせている。

スイカの残骸をはさんで、私も縁側に腰掛けていて、

静かだなと感じたのを覚えている。


感覚を開いても開いても、

空をつかまえきることなんてできずに、

空はたった一つしかなくて、

空は一人きり孤独で、

この夏を全て味わいきることが出来ずに終わるんだろうかと。

脈絡なく、そんなことを考えていた。


風鈴は一人だね。

コゲマメが空を見たままそんなことをつぶやいた。

風鈴はりんとなる。

風鈴は一人だね。夏の間も一人で、夏が終わったら仕舞われて一人だ。

コゲマメの、多分独り言だったんだろう。

私は、それがなんだかとてもさびしくて、

夏のぬしがいるよ、風鈴は夏のぬしと一緒にいるんだ。

そんなことをいった。


コゲマメが驚いた気配がしたけれど、

私はなんだか気恥ずかしくて、そちらを向かなかった。

風鈴がりんとなる。

コゲマメは夏の騒々しさを形にしたような少女だと思っていたけれど、

夏の静けさも、ちゃんと中に持っていたことが、

私はとても意外だった。


一緒にいるんだね。

コゲマメはつぶやいた。

夏のぬしの友達だね。

コゲマメの言葉に、私はうなずいた。

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