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第87話 夢の共有

「……ってことがあってね、私の目指したいものが決まったの」

【うぉぉぉぉ!】

【いい夢だ! 応援してる!】

【ついにけーちゃんもここまで来たか……】


 ひすいさんとのデートを終え夢ができた私は配信でそのことをみんなに報告した。みんなも私の夢を応援してくれているようでとても嬉しく思う。やっぱり大きな夢に向かって頑張ろうとする姿は魅力的に映るのだろうか。


「みんなも私が大きなステージに立てると思う?」

【もちろん!】

【頑張れ!】

「ありがとう。もしそうなった時は私をみんなの力で大きなステージに立たせてほしい」


 みんなが応援してくれるならきっと叶うだろうと信じられる。それはこれまで築き上げてきた信頼関係があるからこそだろう。これまで築き上げてきた歌唱力やトーク力をみんなも信じてくれているからだろう。

 でも、その信頼を裏切らないためにも私はもっと頑張らなければならない。


「じゃあ、今回の配信はここまでにしようかな。今日も最後まで見てくれてありがとねー」

【おつかめーん!】

【今日も楽しかった!】


 配信を終えた私はシャワーを浴びて一息ついた後、ヘッドフォンをつけて自分の気に入った歌を歌い始める。

 何度も何度も同じ曲を歌って自分の中にその歌を取り込んでいく。そして配信で披露してみんなに楽しんでもらう。この作業は凄く楽しくて夢中になれるものだ。輝きを増して強くなれる。


「ふぅ……と、あれ? まりからメッセージ?」


 歌い終わった後、スマホを確認するとまりからメッセージが来ていた。内容は【今日の配信見たわ。かながそんなに大きな夢を持ってるなんてびっくりよ。でもかなならきっと叶えられるって信じてるから】というものだった。

 まりなりの応援メッセージなんだろう。とても嬉しいものだ。私は自然と口角が上がっていた。


「よっし、明日も頑張るぞー!」


 まりからのメッセージで元気が湧いた私はその後も1時間くらい歌の練習をしてから眠りについた。明日もまた新たな一歩を踏み出すために。


 ……その日。私は久しぶりに夢を見た。あの子が……けーちゃんが私の前に現れる夢。この夢を見たのはいつ以来だろうか。

 前は敵意剥き出しで怖い思いをした記憶があるが、今はとても穏やかな顔に見える。自分がそう思いたい願望もあるのだろう。でも、けーちゃんは前よりもずっと優しげな雰囲気になっている。


「久しぶり」

「……もう姿を現さないと思ってたよ」

「今日は大切なことを言いに来たから」

「大切なこと?」


 私がそう聞き返すとけーちゃんは頷いた。そして私に近づくと優しく抱きしめてくれた。前までのけーちゃんでは考えられない行動に、私は狼狽える。でもけーちゃんはそんな私の様子を気にもとめず話を続けた。


「あなたが私を使うことで私はただ利用されているだけだと思っていた。でも……認める。あなたはあなただけの夢を手に入れてそれに突き進もうとしてる」

「けーちゃん……」

「だから私はあなたを認める。力になりたい。あなただけの夢が叶えられるよう……私は応援する」

「ありがとう。私もけーちゃんを応援してるよ」


 私がそう言うとけーちゃんは嬉しそうに笑った。その笑顔は今まで見たものよりも輝いていてとても綺麗だった。

 そして、その笑顔のまま私の元から去っていった。もう2度と会うことはないかもしれないのに、不思議と寂しさはなかった。きっとけーちゃんは私の中で生き続ける。そう思えたからだろう。


「じゃあ、そろそろ私は退場しようかな」

「うん、またね」


 けーちゃんはそう言うと消えていった。最後まで優しい笑みを残していってくれて私は嬉しくなる。最初は正直悪夢としか形容できなかったけど、今となってはいい思い出だ。


「ありがとう、けーちゃん」


 私はこれからも歌い続ける。輝きを増しながら高みに上がっていける。今の私はきっと人生の中で一番輝いているだろう。過去を乗り越え、自分自身と向き合えたから。

 夢を叶えられるかは私次第。だけど、必ず叶えてみせる。だって私は推しから生きる意味をもらった。今の人生でたくさんの仲間ができた。たくさんの人に私の歌声を褒めてもらえた。だから、もう何も怖くない。私は私の夢に向かって突き進むだけだ。


「……ん、朝……?」


 朝起きると私は涙を流していた。悲しい夢を見ていたわけでも辛いことがあったわけでもない。ただ、涙が止まらなくなった。

 でも、この涙はけーちゃんからの応援だと思うととても嬉しく感じた。私は涙を拭うとSNSを開く。朝起きた時にSNSを確認するのが日課になっていた。その理由はファンのみんなからのたくさんのつぶやきが見れるから。それが嬉しくて私はSNSを開くのが楽しみだった。


【けーちゃんの夢を全力で応援するぞー!】

【けーちゃんなら絶対に叶えられる!】

【俺の推しがこんなにすごい人なんだ……だから毎日頑張ろうって思える。ずっと応援してます!】

「みんな……」


 たくさんのファンのみんなが私を応援してくれている。そして私もみんなの応援でもっと頑張れる気がする。

 私は目指そう。みんなの応援に応えられるような存在になれるように……これからもずっと輝き続けるんだ。


 ――ぐぅぅ〜


「あっ……ふふ、締まらないなぁ」


 いい夢を見てやる気は十分だがお腹が減っていては何もできない。私は笑いながら体を起こす。今日の朝ごはんはなんだろう。お母さんの味噌汁美味しいから作っていて欲しいな。


「さーて、作ってくれてるかなぁ」


 私は今日生まれ変わった。……転生はだいぶ前に経験しているけど。そういう意味ではなく、私は今までずっと自分のことが大嫌いだった。でも、そんな大嫌いな自分のことを私は今日少しだけ好きになった。

 この気持ちをくれたのはあの子……けーちゃんだ。夢で見るあの子はきっと、私が作り出した理想の自分。理想の自分からしたら、ちっぽけで何も出来ない無能な私なんて忌むべき存在だろう。でも、そんな私をあの子は認めてくれた。こんな私でも出来ることがあると、信じてくれた。


「うん、頑張るぞ」


 今日という日を1歩ずつ確実に進むんだ。そしていつかは……あの子が認めてくれた私で大きなステージに立つ。それが私の夢だ!


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