「なんなんだろう……この気持ち……」
しおりお姉ちゃんにひとしきり高校時代の話を聞いてモヤモヤをスッキリさせようと思ったのに、かえって悪化してしまった。しおりお姉ちゃんのことが知りたかったのに、語るエピソードがほぼひすいさんとの思い出だったのも原因なのだろうか。
「とりあえずなにかご飯作ろうかな……」
お腹も空いたし、とりあえず気分転換にでもなればとキッチンに立った。
「ん……?」
冷蔵庫を開けると、しおりお姉ちゃんが書いたと思われるメッセージが書かれた紙が置いてある。その下にはコンビニでよく見かけるスイーツが。
「えーっと? 【いつもお世話になってるお礼に】? ……またいつの間に家に入ったんだか」
しおりお姉ちゃんはたまにこうやって私の家に勝手に上がり込む。それはいつもの事だからいいとして、私はしおりお姉ちゃんのサプライズにクスッと笑う。
優しくて気遣いのできる頼れるしおりお姉ちゃん。でも、その優しさは自分にだけ向けられているわけではないのも事実。そんなみんなに優しいしおりお姉ちゃんが好きだったはずなのに、今はそれがなんだか面白くない。
「はぁ……ほんとにどうしちゃったんだろ」
しおりお姉ちゃんを誰にも取られたくない。そんな本物の姉妹のような独占欲が芽吹いているのを実感した。どこの馬の骨ともわからない輩にお姉ちゃんを渡すわけにはいかない、みたいな独占欲が。
それだけしおりお姉ちゃんのことを大切に想っているという証でもあるのだろうけど、この気持ちとは早めに決別しておいた方がいい気がする。なんとなくだけど。
「うーん……今日は肉じゃが作ろうかな」
とにかく今は、このモヤモヤをどうにかしたい。ということで私はしおりお姉ちゃんがくれたスイーツとメッセージの紙を冷蔵庫にしまってから、夕食の準備に取り掛かった。
「ふぅ……」
夕食を終えてお風呂も済ませた私は、自室で物思いに耽っていた。あれから時間が経って少し気持ちが落ち着いたけど、しおりお姉ちゃんに対する気持ちは収まっていない。それどころか今日の出来事やしおりお姉ちゃんのメッセージを見てから、より強く意識するようになってしまった気がする。
「ん……?」
寝転びながらスマホをぼーっと眺めていると、ひすいさんからメッセージが届いていることに気づく。
【今通話したい気分なんだ。かけてもいいか?】
「相変わらず自由な人だな……」
まるで私の状況を見計らったかのようなタイミング。私は気は乗らなかったものの、ひすいさんにはお世話になったからと思い了承の返事をする。するとすぐに通話がかかってきて、私は通話に出るためにスマホを耳に当てた。
『あー……突然すまんな』
「いえ、というか突然なのはいつものことじゃないですか」
『む。それもそうだな』
私の悪態にひすいさんは軽く笑い声を上げる。こういうやりとりは、私がひすいさんのことを嫌いになれずにいる理由のひとつでもあったりする。
「それで、今日はどうしたんですか?」
『いや、なに、この前の料理対決の反響がよかったのでな。またコラボでもしたいと思ったのだ』
「そういうことでしたか」
『うむ。ダメか?』
「いえ、いいですよ。ひすいさんと一緒なら楽しいですし」
『そうか……お前と話してるとなんだか落ち着くな』
ひすいさんは急にしみじみとした口調でそう呟いた。思わずドキッとしてしまったのは秘密だけど、なんだか少し気恥ずかしくなった私は少しおどけたように返事した。
「えー? なんですかそれー? 口説いてるんですかー?」
『そういうつもりではなかったが……そう捉えてくれてもいいぞ?』
ひすいさんは試すような口調でそんなことを言ってくる。私は息を呑んで返事を考えた。
「……いえ、やめておきます。ひすいさんならいくらでもいい相手がいるでしょうし」
『おぅ……丁重に断られてしまったな』
ひすいさんの苦笑混じりの声が画面越しから聞こえてくる。さすがに本気じゃなかったらしく『それは置いといて』と続けてきた。
『……それで、その、もし我の発言が気に触ったのなら申し訳ない……という話をしたくてな』
「え? なんですか急に」
『いや、この間我がしおりの高校時代について話しただろう? その後から君の様子がおかしいから気になってたんだ』
「あー……」
やっぱり気づかれていたか。ひすいさんはなかなか鋭い人だし、気づかないわけがないと思っていた。だけど、こんなことで心配してもらうのも申し訳ない。
……でも、ここで変に嘘をついても余計に気を使わせそうだと思った私は、正直に答えることにした。もしかしたらひすいさんに変なやつだと引かれるかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。そんな心配も確かにあった。
でも、それ以上になぜかひすいさんには本当のことを言ってしまいたくなったのだ。なんでだろうか。その気持ちに突き動かされるかのように私は口を開く。
「実は……しおりお姉ちゃんの中で、ひすいさんの存在がかなり大きいことがわかりまして……そのことがどうにも気にかかってしまい……」
『ほう……?』
「仲がいいのはいい事だと思います。でもなぜかモヤモヤして……それで今ちょっと悩んでいるんです」
『ふむ。我としおりが仲が良いと、なぜ君が悩むのだ?』
「だってひすいさんはしおりお姉ちゃんにとって特別な人ってことじゃないですか」
ひすいさんはしおりお姉ちゃんの高校時代を一番知っている人だし、お互いの孤独をお互いだけで埋めていた。そんな人が特別じゃないわけないだろう。
『なんだかめんどくさい彼女みたいだな』
「うっ……自分でも自覚してることを改めて指摘しないでください……」
ひすいさんは冗談のようにあっさり口にするも、そこ言葉は今の私に深く突き刺さった。でも、ひすいさんはそんな私の反応が面白かったのか、ククッと軽く笑ってから言葉を続けた。
『それくらい大切に想える存在がいるのはいいことじゃないか』
「それはそうですけど……」
『我としおりは確かに特別な間柄だったかもしれない……でもそれは高校の時だけだ。君も我らが再会した時しおりに『誰?』って言われてたのを見ているだろう』
それはただ単に高校時代と今のひすいさんのキャラというか性格が違いすぎていただけなのでは。と思うものの、それについては口に出さないようにする。
ひすいさんの言うことは一理あるけど、それでも心が納得してくれないのはなぜだろうか。いや、わかってるんだ。いくら頭でわかっていても心はそう簡単に追いついてくれない。
そんな私の心中を察してか、ひすいさんはいつものようになんでもないように言う。
『今度我とデートしないか?』