【今回のけーひすの歌みたも最高だったー!】
【二人の歌声まじで相性良すぎ!】
【今までけーまり派だったけどけーひすもいいな】
恒例になった月イチの歌ってみた投稿。それも、今をときめく音楽クリエイターと人気急上昇中のVTuberのタッグ。話題にならない筈もなく、SNSでは既にトレンド入りしている。
動画のコメントもたくさんついていて、一大コンテンツになりつつあった。元々『潮目まりん』とのカップリング――『けーまり』を求められる声が多かったのだが、最近では『けーひす』というジャンルがリスナーの中で熱いらしい。
『……という声を多くもらっているよ。我も誰かとカップリングされる日が来るとはね』
「へぇぇ……みんな活動者同士が絡んでるの好きなんですかね」
歌ってみたの投稿とともに恒例になった通話の中で、ひすいさんからその話題が出た。歌ってみた動画の伸びがいいとかその影響で私たちをカップリングする動きが出ていることとか。
『我は君以外と組む気はないよ』
「またまたぁ。ひすいさんなら引く手あまたでしょうに」
『我は君の歌声が気に入ったのだよ。だから、君と歌いたい』
「……っ」
ひすいさんはこういう恥ずかしいことを平気で言うから困る。顔が見えないから、余計に心臓に悪いし。
でも、ひすいさんは私の歌声を気に入ってくれた。だから、私と歌いたいって言ってくれる。それは素直に嬉しかった。
私はこの活動で、自分の声の価値を知った。そして、その価値はひすいさんが認めてくれたものだ。
だから、私ももっと上に行きたい。この活動を通じてもっとたくさんの人に歌を聞いてほしいし、あわよくば有名になりたい。そして、ひすいさんと一緒に歌っていきたいと思うようになった。
……まぁ、調子に乗られたら困るから本人には絶対言わないけど。
「ひすいさん、次の歌ってみた投稿はどうします?」
『そうだな……そろそろ配信で絡んでるところを見たいって言われてるから歌ってみた以外のことやってみないか?』
「いいですけど……それじゃあ企画何にします?」
歌枠は歌ってみたを出しているからあまり新鮮味がないと思うし、初めての配信でのコラボが雑談は味気ないし。自分だといい案が浮かばなかったので、ひすいさんに託すことにした。ひすいさんならなにかいい案が思い浮かびそうだ。
『うーむ、そうだね……そうだ、我と君とで料理対決をするのはどうだい?』
「料理対決ですか」
『そう。君は料理が得意だそうじゃないか。なら、我と料理対決をして勝った方が負けた方になにか一つだけ命令できるというのはどうかな?』
「……ひすいさん、料理できるんですか?」
『出来るとも。我に出来ないことがあるとでも?』
「ほんとですか……? まあでも、やるだけやってみましょうか」
正直料理対決とか自信はないけれど、ひすいさんが自信満々に言っているので少し乗ってみることにした。料理配信をしてリスナーに【美味そう】とか【見た目からして綺麗】とか褒められたことはあれど、それを他人の料理と比較してジャッジされたことはないので、リスナーにとっても私にとっても新鮮な企画だ。
しかも、この企画の概要は【どちらの料理が美味しそうか】というもので、リスナーの投票で結果が決まる。今まで見ているだけだったリスナーが直接関わることができるというのはとても喜ばれそうだ。
『では、我は料理対決の日程を調整しておこう。日程が決まったら連絡をする』
「わかりました」
ひすいさんはそう言って通話を切った。私も通話を切り、スマホをベッドに放り投げる。そしてそのまま自分もベッドへダイブした。
「料理かぁ……何作ろうかな……」
ベッドの横に置いてあるレシピ本に手を伸ばして料理のページをパラパラとめくる。しおりお姉ちゃんやまりに料理を振舞っているから味には自信あるけど、配信映えするかどうかは話が別だ。正直、料理配信でも配信映えしているかどうかわからないし。
「はぁ……やるだけやってみよう」
やる前からあれこれ考えても仕方がない。ひすいさんとコラボできるという高揚感を胸に、私はレシピ本を閉じた。
【けーひすで料理対決やるらしいぞ!?】
【まじでけーひす熱くね!? 推すわ】
【食べさせ合いとかだったらもっと嬉しかったけどそういうのは難しいのかな】
ひすいさんと料理対決をするということが告知されたつぶやきに、様々な意見が寄せられる。私とひすいさんの組み合わせは案外受けがいいらしく、反応がどんどん増えていく。
今までけーまり派だった人達もけーひすの虜になっているようだった。新鮮な絡みの方に食いつきたくなる気持ちはわからないでもない。
「まあ、私は私でまりんともひすいさんとも仲良くしていくけどね」
だけど、一方でまりんとの絡みを【けーまり冷めた?】とか【まりんちゃんはママとのカップリングの方が萌える】とか言われることが多くなってきた。最近もずっと変わらず仲良しの絡みを見せているというのに。
確かにあの伝説の配信であるママ(しおりお姉ちゃん)登場の回は衝撃が強すぎたのだろうけど。あの時のしおりお姉ちゃんとまりの掛け合いが、リスナーの中でとても印象に残ったらしく【ママとまりんちゃんの絡みをもっと見たい!】との声が多くなっていた。
「そのせいで【けーまりは終わりか】とか言われても困るんだよねぇ……」
元々まりは私のものでもなんでもないのだが、なんとなく寝盗られた気分だ。まりは大事な相方で、VTuber活動にもリアルの関係にも欠かすことのできないパートナーだ。そんな大切な相方を簡単に手放せるほど私は薄情な人間じゃないし、これからもまりと一緒に活動していきたい。
だから、彼女との絆が壊れることがないように頑張りたいのだが……この界隈は思った以上に複雑なようだ。
「ま、気にしすぎても仕方ないか」
まりとはこれからも上手くやっていくつもりだ。私もまりも、お互いのことが大好きだから。この界隈で何を言われようと気にする必要はない。