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第75話 どっちが好きか!

「ん〜〜! 肉汁たっぷりで旨味がすごいわ!」

「この特製デミグラスソースもやばいね。よくこんなの即興で作れるね?」

「まあ、小さい時からお母さんがいっぱいいいもの食べさせてくれたり一緒に作ろうかって言ってくれる人だったからね」


 私のお母さんは割とグルメだと思う。市販では物足りず、気に入るものがないのなら自分で作ってしまおうとするくらいには。その影響もあって、だんだん自分でも料理を作る回数が増えていった。


「かなのお母さんはすごいのね」

「いやいや……その分こだわりも強いから自分で作っても気に入らなければ食べないってことも多かったし」

「あはは、かなちゃんのお母さん面白い人だね」


 しおりお姉ちゃんの言う通り、傍から見るとお母さんは面白い人なのだろう。私のお母さんは小さな頃から私を甘やかしてくれていて、そして誰よりも厳しくしてくれた。今思えばそれは私のためを思ってくれていたのだと思う。

 そんなお母さんには感謝してもしきれないし、私には勿体ないくらいの素敵な母だ。


「お、そろそろこっちも出来上がったみたい」

「えっ、シチュー!?」


 シチューなんていつの間に作ってたの、と驚いているまりとしおりお姉ちゃんを横目に私はシチューをよそう。さすがにハンバーグだけだと味気ないなと思って少なめながらも作っていたのだが、二人とも期待の眼差しでシチューを見つめていた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、かなちゃん」

「シチューで野菜も採れるからいいわね」


 二人は「いただきます」と声を揃えてシチューを口に入れる。しおりお姉ちゃんは普段料理をしないから、いつも通り感動していた。まりはというと、想像以上に美味しかったのか黙々とシチューを次々口に運んでいた。喜んでもらえたようで何よりだ。


「おかわりいる?」

「お願いしていいかしら」

「かなちゃん、ボクも欲しいな〜」

「はーい」


 二人の器を受け取ってシチューをよそう。そして、それぞれの前に差し出すと二人は喜んで受け取ってくれた。

 それにしても本当に美味しそうに食べるしおりお姉ちゃんを見ているとなんだかこっちも嬉しくなってくる。まりもそうだけれど、自分の作った料理を喜んで食べてもらえるというのはなかなか嬉しいものだ。

 こんな風に喜んでくれる人がいる限り、私は料理をやめないだろう。作っているだけでもちょっと楽しいし。


「はぁぁ……やっぱりかなちゃんのご飯はいいねぇ」

「かなが料理得意なのは知ってたけど、まさかここまでとは……」

「あはは、ありがとう」


 どうやら二人はお腹も満たされて満足したようだ。たくさん食べる二人を見ていたら私もつられて食べすぎてしまった気がする。まあ、二人の分だったと思えばいいかと自分に言い聞かせた。


「また食べたかったら言って。いつでも作るから」

「ほんと? じゃあまた作ってほしいな」

「私もお願いしようかしら」

「うん、いいよ。でも、しおりお姉ちゃんは自分でも作れるようになろうね」

「うっ……」


 しおりお姉ちゃんは痛いところをつかれたようで、苦しそうな声を出す。苦虫を噛み潰したような顔に、まりと二人で笑い合う。こうして、三人での楽しい時間は過ぎていった。

 ご飯が終わるとそれぞれで自由にくつろいでいたのだが、しおりお姉ちゃんとまりがなにやら言い合っている声が聞こえてきた。


「あたしの方がかなのこと大好きよ。昼休みはいつも一緒にお弁当食べてるし、移動教室も二人っきりだもの」

「ボクの方が好きって思ってるけどなー。小さい時から付き合いあるし、かなちゃんの頭いつもなでなでしてるし」

「なっ、なでなで!?」


 ……どうやら私が介入するとややこしくなる話をしているらしい。今のところしおりお姉ちゃんが優勢らしく、まりの顔が険しいものとなっている。笑っていた方が可愛いのに。


「あー、そういえば一緒にお風呂も入ったっけ」

「お、おおおおお風呂!?」

「肌もすべすべで気持ちよかったなー」

「肌!? さ、触ったの!?」


 しおりお姉ちゃんが爆弾を投下したせいでまりの顔が真っ赤になっている。いやらしいことは何もしてないのに、なぜかいやらしく聞こえるのはなんでだろうか。

 ……というか、しおりお姉ちゃんの言い方が誤解を招くような言い方なだけだと思うけど。しおりお姉ちゃんは昔からこういうところがあるから困る。天然でやっているのか計算なのか、未だに分からない。

 でも、そんなしおりお姉ちゃんに振り回されるのも嫌いじゃない自分がいたりする。まりはもう瀕死状態のようだけど。


「か、かなの裸……いえ、しっかりしなさいあたし。み、見たいだなんて思ってはだめよ……!」

「まりちゃん、鼻血出てるよ」


 しおりお姉ちゃんは笑いながらもティッシュでまりの鼻元を拭いていた。私はそんな二人を見て、なんだかんだ言い合っても仲がいいんだなと改めて思うのだった。


「あの……しおりさん? もしまたかなと一緒にお風呂に入る機会があれば動画か写真を撮ってもらっても?」

「ほう……? なにを出してくれるのかな?」

「ふっふっふ、きっとしおりさんが気に入るものですよ」

「いいねぇ。ノッた」

「交渉成立ね」


 私抜きでなんて話をしているんだ。というか、しおりお姉ちゃんも悪ノリしすぎ。まりは一体なにを考えているのやら。まあ、そんな二人だから私も一緒にいて楽しいのだけれども。

 だけど今の二人は近寄りがたい。近づいたらそのまま食われそうだ。……色んな意味で。


「あ、かなちゃん降りてきてたんだ」

「え? あ、う、うん」


 そのまま気配を消してようかと思ったが、目ざとくしおりお姉ちゃんに見つかってしまった。これでは逃げられない。


「あー、もしかしてあたし達うるさかったかしら? ごめんね、かな」

「いや、別にいいけど……」


 確かに二階にも届くほどの大音量ではあったけど、そこは別に気にしていない。それよりも話の内容が気になって身震いが止まらない。しおりお姉ちゃんもまりもそんな私を不思議そうに見ていた。いや不思議なのはこっちなんだけど。


「あー、もしかしてさっきの話聞いてた?」

「えっ!? い、いや!? 聞いてないよ!?」

「かなちゃん、嘘つくの下手だね〜」

「う……」


 しおりお姉ちゃんにあっさり見破られた私は何も言えなくなる。というかなんで私がこんなに動揺しているのだろうか。別にやましいことなんてないのに……


「まあ、そういうことだから」

「へ?」


 まりがよく分からないことを言い出したので、思わず間抜けな声を出してしまう。どういうことなのだろうかと首を傾げる私を見て、まりはなぜか満足そうな顔をしていた。そして、そんな私たちをしおりお姉ちゃんはニヤニヤしながら見ているのだった。


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