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第41話 ゼブラショップデート

「はぁ……さすがに疲れたぁ」


 朝から全力疾走をすれば疲れるに決まっているのだが、それとは別に精神面で疲れていた。というのも、昨日のホラゲー配信でSAN値やら尊厳やらを色々持っていかれた気がする。まりんがテンション高く私を振り回していたのも疲れの原因だろう。きっとまりんの方はぐっすり眠れたんだろうな。


「くそぅ……私がもっと強ければ!」


 ホラーがよわよわなんて弱みは、きっとこれからもおもちゃにされるに決まっている。ここで一つ、私は名案を思いついた。

 そもそもホラーが苦手だという弱点をなくせばいいのだ。そもそもホラゲー配信などしなければいいと思われるかもしれないが、それは私のプライドが許さない。じゃあどうすればいいのか。私は考えた末にひとつの答えにたどり着いた。

 そう! ホラー耐性をつければいいんだ! そうすればホラゲー配信も心置き無く出来るようになる! ……問題はその方法だ。どうすれば耐性がつくかなんてまるでわからない。


「……どうしたのよ。随分息が上がってるじゃない」

「まり!」


 考え込んでいると、待ち合わせをしていた本人とばったり出くわす。今日はまりに誘われて一緒に遊ぶことになっていた。危うく待ち合わせ時間に遅刻しそうになっていたけど、間に合ったようでよかった。


「今日はゼブラショップに行くんだっけ?」

「そうよ! なんとしても手に入れたい新作があるんだから! かなにも手伝ってもらわなきゃ!」


 ゼブラショップとは、その名の通りゼブラ……つまりはシマウマグッズ専用のショップだ。ゼブラ柄のシャツやクッション、シマウマのキーホルダーにぬいぐるみなど、可愛いシマウマグッズが所狭しと並べられている。誰向けのショップなのだろうと思うも、まりの入れ込みようを見ているとこの子のためだけにあるのではないかと錯覚してしまう。


「にしても、本当にシマウマ好きだね」

「ええ。大好きよ! シマウマはこの世で最も可愛い動物なのよ!」


 まりは目を輝かせながら熱弁する。シマウマは可愛いか……と私はふと考える。たしかにシマウマは可愛い動物だ。ぷくぷくしたつぶらな瞳、のんびりした佇まい、そしてなによりシマウマ柄のあの独特な模様……どれもがキュートで愛らしいと思う。

 だけど、そこまで狂ったようにハマるほどの魅力があるかと言われると……わからない。私は今までにゼブラ柄のなにかを身につけたことは一度もない。それに、シマウマ自体にもそれほど興味があるわけでもない。


「うーん、犬とか猫ならハマる気持ちわからなくもないけど……」

「え!? かなはあいつらの味方なの!?」

「あいつらって……当たり強すぎでしょ」


 犬や猫をそんな風に呼ぶのはまりくらいだろう。一体なにがまりをそうさせるのだろうか。シマウマへの愛が強すぎやしないだろうか。


「まあいいわ。とにかく早く行くわよ!」

「ちょっ! 引っ張らないでよ〜」


 私の意見は無視され、まりは私の手を引いてゼブラショップへと駆け出した。

 ゼブラショップは、シマウマのキーホルダーやぬいぐるみなどが所狭しと並んでいる。まあ、予想どおりな内装だ。


「まりはなんか買うの?」

「そうね……あ! あれ可愛い!!」


 可愛いものを見つけるとすぐに駆け寄っていくまりを後ろから眺める。シマウマグッズを目の前にしたまりは本当に嬉しそうだ。私はシマウマグッズにあまり興味はないけれど……まりの幸せそうな笑顔を見ていると、自然と私も幸せな気持ちになってくる。


「かな! 見てこれ!」


 まりが見せてきたのは、シマウマのキーホルダーだった。キーホルダーには小さな鈴がついており、揺らせばちりんちりんと音が鳴る。


「可愛いね。それ買うの?」

「もちろん! かなにもプレゼントしてあげる」


 そう言うと、まりはシマウマのキーホルダーをひとつ手に取って、私に渡してくれた。まさか自分にくれるとは思わなかったので少し驚いてしまった。


「え、いいの?」

「いいわよ。せっかくだしお揃いにしましょ」


 まりはそう言うと自分のバッグにキーホルダーをつけた。私もそれにならって自分のバッグにつける。お揃い……なんだか照れくさいような嬉しいような……不思議な気持ちだった。


「かな、あたし喉乾いちゃった。近くのカフェに行きましょ?」

「うん、いいよ」


 まりの提案で近くのカフェに入る。急に提案する辺りとことん自由に見えるけど、きっとまりなりの配慮なのだろうと思う。私もちょうど疲れていて休憩したかったのだ。

 カフェの席について注文する。私はコーヒーとケーキを頼み、まりはパフェとアイスティーを頼んだ。注文したものが来るのを待つ間、まりはスマホを取り出してなにかを調べていた。


「何調べてるの?」

「ん? ああ、シマウマの動画よ」

「動画?」


 まりが見ていたのはシマウマの動画だった。どうやらシマウマが草を食べる様子や水を飲む様子を撮影したものらしい。


「可愛いわよね〜。こののんきな感じがたまんないのよ」

「は、はあ……」


 まりの言っていることは相変わらずわからない。でも、なんとなくわかることもある。この動画を見ている限りシマウマは可愛い。まりがハマる理由も、なんとなくわかる気がする。

 ……シマウマか。私は今まで、動物にそこまですごく可愛いとかかっこいいと思ったことはなかった。だけど、まりのハマりようを見ていると、私も少し興味が出てきたかもしれない。


「シマウマ、ちょっと気になってきたかも」

「……本当!?」


 私がそうボソリと呟くとまりは目を輝かせた。そしてすぐに動画を閉じてから、私にまたスマホの画面を見せてくる。その画面にはシマウマの画像がたくさん並んでいた。


「これとか可愛いでしょ? これも! あ、これも!」

「わ……わかったから落ち着いて……」


 まりは興奮しながらいろんなシマウマの画像を出してくる。その様子に圧倒されながら、私はひとつ確信する。

 シマウマは確かに可愛い。それは、まりのハマりようを見ても明らかだ。だけど……それと同じくらいに、好きなものを語っている生き生きしたまりも可愛いということに。元々まりは可愛いのだけど、シマウマのことを話すまりは普段よりもキラキラして見える。


「かな、どれが好き?」


 どれが好き、か。正直私はシマウマにそこまで興味はない。だけど、あえて言うなら……


「……まり」

「え?」

「まりが好き」


 シマウマを可愛いと語り、嬉しそうにしているまりは……とても可愛かった。だから私は、まりの好きなシマウマよりも、まりのことを好きになりたいと思った。


「かな……」

「……って! い、今のはその! 違うから!」


 我に返って自分が何を口走ったか理解する。そして一気に顔が熱くなった。きっと今私の顔はとても赤いだろう。そんな私を見て、まりにも熱がうつったのか同じように顔が赤くなった。


「きゅ、急に変なこと言わないでよね!」

「ご……ごめん……」


 私の失言のせいで、お互いしばらく顔を真っ赤にして黙ってしまったのだった。


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