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第39話 まりんが見守ってくれるホラゲー

「はじまりかめん〜! 今日もまりんちゃんとのコラボになります! 今日は私の枠で私の苦手なホラゲーを見守ってもらおうと思うよ!」

『はじまりかめん〜! みなさんどうですか、この挨拶。あたしが考えたんですよ』


 私とまりんは笑顔で挨拶を済ませる。リスナーたちは私とまりんのコラボというだけでものすごく盛り上がってくれている。【けーまりきたぁぁぁ!】【二人推してるから助かる】【はじまりかめんって挨拶天才か?】などなど、テンションの高いコメントがたくさん流れていく。

 ゲーム実況者は固定のリスナーがつきやすい。それはゲームという共通の趣味があるからだろう。そして、そのゲームに合った声質やトーク力などが求められるためだ。私とまりんはその辺は上手くできているかわからない。だけど、相性だけで言えば最高だと思う。


「まりんちゃん、今日のゲームはアレだよ。『桜の木の下には死体が埋まっている』って知ってる?」

『それ知る人ぞ知る名作ホラゲーじゃないですか! やりましょうやりましょう!』


 桜の木の下には死体が埋まっているという作品はホラーゲームの中でも少しマイナーな作品だ。しかも、その作品に出てくるのはヒロインである女子高生だけ。怪物と戦うようなアクション要素もないし、鬼ごっこのような逃げる要素もない。

 だけど、このゲームには独特の世界観とストーリーがある。びっくり要素も少なくて、どちらかというと謎を解いて真相を探っていくという推理要素の強いゲームだ。


「まりんちゃんはホラゲー大丈夫なんだっけ?」

『そうですね。怖いものは平気な方です。全裸の幽霊とか出てくると興奮しますよね』

「……何言ってるの?」


 まりんちゃんの性癖には触れないようにして、私たちはゲームを開始する。オープニングムービーが始まったところで、私はまりんとリスナー達に今日の目的を説明しておく。


「今回やる『桜の木の下には死体が埋まっている』ってゲームなんだけど、実はこのゲーム……隠しエンディングがあるらしいんだよね」

『そうなんですか? それはなんとしても見つけたいですね』


 オープニングムービーが終わり、タイトル画面に移行した。そして、私が決定ボタンを押すとゲームが始まる。


「まりんちゃん、絶対に私の傍を離れないでね……」

『わかりました。というかそんな念押ししなくても大丈夫ですよ。どこにも行きませんから』


 ゲームを始めたことで恐怖が芽生えてきた私と違って、まりんは冷静そのものだった。その態度が頼もしく見える反面、ちょっと悔しかった。私だけ必要以上に怖がってるみたいで、なんか納得いかない。

 ゲームは桜の木が咲き誇っている広場でヒロインが目を覚ますところからはじまる。ホラゲーと聞いていたから夜遅くの暗闇をイメージしていたが、どうやら明るい時間帯らしい。


『このゲーム、昼間なんですね』

「そうみたいだね。だんだん暗くなってくのかな?」


 私はそう言いながら辺りを見回した。すると、桜の花びらが散る木の下で座り込んでいる男性を見つけた。彼は茶髪に黒のジャンバーを着ているという地味な格好をしているが、その目は虚ろで生気がなかった。


「ねえ、まりんちゃん……あれ」

『え?』


 二人でその男性のいる方を凝視する。彼は私たちが見ていることに気がついたのか、こっちに顔を向けた。


「ねえ、あれ……人だよね」

『そう……みたいですね』


 その男性は私たちに向かってゆっくりと近づいてくる。私は思わず操作する手が震えた。すると、彼は私たちの前で立ち止まり、口を開いた。


《桜の木の下には死体が埋まっている……》


 その男性の口から出てきたのはそんな一言だった。そして、彼はそのまま桜の木の下まで歩いていくと、そのまま木の下に横たわって動かなくなってしまった。

 私とまりんはその光景を呆然と見ていることしかできなかった。何が起きたのだろう。何もわからない。


《桜の木の下には死体が埋まっている……》


 さっきの男性は木の下でそう呟きながら私たちに手招きをした。よく見ると、彼の体は傷だらけで着ている服もボロボロになっていた。


《桜の木の下には死体が埋まっている……》


 何度もその言葉を繰り返す男性に私は恐怖を感じた。これは絶対になにかあるやつに決まっている。男性は私たちに手招きをしたまま、同じ言葉を繰り返している。まりんもさすがに恐怖を感じているようで何も言わなくなっていた。


「まりんちゃん……これ、絶対おかしいよ」

『そ、そうですね。早く終わらせちゃいましょう……』


 私は震える手を抑えながらゲームを進めた。そして、その広場を後にして桜の花びらが舞い散る道を進んでいく。道の両脇に咲いている桜の木はどれもこれも満開でとても綺麗だった。

 そんな綺麗な桜を見ていると落ち着いてきて、ようやく思考が追いついてくる。このゲームはヒロインの女子高生だけが登場するはずだ。ゲームの説明にちゃんとそう書かれていたし、何度も確認したから間違いはないはずだ。それなのに、さっきの男性は何だったんだろうか。


『なんかすごく不気味なゲームですね……感動作って聞いてたのに……』

「うぅ、まりんちゃん助けて……」

『ふぁいとですよ、けーちゃん! これのプレイ時間そんな長くないですし』


 まりんはそう言ってくれるが、私はホラーゲームにそんな慣れていない。それに、この不気味な感じはホラゲーの特徴だ。下手したらもっと怖くなる可能性だってある。

 そんな恐怖を抱えたまま道を進んでいくと、大きな桜の木が見えてきた。そして、その木の下に行くと、ヒロインの女子高生が座って桜を見上げる体勢に入る。


『おお! なんかすごい演出ですね!』

「う、うん。そうだね……」


 まりんは興奮しながらそう話すが、私はそんな気分にはなれなかった。だってこの桜の木の下に死体が埋まっているってさっき言われたばかりなのだ。しかも、あの男性は手招きをしたまま動かなくなっていたし、絶対に何かあるに決まっている。

 そして、その予想が現実のものとなる。ヒロインの女子高生が桜を見上げていると、その木が急にミシミシと音を立てて揺れ始めたのだ。


「なに、これ……?」

『おおっ! ついに来ますか!?』


 まりんは興奮しているが私はそれどころじゃない。ホラーゲーム特有の演出とはいえ、この不穏な感じはどうしても苦手だった。そして、その嫌な予感は的中して桜の木の枝が折れてヒロインに向かって倒れてくる。


「いやああぁぁぁぁ!」


 私は悲鳴を上げた。すると、その瞬間にゲームの画面が真っ暗になる。どうやらこれでプロローグが終わったらしい。つまり、本番はこれからということだ。


『けーちゃん! 次のステージに行きます……か?』

「も、もう無理……なにこれ……聞いてた話と違う……」


 私は恐怖のあまり、ギブアップを宣言する。すると、まりんはため息を吐いて言った。


『ギブアップですか? まあ、こういうゲーム苦手ですもんね』

「う、うん……」

『でも……もうちょっとだけ頑張ってみましょうよ。あたし、けーちゃんの頑張る姿見たいなぁ……』


 まりんはそう言ってあざとく甘えたような声を出す。私はそんなまりんの言葉に少しだけ勇気をもらった気がした。そして、その恐怖に負けずにゲームを再開させることにしたのだった。


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