【新人VTuber潮目まりん、まさかのデビュー三日で謝罪会見!?】
というインパクトのあるニュースが広まるのは実に簡単だった。まりんも私に負けず劣らず話題性が高い。私と同じモデラーさんに体を作ってもらっているというのもそうだけど、〝まり〟自身のポテンシャルが高いためだろう。あの暴走もエンタメとして考えればこれ以上ないパフォーマンスだろう。
ぶっちゃけ言うと、私はまりんの発言に怒ってるわけでも恨んでるわけでもない。ただ、ちょっと心配なだけだ。
まりんは私と違って、まだ新人だ。これからの活動を見据えて活動するのであれば、あの暴走がマイナスイメージに働くことは避けられないだろう。肯定的なリスナーもいるだろうし実際見たけど、あれが続くと私とまりんが不仲というイメージを持たれてしまうことになりかねない。それは困る。
まりんが今後どのような活動をしていきたいのか、私にはわからない。でも、私はこの界隈で楽しく活動していきたいと思っているし、そのためにはファンのみんなから応援されるようなVtuberになりたいとも思っている。だから、この状況を利用しようと思った。
『あの、本当にいいんですか? あたし……また配信だと何言い出すか……』
「大丈夫大丈夫。もしそうなったとしても、それはそれで面白いから」
私はまりんをコラボに誘い、今は打ち合わせも兼ねて通話している。謝罪会見というのは嘘……というか企画だ。私もコラボは初めてだから上手くいくかは正直賭けだ。だけど、自分のためにもこの機会を逃すわけにはいかない。
「お、もうすぐ時間だね。じゃ、打ち合わせ通りやろう」
『はい!』
コラボ開始予定時刻になる。今日はまりんの枠で配信するので、枠の開始はまりんに合わせるしかない。少しの間オープニングが流れ、その後にまりんが真剣な表情で画面に姿を現した。
『あー……みなさん、こんばんは。潮目まりんです』
挨拶の挨拶をするまりん。ちょっと緊張しているようだけど、これならなんとかなりそうだ。私は少し安心しつつ、マイクのミュートを外さないように注意する。
『この度は謝りたいことがあり枠を取らせていただいた次第でございます。初配信でけーちゃんことイニシャルKさんに不適切な発言をしてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした』
そう言って、まりんが深々と頭を下げる。コメント欄は騒然としていて、まりんに対する応援コメントもある。でも一方で、やはり私との不仲を疑っているようなコメントもちらほら見受けられる。
私はコメント欄を見ながら、タイミングを計る。そして、まりんが頭を上げて申し訳なさそうな表情をしたのを見てからマイクのミュートを解除する。
「みなさん、こちらでははじめまして。イニシャルKと申します」
【けーちゃん!?】
【なんでけーちゃんが?】
【謝罪にけーちゃん乱入w】
「あ、いや、乱入ってわけじゃないんだけどね……」
『えっと……けーちゃんがあたしの枠に来てくれました。やはり謝罪するなら直接でないといけないなと思いまして』
まりんがそう言うと、リスナーたちは更にコメント欄を加速させる。戸惑いの声がたくさんあり、想定内の反応ばかりだ。私はまりんに目配せをする。まりんもそれを察して頷いた。
『本当にすみませんでした。あたし、ほんとに考えなしで……』
「いいのいいの。気にしないで。そんなに謝ってくれるなら次からは気をつけてくれるでしょ?」
『それは、はい。もちろんです』
「ならいいよ」
私はコメント欄を見ながら、リスナーからの反応を伺う。ほとんどが祝福ムードでまりんと私の不仲を疑うような声は減っていた。
このコラボは、まりんの謝罪が目的じゃない。私とまりんの不仲疑惑を払拭させてリスナーたちにも安心感を与えるのが目的だ。そしてあわよくばてぇてぇしたい!
そのために、私はまりんの謝罪を受け入れるような態度を取った。決して怒っているわけじゃないと視聴者に伝えるために。まあ、本当に怒ってないんだけど、わかりやすいようにテンションをわざと上げたりはしている。
『……あの、けーちゃん』
「ん?」
『あたしとまたコラボしてくれますか? 今度はこういう形とは違うコラボしたいです!』
「もちろん。私もまりんちゃんとコラボしたいなって思ってたし」
『ほんとですか!? やったー!』
まりんが嬉しそうにはしゃぐ。この反応にリスナーたちは更に盛り上がっているようだった。まりんとの不仲疑惑を払拭し、てぇてぇを供給することにも成功した。
私の目論見は成功したと見ていいだろう。正直、まりんが本当に反省しているかなんてわからない。でも、そんなことはどうでもよかった。このコラボをすることでまりんと仲良くなれるならそれでいい。私はそう考えていた。
『エロゲとか興味ないですか? 今度一緒にプレイしましょうよ〜』
「あんた全然反省してないじゃん」
私は思わずツッコミを入れてしまった。そんな私たちの掛け合いが楽しいのか、リスナーたちがコメント欄で盛り上がっている。
まりんは反省しているように見せつつも、私との仲をアピールするような発言をちょくちょく入れてきた。そのおかげで、私の疑惑も完全に払拭されたようだし、リスナーたちも私たちのやり取りを見て楽しんでくれている。
このコラボは大成功だったと見ていいだろう。私はそう確信して、次のコラボに想いを馳せた。まりんは知らなくとも元々リア友だから相性に関しては問題にしてなかったけど、ここまでうまくいくとは。私はまりんに感謝しつつ、今後の活動についても考えるのであった。
『……今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったし、おかげさまで今後も活動していけそうです!』
「私は何もしてないよ。上手くいったのはまりんちゃんが頑張ったからだよ」
配信が終わり、まりんとの通話で反省会兼雑談をしている。このコラボは成功に終わったと言えるだろう。これでもうまりんを責め立てる人はいないと思うし、私のところにも度が過ぎたコメントは来なくなるだろう。
『いや~……でもけーちゃんがいなかったらあたしどうなってたか……』
「大袈裟だよ」
私は笑いながら言う。まりんは私に対して恩義を感じているようだ。でも、私は私がしたいことをしたに過ぎない。だから感謝も謝罪もいらない。
「ね、まりんちゃん。これからもコラボしようよ」
『え? ほ、ほんとにいいんですか? ドッキリとかまだ台本続いてるとかじゃないですよね?』
「もう配信終わってるんだから嘘なわけないじゃん。私たち……うん、友達で家族でしょ?」
私はそう言う。確かに初配信で暴走したのはいただけないけど、私は結構気に入ったし仲よくしたいと思ってる。だからこれからもコラボして仲良くなりたいなと思っていた。
『……ありがとうございます! あたし、けーちゃんとなら上手くやっていけそうな気がします!』
「私もだよ」
私たちは笑い合った。そしてまたいつかコラボをできる日を夢見て、通話を終了したのだった。