「かなちゃん、そろそろまりちゃんのモデル出来そうなんだ」
「はやっ!?」
しおりお姉ちゃんには機材やモデルの確認に来てもらっていたのだが、唐突にそう切り出された。これにはさすがに驚かざるを得ない。私の時もそうだったが、仕事が早すぎないか? 早いに越したことはないけれど、無理をしていないか心配になる。それに、モデリングに対しての誤った知識がつきそうで怖い。
「元々作ってたものに少し加工とか修正加えた程度だからね。こんなもんよ」
「しおりお姉ちゃんどれだけアバター作ってたの……?」
私が知っている限りでも、既に二桁は行っていると思う。それだけの量を作っていれば、モデリング技術も上がるだろう。しおりお姉ちゃんの凄さを改めて実感する。
それにしても、なぜそのことを私に話したのだろう。いくらまりが友だちとはいえ、私に直接関係のないことなのに。もしかして完成したら私にも見せてくれるのだろうか。そうだとしたらちょっと嬉しい。
「あんまり依頼について他の人に詳しく話すのは褒められたことじゃないんだけど……気になるでしょ?」
しおりお姉ちゃんがいたずらっぽく笑って言う。流石は察しがいい。確かにそれは気になることではあるが、それを私に話してしまってもいいのだろうか。でもしおりお姉ちゃんがいいと言うならいいか。
まりのアバターを早く見たいという気持ちは確かだし、ここは大人しく従うことにしよう。私は小さく頷いた。しおりお姉ちゃんが私の反応に満足したように頷く。
「まりちゃんには内緒だよ」
そう口元に人差し指を立てるしおりお姉ちゃん。その仕草がやけに似合っていて思わずドキッとする。しおりお姉ちゃんってたまに小悪魔みたいになるんだよな。
「わかってるよ」
私も同じように人差し指を立てて返事をすると、しおりお姉ちゃんは満足そうに笑った。そしてそのまま話を続ける。
「かなちゃんもまりちゃんのこと応援してあげてね」
「うん。もちろんだよ」
言われなくても、まりのことは応援するつもりだ。まりの頑張りは、誰よりも私が一番近くで見ているのだから。それに、元々VTuberオタクとしてまりには期待しているのだ。今までは私しか活動していなくて推す対象というものがいなかった。だが、こうしてVTuberを始める人が増えてくると、今までとは違う楽しみが出来た。
自分がVTuberになって活動することももちろん楽しいけど、オタクとしては誰かを応援したくなるものだ。まりは努力家だし、きっと私に負けず劣らずの人気を誇ると思う。どんな風に花が開いていくのか、今から楽しみで仕方ない。
「というわけでパソコン持ってきたから見てみる?」
「え、今?」
しおりお姉ちゃんが唐突にそう言って、鞄からパソコンを取り出す。まさかこんなタイミングで見られるとは……
「うん、かなちゃんも気になるって言ってたでしょ?」
「それはそうだけど……出来そうって言ってたからまだ完成途中なんじゃ」
「あー、正確にはあとは細かい調整だけなんだ」
それならそうと言ってほしかった。いきなりで心の準備がまだできていない。しおりお姉ちゃんがパソコンを私の前に置いて、電源をつける。そして画面をこちらに向けた。私はその画面を恐る恐る覗き込む。そこには確かにまりのアバターらしきものが表示されていた。
赤髪で、ツーサイドアップで、私のアバターであるけーちゃんのアイドル衣装と色違いのものだった。まりはけーちゃんに憧れていると言っていたけど、衣装まで似せられると少し気恥しい。でも、アバター自体は可愛いと素直に思える。
「しおりお姉ちゃん、本当に上手いね……」
「でしょでしょ? もっと褒めてくれていいんだよ」
しおりお姉ちゃんが嬉しそうに笑う。流石にこんな短時間でここまで仕上げてしまうのは流石としか言いようがない。でも、本当によく出来ていると思う。これならまりも喜びそうだ。
「すごいけど、これで途中なの?」
「うん、だって渡してないからね」
「……え?」
もしかしなくても、完成していないというのは……
「完成=納品だと思ってる……?」
「? ボクはそのつもりでいたけど」
「えぇぇぇ!」
しおりお姉ちゃんはこういうところある。抜けているというか天然というか、言葉のあやというものをよく生み出している気がする。いやまあ、今回のはそこまで大袈裟に騒ぐものではないと思うけど、私の心がどうにかなりそうだ。だって、アバターが完成したということはまりのデビューが近づいているということになる。ということは私の身バレ危機も同時に高まっているというわけで!
「よし、調整終わった」
「はやぁ!?」
なんだか冒頭と似たような反応をしてしまった。だけどそれほどまでに混乱しているのだ、無理もない。しおりお姉ちゃんの仕事の早さは私が一番知っているけれど、前より進化していているのではないだろうか。
「さて、かなちゃん。感想は?」
しおりお姉ちゃんが悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてくる。少し癪だが、ここで素直に褒めなかったらしおりお姉ちゃんに失礼だろう。私は咳払いをしてから口を開いた。
「可愛くできてると思う」
「……それだけ?」
私の反応に不満なようだ。せっかく素直に言ったのにその態度はないだろうと思うものの、他にどう言えばいいのかわからない。しおりお姉ちゃんの不満そうな視線を浴びながら考える。そしてふと思いついたことを口にした。
「ところでまりのデビューって聞かされてるの?」
「うん。アバター送ったらすぐにでも使いたいって」
「……ん?」
ということは? 目の前にはもう完成されたアバターがあって? それを送ればまりはすぐにでもデビュー? そして気疲れの日々が始まってしまう?
「ちょっと待っ」
「送ったよー」
私の制止も虚しく、しおりお姉ちゃんがまりにアバターデータを送ってしまう。私は直感的に、これからの日々が狂ってしまうであろうことを察したのだった……